村人と魔獣と初めてのお暴力②
「ええ、まあね。正直、面白いですわ」
錬金術が気に入ったのか、と尋ねてくるクロ。
それに私は、口元をぬぐいながら、微笑みと共に答えました。
最初はただ釜をグルグル回すだけの作業だと思っていたのですけれども、手引書を参考してあれこれ工夫を重ねると、明らかにスーパー栄養剤の出来が違ってきたのですわ。
クヌア草をしっかり乾燥させてから混ぜ、さらに庭から新たに見つかった別の錬金素材も混ぜ合わせると、もうはっきりと手ごたえが違う。
しかも混ぜ方にもコツがあり、早さや時間で、かなり出来に差が出ることもわかりました。
正直自分でも、一日中、釜をグルグル回してなにが楽しいのかわかりませんが、とにかく上達していく感覚があって、充実感があるのです。
もうやみつきですわっ。
「スーパー栄養剤一つとっても、こんなに奥が深いなんて思いもしませんでした。ああ、はやく他の錬金術にも挑戦したいですわー!」
「お楽しみで、何よりでございます。ですが、次を作るとしたら、なにか候補はございますのでしょうか?」
「うーん、それなんですのよね。素材がないのはもちろん、次に私たちに必要な物はなにか、いまいちピンと来なくて。手引書には、隅から隅まで目を通したのですけれども」
と、頭をひねる私。
村の発展のために必要なものがなんなのか、どうにも私にはわからないのです。
するとそこで、じっとそばで控えながら話を聞いているコロちゃまに視線が行き、私はこう声をかけました。
「そういえば、コロちゃま。あなた、お食事は? 一度もなにかを食べているところを、見たことがないのですけれども」
「はっ、私は、人間様と同じような食事を必要としておりません。私は内部にあるコアのエネルギーで動いておりますゆえ、それが切れるまでは稼働可能なのです」
「……コア……? エネルギー……? 聞いたことのない言葉が多くて、よくわからないのですけども……。ええと、つまり。コロちゃまは、お腹の中にあるなにかで動いている、それが食事の代わり、みたいな感じかしら。あら、でもそれは有限なのね?」
「はい。当主様がご不在になられてから今日まで、普段は休眠し、たまに起動することでどうにかやってまいりましたが、もはやエネルギーはそれほど残っておりませぬ。今の連続稼働状態ですと、おそらく二年ほどで稼働限界を迎えるかと」
「にっ……二年!? うええっ、それってつまり、コロちゃまとは、あと二年しか一緒にいられないってことですの!? 大変じゃないですのっ! そ、そのエネルギーとやらを増やす方法はないんですの!?」
「はい、一応ございます。偉大なる創造主様が、その製造方法も遺してくださっております。ただ……材料の入手と作成の難度がなかなかに高く、どうにも……」
と、そこで遠慮がちに口ごもるコロちゃま。
えっ……なに、この感じ?
あー、これって、もしかして。
……私にはそんな高等なもの作れるわけない、って、舐めてらっしゃる??
「ちょっとコロちゃま、馬鹿にしないでくださる!? 二年もあるのでしょう、その間に私が錬金術師としてバチクソ成長して、なんぼでもエネルギーとやらを作ってあげますわよ!! 泥船に乗ったつもりでいなさいっ!」
「お嬢様。それを言うなら、大船です。沈む気ですか」
「お黙りッ! いいこと、コロちゃま。私が絶対になんとかします。だからあーたは、私の成長を安心して見ていなさい。いいですわねっ!?」
「はっ、承知いたしました、お嬢様。私ごときの身を案じていただき、恐悦至極にございます」
「うむ、わかればよろしくてよっ! オーホッホッホ!」
そして恭しく首を垂れるコロちゃまと、高笑いをキメる私。
ああ、なんだか燃えてきましたわ。
この村もコロちゃまも、ぜ~んぶ私が救ってあげましてよっ!
なんて朝っぱらから盛り上がっていると、そこで屋敷の表のほうから、大きな声が聞こえてまいりました。
「領主様! いらっしゃいますか!? 領主様ー!」
声はそのままどんどん近づいてきて、やがて村娘リタが裏庭に飛び込んできます。
「あっ、いた! おはようございます、領主様!」
「おはよう、リタ。……しかしあーた、当たり前のように我が家に入ってくるようになりましたわね……」
「えへへ、すいません! あっ、それで、あの、領主様ッ! 良ければ、今すぐ私の畑まで来てくれませんか!? 実は……いよいよ、野菜が収穫できそうなんです!」




