表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨天決行  作者: 公星
3/8

1-3『元服』


 “羅雨昕”――。

その名は今や、瑞陽(ずいよう)に留まるものではなくなっていた。南の水鏡(すいきょう)南澤(なんたく)、東の雲漢(うんかん)、北西の曜原(ようげん)と、この天瑞(てんずい)に遍く主要都市にて、神出鬼没の武勇が語られ、あらゆる勢力から仕官の誘いを受ける程、その名は重く受け止められていた。

市井には詳細が降りてこないものの、彼女には譲れぬ理由が有るらしい。どんな誘いにも「それは無理」と笑顔で仕官を断るのだそうだ。

遂には先日、古都·雲漢の君主自ら、“大将軍”の地位を条件に仕官要請をしたという。しかし、これも断ったというではないか。その話題で、市井は大盛り上がりである。

実際はといえば、幼少期より放浪の身であった雨昕がここまで名を上げたのは、許安(きょあん)太守となった玄欒の庇護と、鬼才の軍師·黎景に師事した事が大きい。

黎景は初めの頃、雨昕を野生児のように思っていた。だが本人の努力もあって覚えが早く、黎景は雨昕の才を楽しむように、あらゆる兵法や軍略を叩き込んだ。

まだまだ粗削りながらも、ある程度を修めた雨昕に、教わった事を試してこいと、敢えて放浪を推奨したのは黎景だ。

そしてこの日、彼女を許安に呼び戻したのもまた――黎景であった。


 雨昕も何度か訪れたことのある許安は、玄欒が太守になって以降、発展が目覚ましかった。市には人が溢れ、珍しい物も流通している。

何を買うでもなく、雨昕は市を歩いた。州や村の発展具合を見て回ることが、政治や軍略に不可欠だと叩き込まれていたからだ。

市からの帰り道、日暮れの大通りで、背中だけでそれと知れる人物を見付けた。


思遠(しえん)様ー!」


 大声で呼ぶと、案の定その人は足を止めた。周囲を見渡す彼に向かって駆け出し――通りを歩く疎らな人々の配置を一瞬の目配せで把握すると、雨昕は更に加速した。

助走を経て、並外れた脚力で飛び上がる。引き絞られた弓矢のように、雨昕の身体は真っ直ぐに宙を切った。

遂に振り返ったその人物は、驚きよりも先に何かを察し、覚悟して身構えた。


「ごふっ!」

「ただいま戻りました!」

「ぐ……っ……や、やあ、雨昕、おかえり……元気そうで……私も、嬉しいよ……」


 長身痩躯に、淡い色の髪。黎景だ。

彼は師であるが、雨昕にとっては何でも知ってる兄のような存在で、(あざな)で呼び慕うまでになっていた。

さながら兵器の勢いで飛び付いてきた雨昕を、黎景は仰け反りながらもしっかりと受け止めた。雨昕が黎景に懐いてからというもの、彼は何度もこの衝撃を受けてきた。だからこそ、雨昕の声が聞こえてすぐに黎景は身構えたのだ。

久しい再会にしては、黎景の反応があまりにもいつも通りだった。けれどそれは、書簡で頻繁に言葉を交わしており、元より雨昕の武勇を知る彼に、過剰な心配は無かったからだ。


 周囲の視線を意にも介さず、黎景は雨昕を抱えたままゆっくりと歩き出す。武器である棍と僅かな荷物を持っているにしても、勢いさえなければ――小柄な雨昕は、拍子抜けする程軽かった。

勢いを完全に失くし、黎景に抱えられたままの雨昕も、歩き出した黎景を止めなかった。それより、この旅での出来事を語る事が優先だったのだ。

黎景が懇意にしている飯店に着いて、雨昕は漸く地面に足を着けた。歩くのが嫌だったというよりは、降ろしてもらう機を逃していた。黎景への遠慮など、雨昕は遠い日に忘れていた。


 飯店内の席に通されると、黎景が一通りの料理を頼む。

二人にしては多すぎる量の注文にも思えたが、心配はいらない。雨昕は育ち盛りなのだ――皿の上には何一つ残さず食べる事を、黎景は知っていた。

料理が届くと、分かりやすく目を輝かせ、食べて良いのか黎景を伺う雨昕。勿論、と薦めると、清々しい程の食べっぷりを見せた。

これだけ食べるというのに、雨昕は小柄なまま全く肉が付かない。この量の料理は、あの小さな体のどこへ消えてしまうのだろう。


「雲漢君主、楊仙(ようせん)殿は、名家の御仁だというのに……」

「何言ってるんですか。その楊家のご当主本人に、名前負けしたその人徳では先が長くない、とか言った人が」

「おや。その御仁は先見の明がお有りのようだ」

「……鏡を持ってきましょうか?」


 嘗て黎景が言い放ったという暴言を引合いに軽口を言い合うが、二人の食事は穏やかに続いた。といっても、黎景は静かに酒を口に含み、酒の合間にたまに料理に箸を伸ばすだけ。殆どの料理は雨昕の口に収められていく。

黎景は料理よりも、雨昕が舌鼓を打つ度に輝かせる瞳を眺めるばかり。その眼差しは保護者のそれで――雨昕が可愛くて仕方がない事を、隠そうともしない。嘗ての逸話を知る者が今の黎景を見たら、どう思うだろう。

黎景は雨昕を預かったばかりの頃を思い出していた。

彼女は文字や礼法を文霽に教わったとはいうが、ほんの僅かな基礎を知っていただけ。

ほぼ野生児だった雨昕が、何処に出しても恥ずかしくないだけの教養を身に付けたのだ。教えた黎景にとっては、感慨もひとしおだった。

では雨昕にとっての黎景はどうかといえば――当初、耐える日々を強要する嫌な大人の一人だった。雨昕はすぐにだって、文霽の元へ駆けて行きたかったのに、黎景は何度もそれを阻んだのだから。

けれど同時に、黎景から何かを教わる度、それがどれだけ浅はかだったかを雨昕は思い知った。

武力だけでは何も成せない。欲速則不達(よくそく すなわち たっせず)。何度歯噛みして、その言葉を呑み込んだだろう。

今の二人が師弟という言葉で収まらないのは、ぶつかり合いながらも、そうやって同じ時間を積み重ねてきたからだった。

文霽を思えば、この穏やかな時間に後ろめたさはある。

けれど、名実を得た今は、後は玄欒の声を待つばかりだ。そんな雨昕には、誰かに仕官する時間なんてなかった。


 食事を済ませた帰り道、今度は自分の足で黎景の隣を歩いた。その道すがらでも、黎景は雨昕を呼び戻した理由を話さなかった。むしろ、玄欒に仕える気は無いかと、雨昕が即答で断ると分かりきっている問いさえ投げかけていた。

