レッツ・お錬金術! ですわっ④
「りょっ、りょっ、領主様ー! たっ、たっ、大変ですーっ!!」
「ぶっ!?」
いきなり我が屋敷に飛び込んできて、そんなことを叫ぶリタ。
ちょうど朝食後のお紅茶を嗜んでいた私は、そのあまりの声量に驚き、思わず盛大にふきだしてしまったのでした。
ああっ、王都から持ってきた、貴重なお紅茶がもったいない……いや、それどころじゃなくて。
「なんですのリタ、いきなり飛び込んできて、大声ではしたない! もう、怒りますわよ!?」
「ごっ、ごめんなさい、領主様! で、でも、大変なんです! 来てください!」
「あっ、ちょっ、ちょっと!?」
「おい貴様、お嬢様になんと失礼なことを!?」
そう言って、私の手を引いて外へと連れ出すリタと、慌ててついてくるクロ。
そのまま村の畑へと連れていかれ、何事かと思っていると、そこでリタは満面の笑みを浮かべ、興奮した様子で言ったのでした。
「見てください! スーパー栄養剤を撒いた土に植えた野菜……なんと、もう、芽が出たんです! しかも、こんなにたくさん!」
もう野菜の芽が出てきた、と嬉しそうに話すリタ。
それで見てみると、たしかに畑からは、小さな葉っぱたちがぴょこぴょこと飛び出しているではありませんか。
それで私ってば、それを見て感動して、思わずこう叫んでしまったのですわ。
「んまあ、これが野菜の芽ですのねっ! 私、初めて見ましたわ~!」
「驚くのはそこですか、お嬢様」
「えっ……。だってしょうがないじゃないですの、クロ。王都じゃ見る機会なんてなかったんですもの。というかリタ、三日で芽が出たのはそんなに凄いことなんですの?」
「凄いなんてもんじゃないですよっ! 普通は、この村の痩せた土地じゃ、芽が出るまで早くても一週間はかかるんです! それに、芽が出てくれるのは良くて半分ぐらいで、それも貧弱な芽ばっかりだったんです。それが、こんなに青々と、ほとんど全部が育ってきてくれるなんて……ああ、まるで夢みたい!」
と、異様に興奮した様子でまくしたてるリタ。
正直私にはまるでわかりませんけど、普段から農業をやっているリタにとっては、とても驚くべき事なようですわ。
「えっと。つまり、とりあえずスーパー栄養剤は効果があった、ということでよろしいのね?」
「あったなんてもんじゃないです! 撒いただけなのに、土の状態も見違えるように良くなってて、本当に凄い……! 錬金術って、こんなに凄いんだ! 本当にありがとうございます、領主様!」
「お、おおう……」
そう言って、私の手を握り、ぶんぶん振り回してくるリタ。
まあ、正直自信はなかったのですが、私のど初心者お錬金術がうまくいったようで、なによりですわ。
「やりましたね、お嬢様。まさかお嬢様の作った物が、人様のお役に立つ日が来るとは思いもしませんでした。なにも生み出せない穀潰しだったのに。どうやら錬金術は、とてつもなく有用なもののようでございます」
「ええ、そうですわね。私も、まさかこれほど上手くいくとは……うん? あれ。おまえ、もしかして今、私の悪口を言いました?」
「いいえ、そんな滅相もない」
私がギロリと睨みつけると、しれっとした表情で視線を逸らすクロ。
こいつはほんまに、暇さえあれば、私の傷つきやすいハートをチクチクと刺してきおって……!
いや、でもまあ、なんというか。
言われるままに作った道具でしたけど。
……自分が作った物で人が喜んでくれるのって、案外悪くない気分ですわねっ!
「ええと、そうなると、これからはどうしましょうか。もっといります? スーパー栄養剤」
「はいっ! いただいた分は全部使ってしまったので、もっともっといただけると助かります! いただいた分だけ、収穫量が増えそうなので!」
「そう、わかりました。じゃあ、もっともっと生産しますわよ~!」
と、ふんっとポーズをとり、良い気分で安請け合いする私。
ですが、そこでクロが口を挟んできました。
「お待ちください、お嬢様。まさか、これ以上タダ働きを続けるおつもりですか?」
「えっ? なにを言いますの、クロ。私たちの目的は、この村を復興させて税金を取ることでしょう。これはその第一歩なのですから、タダ働きも何もないのではなくて?」
「長期的にはそうでございます。ですが、そうなるまでにどれぐらい時間がかかるとお思いですか。税を取れるのが何年も後だとして、その時まで、これをタダで作り続けるおつもりで? それでは、資金がとても持ちませんよ」
「うっ、それはそうですけども……。では、どうしろって言いますの? まさか、この栄養剤をリタに買えとでも言うつもり?」
「えっ! そ、それは、現状ではちょっと難しいというか……。すみません、うちも家計は限界ギリギリなので……」
私がそう言ってチラリと視線を向けると、リタが青い顔をして声を上げました。
そうですわよねえ、とても裕福には見えませんもの。
せっかく可愛い顔してるのに、服だってずっとボロボロですし。
なんて思っていると、クロは小さく頷き、こう続けたのでした。
「それが無理なのは、もちろんわかっております。ですので、こうしてはどうでしょう。この栄養剤を撒いた畑で採れた物に関しては、その売り上げの10%をお嬢様の取り分とするのです」
「売り上げ……?」
「はい。……おい、村娘。栽培した物は、この村だけで消費していたわけじゃないだろう。いくらかは、どこかに売りに行っているのではないか?」
「あっ、は、はい。山の向こうに大きな町があって、余裕がある時はそこに売りに行ってます。隣国に繋がる街道にある大きな宿場町で、うちとは比べ物にならないぐらい栄えているので」
「なら、その売り上げから10%を取れれば、お嬢様の生活費の足しぐらいにはなるだろう。それでどうだ、村娘」
「そ、それはもちろん歓迎ですけど……でも、あんまり収入には期待できないかもしれません。以前は共有の馬車で売りに行ってたんですけど、ずっと働いてくれていた老馬が、少し前に死んでしまって。徒歩だと、運べる量も知れてますし、時間もかかるし」
と、申し訳なさそうに言うリタ。
すると、クロは小さく頷いて、こう続けました。
「なら、こうしてはどうでしょう、お嬢様。こちらの資金を投入して、馬と馬車を用意し、売りに行く村人に貸し与えるのです。そうすれば、10%の取り分と、馬車の利用料で稼ぐことができます」
「なるほど……! それならたしかにリタの負担も小さく、こちらも収入が得られて両者得というわけですわねっ! 良い考えですわ、クロ!」
「出来た分の売り上げだけでいいのなら、元手もいらないですしね……! 助かります!」
と、笑顔を浮かべてクロを褒めたたえる私たち。
本当にこの子、知恵が回りますわ!
「よし、じゃあ当面やるべきことは決まりましたわね。後はバリバリ働くだけですわ! 者ども、やりますわよー!」
「おー!」
なんて、たった三人で大張り切りの私たち。
ですが──。
「…………」
そんな私たちに、物陰から、敵意のこもった視線を向けている村人たち。
その存在に、この時の私たちは、まだ気づくことができなかったのでございます。




