村人と魔獣と初めてのお暴力③
「見てください、領主様! ほら、こんなに豊かに野菜たちが実ったんですよっ!」
「おお~……!」
リタに誘われるまま、コロちゃまを屋敷に置いて、畑へと向かった私とクロ。
すると、着くやいなやリタは大喜びでそう言い、野菜畑を指し示したのでした。
そしてその言葉通り、畑には、実に色とりどりな野菜たちが見事に実っていたのですわ。
「まあまあ、あーんな小さかった芽が、短期間でここまで成長しますのねっ! ここまで育ったら、何の野菜なのか私にもわかりますわ。王都で何度も食したことがあるものばかりですもの。それに、色つやもとってもよろしいですわ~!」
そう、緑や赤のそれらは、王都でもなじみ深かった野菜たち。
どれも立派に実っていて、しかも形までよろしいではありませんか。
地面から生えているのを見るのは初めてですけど、たぶんとっても出来がいいのではないかしらっ。
「はあ、壮観ですわ。私はただ薬を作っただけですけど。なんだか、作物を育てるのって達成感がありますわねえ!」
「だけ、なんてとんでもないです! 本当なら、もっとずっと後に、この三分の一の量にも満たない、痩せた野菜しか採れないところなんです。こんな立派な野菜が出来たのは、本当に領主様のおかげですっ。ああ、本当に嬉しいっ……」
なんて、ちょっと目元に涙を浮かべながら、心底嬉しそうに言うリタ。
ほんと、この子も不安を抱えながら、よくここまで野菜たちを世話しましたわ。
「あっ、そうだ。領主様。良ければ、一つお召し上がりになりますか?」
「えっ? こっ、このままでですの……? だ、大丈夫かしら」
「大丈夫ですよ。王都だろうがなんだろうが、結局はこうして田舎で作られた物がそのまま送られているんですから。ちょっと待ってください、今綺麗にしますね……はい、どうぞ!」
そう言って、真っ赤なトマトを一つむしり採ると、桶に入った井戸水で洗って差し出してくるリタ。
いっ、いいのかしら。私、貴族令嬢でしてよ? 切ってもない野菜を手づかみで丸かじりなんて、野蛮でしてよ??
王都の皆様にそんな姿を見られたら、なんと思われることか。
などとためらいつつも、そのパンパンに膨れた真っ赤なトマトがあまりに美味しそうなので、思わず受け取ってしまいます。
表面を伝う水滴までなんだか美しくて、ドキドキしながらそっと口に運ぶ私。
すると、ハリのある、皮のしっかりした食感の後に、柔らかく瑞々しい果肉の味わいが口いっぱいに広がって、私、恥ずかしながら声を上げてしまいましたの。
「うっ……うんめぇですわぁ~……!」
ああ、なんて素敵な味なのかしら。
鮮烈な酸味と同時に、ふくよかな甘さが広がる、この絶妙な味わい!
王都で食したどの野菜より、抜群に美味ですわ~!
「どうしましょう。私、こんなに美味しい野菜、初めて食べましたわ!」
「それは良かったです! へへ、採れたてをお日様の下で食べるのが、一番美味しい食べ方なんですよ。育てた人間の特権ってやつです」
と、嬉しそうに言うリタと、そのまま大きなトマトをぺろりと平らげてしまう私。
ああ、本当に美味しかったですわっ!
なんて私たちが楽しくやっていると、そこで、私が手づかみで野菜を食べるのを白い目で見ていたうちの無感動執事が、無表情でこう言いやがりました。
「では、さっそく売る準備をいたしましょうか」
「早いですわねえ!? もうお金の話!? もう少し、余韻に浸らせてくれてもよろしいんじゃなくて!?」
「時期を誤って、駄目にしてしまっては意味がないので。生鮮品は、出荷タイミングが命。我々には、のんびりしている余裕などないことをお忘れなく」
ううっ、言ってることが正しいのが余計に腹立ちますわ!
「問題は、誰に売りに行ってもらうか、だが」
「あっ、それは信頼できる人がいるので、その人にお願いしようと思っています。何度も売りに行ってくれていて、隣町にも詳しいですし」
なんて、二人で話を進めるリタたち。
ですが……その時。
ふと、視線を感じ、私はそちらに目を向けました。
するとなんと、遠くから、村の老人たちがこちらを見ているではありませんか。
「…………」
「……やだ、なんですの、あの者たち。じっとこちらを睨んでいますわ」
そう、彼らはこちらに、明らかに敵意のある視線を向けてきていやがるのです。
なんだか剣呑な雰囲気で、思わずひるんでしまう私。
すると、やがてひそひそと会話を交わしていた村人たちが、ゆっくりとこちらに歩いてきて。
そしてそれに合わせるように、なんと村のあちこちから、数十人の村人たちが集まってきたではありませんか。
しかもあろうことか、奴らは全員、手にカマやクワなど、武器にもなる農具を手にしているのですわっ!
「なっ、なんですのおまえたち!? ゾロゾロと集まってきて、何のつもりですの!?」
「お嬢様、お気を付けください。尋常な雰囲気ではありません」
思わずビビり散らかして、震えた声で言う私と、そんな私を守るように前に出るクロ。
すると、村人たちは私のことを睨みつけながら、低い声でリタに言いました。
「おい、リタ」
「み、みんなどうしたの? 怖い顔して。見てよ、こんなに立派に野菜が出来たんだよ。凄いでしょ?」
と、ひるみながらも、けなげにそう声をかけるリタ。
だけど村人たちは、そんな野菜を一瞥した後。
怖い顔のまま、こう続けたのでございます。
「……リタ、おめえ。まさか、とは思うが……その畑に、なにか変な物を撒いとらんじゃろうな?」