雨昕はその理由は聞かなかった。全幅の信頼を寄せる黎景の判断を疑おうともしない。それが良い悪いかはともかく、雨昕にとっての休息の日が過ぎた。


 雨昕が帰還して数日が経った頃、黎景は自邸での食事時、向かい合って座る雨昕についに切り出した。


笄礼(けいれい)……?」

「そう。今の君に、必要だろう」


 黎景は穏やかな表情とは言い難く、珍しく眉間に皺を寄せていた。

以前から、玄欒より打診があったのだそうだ。だが黎景は、まだまだ未熟と断ってきた。

しかし、先の雲漢君主自ら“大将軍”の地位を提示されるまでになった、という報せを受けた事が後を押した。そしてこの数日の雨昕を見て、黎景は決断したのだった。

雨昕は自分の年齢を知らない。寒村生まれで幼くして放浪を余儀なくされた身だ。そんな事、いちいち数えてなかった。

けれど、その意味が分からない程、無知ではなくなっていた。それにようやく、黎景が自分を認めたということだ。雨昕は素直に頷く。

そんな素直な反応に、黎景は少しだけ、寂しそうに笑った。


 ――翌日。

朝から女中に洗髪されて、動物のように縮こまっていた雨昕。

昼を過ぎた頃から、絢爛豪華な装飾や小物、祝いの菓子や果物といった大量の贈り物が黎景邸に届いた。黎景邸も決して狭くはないが、明らかにやり過ぎな量だ。

縮こまる事を止めたが、今度は目を白黒した末に、怯えだした雨昕。その隣で黎景はやれやれ、と呟いて片手で頭を抱える。

贈り主は――玄欒だ。装飾品の類いは前々から用意していたのだろうが、雨昕が戻るのに合わせて、わざわざ高価な果物まで取り寄せている。なんて小癪な。

衡寂恒や衡迅燿からも、常識的な範囲で届いていた。それは雨昕が思うよりもずっと、雨昕の元服は周囲に期待されていたのだ。

玄欒の贈り物と一緒に届けられた書簡には――


『元服の儀、賀す 以後、子の礼を以て遇さず』


 と、簡潔に、力強い文字が綴られていた。雨昕は一度眉間に皺を寄せ、それからその言葉の意味を黎景に尋ねた。


「殿は、雨昕をもう子供として扱わないと言っている」

「!」


 その言葉を聞いて、雨昕は思いのほか胸が高鳴るのを感じた。大人として扱われる――それは、文霽を救い出す為に堪え忍んだ彼女にとって、年頃らしい誇らしさを伴うものだった。

黎景は――雨昕の頭に手を伸ばしかけ、ふと止める。それは、もはや“女性”にする仕草ではない。

宙に残った手の行き場を誤魔化すように、黎景は「ああ、そうそう」と、わざとらしく手を打った。 そしてこの日のために、用意だけはしておいた深衣を雨昕に差し出し、着替えてくるよう促した。


 少しして、白に青の縁取りが施された真新しい深衣を纏った雨昕が、女中に手を引かれて黎景の前に現れる。

――黎景は、決して品行方正な男ではなかった。雨昕が来てからは控えていたようだが、女遊びも酒も嗜むし、元より大胆不敵、時に傍若無人とも言える物言いをする男で、非情にだって振る舞える。

そんな男を以てしても、手塩に掛けた弟子という存在は特別だったようだ。いつもであれば、「馬子にも衣装」くらいの皮肉は軽く口にしただろう。

けれど今、大人の装いを纏った雨昕を目にした途端、言葉は喉の奥で絡まり、息だけが感嘆するように溢れた。

平静を装うことに意識を集中させ、黎景は雨昕を手招きして椅子に座らせる。その背後に立ち、女中から櫛を受け取った。

そして何も言わぬまま、真っ白に色の抜け落ちた髪を掬い上げ――子供特有の、指をすり抜けていくさらさらとした髪の感触に、黎景は胸の奥で微かな動揺を覚えた。

選択を、早めすぎたのではないか。

そう思ってしまう自分が、心の何処かでまだ、雨昕は子供で守るべきものと、足掻いていると気付いたからだ。

――だが、玄欒からもこれだけの祝いの品が贈られ、雨昕自身が受け入れている以上、今更この儀を翻すなど、出来るはずもない。


 一瞬止めた手を、意を決したように動かし――髪に櫛を入れた。

雨昕は緊張した面持ちのまま、両肩を強張らせ、腕を真っ直ぐに伸ばして両手を膝の上に置く。

その様子に、黎景は知らず口許を緩めていた。

黎景は器用に、だがひどく丁寧に、雨昕の髪を結い上げていく。低い位置で、簡素に。子供を飾り立てるような真似はしない。

子供の柔らかさを残したままの髪が、櫛と指に導かれ、一本の流れとなって形を与えられていく。

用意していた、笄を手に取る。

梓を磨いた、戦場で邪魔にならぬよう少し短めの笄だ。飾りと呼べるものは、髪に隠れる位置に、祈りのように彫られた小さな蝶紋と、青みを帯びた青白玉が埋め込まれているだけだった。


 ――雨昕の髪に触れるのは、これで最後だろう。その感触を指先に刻むように一拍置き、黎景は静かに、結い髪へと笄を挿し入れた。


「……うん。綺麗だ」


 黎景は、雨昕をよく褒めた。

けれどそれは、学ぶ姿勢や覚えの早さといった能力に対してであって、外見について触れたことは一度もない。それに、雨昕は傷だらけで、貧相な娘だと自覚している。

だから。

いつもより少しだけ柔らかい声で贈られたその言葉が、結い上げた髪に向けられたものなのか、それとも――自分自身なのか。

言われた直後、雨昕には判断がつかなかった。

一拍、二拍とその言葉を頭の中で転がし、意味が追い付いた瞬間、頬の奥がじんわりと熱を持つ。その熱は耳まで、首元まで広がり赤くさせ、雨昕は蚊の鳴くような声で「ありがとう」と告げた。


もじもじと、いつもの威勢を忘れた雨昕を見下ろし、黎景はゆっくりと、一歩距離を取る。


「これで……貴女は、もう大人だ」


 黎景は雨昕を呼ぶ時、(いみな)で呼ぶか「君」と呼んだ。その違いに雨昕は、今度はすぐに気付いた。

――気付いて、しまった。

その一歩が、声が、もう元には戻らないものなのだと。悟った瞬間が、感情の分水嶺。

雨昕は勢いよく立ち上がり、振り返る。真っ赤な顔と不安気に瞳を揺らし、黎景に縋り付いた。

いつもの突撃とは比べるまでもない、軽い衝撃を受け止めながら黎景は、しかし腕を回さなかった。


「雨昕、離れなさい。……それはもう、やめるべきだ」

「っ……」


 ――なんで、と言いかけた。いつもなら、抱き止めてくれる。頭を撫でてくれる。こんな声で、距離を諭したりはしない。

その時になって、雨昕は漸く――

“大人として扱われる”という言葉の意味を、思い知った。

生家を離れてから、誰にも甘えてなどこなかった。――それは、なんて愚かな勘違いだったのだろう。人と関われば関わる程、雨昕は大人に守られてきた。護られていた。

それを解らせる為に、黎景は今日、この選択をしたのだ。

だから尚更、縋り付くべきではない人なのに。


 ぐっと、雨昕は涙も、甘えも呑み込む。

師は正しい。黎景が止めるように言うのなら、それは――止めなければならない事なのだ。

いつだったか、黎景がしてくれたように、強く握り締めた拳を――けれど今度は、自らの意思で開いた。

そしてゆっくりと黎景を放し、再び握った拳を左手で覆いながら、頭を深く下げる。

黎景は、雨昕の足元に滴り落ちた透明の雫を、見なかったことにした。

これは、今生の別れではない。仲の良い人を、再び失った訳でもない。だから、悲しい事など、無いはずなのに。

それでも――。

雨昕にとって、今のままではいられないと線を引かれた事が、こんなにも寂しいのは――きっと、“失った訳ではないから”だ。

黎景の想いの一端に触れ、受け止めきれなかった感情が胸から溢れる。頬を伝う温い感触をそのままに、雨昕は頭を上げた。

それを見た黎景は、満足そうに笑う。

倣うように――否、倣うしかなくて。雨昕もまた、無理矢理に笑顔を形作った。


 雨昕が少しだけ、大人である事を受け止めたのと時を同じくして、黎景邸の玄関が騒がしくなった。

何かと思えば、無遠慮な足音が部屋に近付いてくる。そして、その人物は――。


「……殿」

「玄欒様!?」


 部屋に入って来るなり、「邪魔をするぞ」と本当にそう思っているのか分かり難い声で言い、頭を下げようとした二人を制した。


「雨昕を寿(ことほ)ぎに寄ったが……」


 そこで言葉を切り、玄欒は一度、雨昕の顔を見下ろした。


「……うむ」


