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98.知美の記録2 私のお仕事

こんばんは。久しぶりなのに、忘れずに読んでくれてありがとうございます。

「まったく、政府も、とんでもないものを作ったよなぁ…、運ぶのもちょっと怖いんだけど」


「まあいいじゃないか、おかげで、俺たちは、こいつを空から放り捨てるだけで、任務完了なんだから、自分らはとっとと安全な場所で高見の見物ができるのだからな」


「それもそうだな。おお、そういえば、今日はあんたの娘のかすみちゃん、誕生日だったよな、来年はもう高校生だっけか」


「ああ、今年で14才さ、来年受験でピリピリしててなぁ…」  


「はは、受験かぁ…、俺も思い出すよ、気を使って、たいへんだったなぁ…」


「それにしても、この高原地帯の有名な名物を知っているか?」


「ああ、エリスの花、だろ。なんでも、持ってると願い事が叶うっていう。でも、希少で、なかなか見つけられないらしいじゃないか」


「そうだな。いや、お前の娘さんに送ってやったら、喜ぶかと思ってな」


「ははっ、しがない一兵卒が買えるわけないじゃないか」


 エリスの花。私のデータにもありました。

 薄紫の小さな花。草丈は、20センチほど。とても希少で、その花が咲くとき、願いごとがかなう、というものでした。

 また、自生するものを採取してくる以外には、人工的な栽培も不可能なものです。

 繁殖もうまくいかないようでした。


 若い男性同士の会話の声がして、私が次に目を覚ましたのは、飛行機の中のようでした。

 それも、旅客機のような大型ではなく、偵察用の小さな飛行機のようでした。


 前を見ると、男性二人が並んですわり、前方の窓を見つめています。


 そして、さっきからずっと、空気を切り裂くような、轟音が鳴り響いていました。


 辺りを見回そうとしましたが、体を動かそうにも、頭も、首も、そして両手足も、なにかで固定されていて動かせません。


 私は、現状が把握できず、とても不安になりました。


「万里夫さん…」


 最初は、つぶやきでしたが、それがきっかけとなって、私の不安は増大します。


「万里夫さん! ここはどこですか! 出してください!」


 声をだしながら、体をむちゃくちゃに動かします。

 軍事用の無機質な機内にそぐわない、少女の訴える声が、狭い機内に響きます。


 すると、操縦桿そうじゅうかんを握っていない男性の方が、座席の背もたれに腕を当てて、めんどくさそうな表情を私に向けてきました。

 

 私の知らない人でした。

 軍服を着ているので、きっと、軍隊の方なのでしょう。


「おや、こいつを覚ましやがったぞ、おかしいな。タイマーのセットを間違えたのかな」


「おいおい、しっかりしてくれよ、ここで暴れられたら、俺たち即死だぜ」


「ああ、だいじょうぶだ。もう一度、任務をインストールし直すか」


 もう一人の男性が、私をちらりと見てから、操作パネルのボタンの一つを押していました。


 すると、私の全身にショックが走りました。


 そして、私の頭の中に、へんな気持ちが流れ込んでくるのです。


──お前は殺人兵器。殺すことが、お前の仕事。殺さなければ、殺される。さあ、殺せ、皆殺しにしろ。殺せ殺せ殺せ殺せ…。


 私は頭のなかで、流れ込んでくる、その変な気持ちを、せき止めようとしました。

 万里夫さんとの、優しい思い出を守りたかったからです。


 でも、抗っていると、それだけ、苦しい時間が長く続くみたいでした。


 だから、私は、守りたいものを手放さざるをえませんでした。


 それほど、苦しくてつらかったからです。


 そして私は再度、スリープ状態に陥りました。


 あ、スリープ状態と、電源を切るのとはまた違います。

 電源を切るというのは、例えるなら、パソコンのコンセントを引っこ抜くことでしょうか。

 そんなことをすると、メモリーは壊れてしまうことは、知っていますよね。





 次に目が覚めた時は、私は真っ青な空に放り出されていました。

 見上げると、私を載せてきた飛行機が、そそくさとその場から飛び去って行きます。


 きっと、娘の誕生日に間に合わせるため、急いで帰るのでしょう。


「高校受験かぁ…、いいなぁ」


 私はおもわず、上空1万メートル で、唇に人差し指をあてながらつぶやきました。


 そういえば、私は軍服を着ているのではなくて、水色のリボンに、チェック柄のスカートといった、どこかの女子高生が着用するような服を着せられていました。

 なぜ、こんな服なのかは、よくわかりませんが、私は気に入っていました。


 でも、スカートが風にあおられて、その下のパンツが丸見えなので、手で抑えなければなりませんでした。


 下を見ると、赤茶けた大地に、瓦礫のような建物が広がっているのが見えました。


 遠くには、川の流れもありました。


 私は任務を思い出していました。


 それは、テロリスト掃討作戦。


 これから私一人で、彼らが首都と称する街へ乗り込んで、リーダーを暗殺するのです。


 軍隊を派遣するのは、負担も大きいし、なによりそのリーダーに逃げられてしまうからです。


 そして、人間には無理な任務でした。


 たった一人で、テロリストの本拠地に乗り込むなんてことは。


 人道的にも、また能力的にも、ありえないのでしょう。


 その点、私、Mariであれば、すくなくとも人道的観点から見れば、問題ありません。


 だって、私は機械人形なのですから。


 壊れたら、また作ればいいのですから。


 でも、万里夫さんは、そうは思ってないみたいでした。


 私を見送る万里夫さんは、目に涙を浮かべていました。


 でも、それを思い出そうとすると、また頭が痛くなってきます。

 

 だから、私はそれを抹消することにしました。


 自分は機械で、殺人兵器。


 そう思うと、とても気分が楽になったのです。


 そろそろ地面が近くなってきたかなと思った頃、私の頭上で、ばあっと、水色のパラシュートが、雲一つない青空に広がっていきました。


(つづく)

次回は、8月1日(土)更新予定です。

しばらくは隔日の投稿を基本としつつ、筆が進めば毎日投稿したいと思います。

PV、ポイント評価、ブックマークを頂いて、ありがとうございます。とても嬉しく思うとともに、継続のための原動力になっています。

飽きっぽい私がここまで書けたのも、みなさんのおかげです。

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