 まさか来るとは思っていなかっただけに、驚きに目を丸くした雨昕。玄欒は雨昕の前に立つと躊躇いなく手を伸ばし、親指の腹で少し荒く、雨昕の涙の痕を拭った。

驚きに固まる雨昕を気にも留めず、そのまま手を下ろす。そして黎景に向き直り、「大義である」とそれだけを告げた。

黎景は、その言葉の重さを知っている。静かに、一礼した。


「雨昕よ。元服の祝いとは別に、お前に話がある」

「は、い……?」

「朔原へ行く。準備せよ」


 涙は、引いていた。

けれど玄欒の言葉に、目を見開き瞳孔を小さくさせた雨昕からは、只ならぬ気配が溢れ出す。

今日は百面相している。いつもの雨昕なら浮かんだであろう、そんな呑気な感想も、今は成りを潜めていた。

玄欒は、その決定を雨昕は断らないと、決め付けていた。何を成すと語る必要すら無かった。

何故なら、雨昕が()()を断る訳がないのだ。


「お前には寒戎(かんじゅう)共を黙らせ、寒戎王·宋武筮(そう ぶぜい)への道を拓いてもらう。――出来るな」

「……。はい」


 雨昕が断らない理由。それは――雨昕が待ち望んだ、文霽への道だ。

その為に、雨昕は黎景に師事する道を受け入れた。否定しながらも、玄欒の庇護から逃げなかった。

文霽を失い、玄欒の元へ飛び込んだ――天瑞を乱してでも駆ける事を選ぼうとした、あの日。雨昕はあの時の苦い気持ちを、今も鮮明に思い出せる。

黎景は、褒めはするが厳しかった。けれど雨昕がそれに堪え続けたのは、全ては文霽を取り戻す為だと、言い聞かされたからだ。

雨昕の短い返事と、研ぎ澄まされた刃のような気配は――成程、あの腰の重い雲漢君主に“大将軍”の地位を提示させるだけはある。玄欒でさえも、それを認めざるを得ない。

そこにはもう、玄欒が訪れた時にいた、泣きじゃくるのを堪える子供の姿はなかった。

それを見ていた黎景は複雑な表情を浮かべていたが、玄欒は何も言わず、来て早々であるが踵を返した。


「――祝いがまだであったな」


 玄欒が何か思い出し、歩みを止めた。かと思えば、女中に筆と紙を持って来るように告げた。

あれだけの贈り物をしておいて、この上何をと、雨昕は少し肩を震わせた。

机に紙と筆が用意されると、そこにたった一文字、玄欒は力強く書き上げた。


『鵑』


 その一文字を雨昕に手渡すと、雨昕はその文字を見詰めた。


「け、ん……?」

「ホトトギスは夜に鳴き、血を吐き、尚も鳴き続ける。……が、春を告げる鳥だ。お前の(あざな)に相応しかろう」


 雨昕は口の中でだけ、もう一度その文字を呟く。可愛さなど塵もない、重々しい意味の名。字の書かれた紙の端に無意識に皺が寄る。

雨昕はそっと目を閉じると、指先に籠った力を自覚して緩める。

そして文霽の名を聞いた時から溢れる、荒ぶる感情を鎮めた。

長い睫を揺らしてゆっくりと瞼を持ち上げると、その菖蒲色を逸らす事なく真っ直ぐに玄欒に向けた。


「……字『鵑』、謹んで拝受いたします」


 感謝はしない。頭を下げず、雨昕が声と瞳に込めた、不遜な態度。

これは子供の最後の我が儘だ。どうせなら、もっと可愛くても良いではないか――きっと似合わないのだろうけれど。

そんな意図は黎景には確かに伝わっていたようで、けれどもう彼は雨昕を諌めなかった。

だから、玄欒にも、伝わっていただろう。

少しだけ、口角が上がったようにも見えた。


キムチ作った。味見したら口の中が痛くなった(辛さ耐性マイナス)。なんで家族はこれ食べれるのか不思議。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