↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/152

96.世界について、おしえてください

こんにちは。いつも読んでくれてありがとうございます。


 やがて、ちょっとした集落にたどり着いた。

 私は、小石が転がる未舗装の道を、はくたかさんについて歩いていく。

 でも、道を歩いているのは、私たちだけだった。


 道の両隣を見ると、日本家屋によく似た建物が、隣との距離にゆとりをもたせて並んでいる。


 でも、それらはすべて、朽ち果ててしまい、廃墟になっており、人の住んでいる気配はしなかった。


「この真実のバシレイアには、人は住んでいないんですか? うちの町長が、バシレイアから来たと言っていたのですけど…、あの、雪代さんって、ご存じですか?」


 私は、バシレイアを追放されて、地上に降りてきた町長のことを思い出して、はくたかさんに聞いてみた。

 町長はバシレイアから来たといっていたが、どちらのバシレイアなのかわからなかった。


 はくたかさんは、私を振り返って答えてくれた。その表情は、懐かしさを帯びていた。


「ああ、雪代のことか。彼は、真実のバシレイアの民だ。そして、追放されたんじゃない。自分から、地上へ降りて行ったのさ」


「どうして? なんのためにですか?」


「それはもちろん、マリア様が世界を救えるように導くために、さ。剣術の稽古もつけてくれたのだろう」


 はくたかさんは、それが当然のように教えてくれる。

 剣術の稽古。稽古というよりは、殺し合いだった気がするけれど、それはだまっておこう。


「でも、雪代さんは、私は”かみ”に逆らったから追放されたって、言ってました」


「雪代は真実のバシレイアの民だった。それが人間に生まれ変わるとき、どうしても記憶に変更が生じてしまう。体を1から作り替えるのだから、仕方ないのだが。そして、それは、この真実のバシレイアの存在を知られないためでもあるのさ」


 なら、雪代さんの娘である、エリナはどうなのだろう。

 お母さんと離れ離れになってまで、地上に降りてきたのはどうしてだろう。

 私を、マリア様を導くためなら、雪代さん一人でも十分なはずなのだから。


「エリナさんは、どうして地上に降りてきたのですか。その…、お母さんを真実のバシレイアに残して…」


 私の問いかけに、はくたかさんは、ふーんとすこし考えてから、答えた。


「それは、お母さんも一緒に、地上に降りてきていたのさ」


「えっ? なら、私のいた町に、エリナのお母さんもいるということですか?」


 驚きの声を上げた私むかって、はくたかさんは、楽しそうに微笑んだ。私に真実を明かすのが、嬉しいみたいだ。

 

「正確には、いた、ということだ。もう地上にいない。雪代の妻であり、エリナの母親は、バシレイアに、それもまやかしのバシレイアに帰還している。そこにいる”かみ”をしずめるために」


「その人の、名前は? もしかして…」


 私は、なんとなく答えを見つけていたけれど、確証を得たくて、はくたかさんをじっと見た。


「ふふっ、ご明察のとおりさ。君のお母さん役の、鈴子さんだよ」


「じゃあ、鈴子さんは生きているんですね!」


「そうだ。地上での仮初かりそめの肉体は、”天の裁き”により分解されてしまったが、その意識と記憶をもって、再びバシレイアに帰還したのだ…」


 はくたかさんの話を最後まで聞かないで、私は思わず知美に振り返って叫んでいた。


「知美! よかったね、また鈴子さんに会えるよ!」


 大喜びで振り返る私とは対称的に、知美は少しはにかんだような笑顔を見せるだけだった。


「どうしたの? 嬉しくないの?」


「うん…、とっても、嬉しいよ!」


 知美は背中に両手を回して、体を揺らして笑う。でも、とってつけたような笑顔なのは、私の目からみても明らかだった。

 おかしいと思った。鹿児島の町で、鈴子さんが、”天の裁き”で消滅させられたときは、あんなにも悲しそうにしていたのに。

 あれは、演技だったの?




「さて、あの木のふもとで、読書でもしよう」


 はくたかさんが指さす先には、見事なイチョウの大木が、見上げる空を覆いつくすほどに、緑の葉を茂らせていた。

 その足元には、涼しそうな木陰を作っている。

 たしかに、読書するには最適だ。

 でも、私の持っている本は、まだなにも情報を取り込んでいない、まっさらまま。

 一体、何を読むのだろう。


 私ははくたかさんに言われるまま、イチョウの幹に背中をあずけると、スカートの裾に手をそえて、地面に腰かけた。

 土がつくのが気になったけれど、座るところは、木の根がはりだしていたので、そんなに汚れてはいなかった。


 そして、知美とはくたかさんも、私の両隣に同じようにして座った。

 

「読書って、はくたかさんは、何か本を持っているんですか?」


 すっかり無口になってしまった知美に代わって、会話は得意でないけれど、私は積極的に口を開く。

 隣の知美は、あいかわらず、元気がなさそうにしょんぼりしていた。胸元に付いたおそろいの水色リボンが、さみしそうにしていた。

 せっかく、鈴子さんが生きているということが分かったのに。どうしてだろう。


「これから3人で、執筆するのさ。この世界の真実を、この本にね」


「えっ、私、モノを書いたことなんて、読書感想文くらいしか…」


 それも、ほとんど、あとがきを丸写しにしたようなものだった。


 はくたかさんは、あわてる私を楽しそうに眺めてから、私が胸元に抱えていた、まっさらな本を取り上げる。


「この本は、情報を取り込むことができる。その情報とは、電磁的記録のことだ。そして、それは、人間の記憶も例外ではない」


「つまり、どういうことですか?」


「書かなくてもいいのさ。私たち3人が、自分の知っている情報すべてを、この本に吹き込むんだ。そしたら、そこから真実が導き出される、そうだろう、マリ?」


 はくたかさんは、上体を起こして、私越しに、となりの知美を見た。


 知美は、はくたかさんと目を合わせようとしなかったが、でも、かすかにうなずいていた。

 そのうなずきは、いったいどういう意味なの、知美。


 はくたかさんは、本をあらためて、私のスカートに覆われた太ももの上に置く。

 そして、そのまっさらな表紙にそっと手の平を乗せた。


「さあ、君も手を重ねて」


 私がそうする前に、すでに知美は手を添えていた。

 ちらりと知美をみるけど、その視線は、じっと本に乗せられた自分の手に固定されていた。


 私は知美と話すことをあきらめて、自分もそっと、本の上にある知美の手に自分のそれを添えた。


「よし…、嘘偽りなく、自分のすべてをこの本に吹き込んむんだ。いいな」


 すぐ目の前で、はくたかさんの赤い瞳にみつめられて、私はうなずくしかなかった。

 自分のすべて、それはきっと前世界で生まれてから、現在に至るまでのすべてのことを指しているのだろう。 

 でも、恥ずかしい。できるかなぁ…。

 

「そんなに難しく考えなくていい。ただ、素直に心をあけっぴろげにするだけだ」


 難しい顔で悩んでいる私に、はくたかさんが優しく微笑んでくれた。

 とてもきれいな人だと思った。


「それでは、はじめよう」


 はくたかさんの言葉に従って、私は、知美の手に自分のそれを重ねた。

 私の手の平の下で、知美の右手がすこしだけ、震えていた。


 おびえるように震える、白くて細い知美の薬指に、私はそっと自分の人差し指の先を、滑らせた。


 ぴくりと知美の薬指が反応する。


 そして、自分の指を絡ませて、ぎゅっと握りしめた。

 

 すぐそばの知美を見ると、不安で揺れている彼女の瞳が、私をじっと見返していた。


──心配しなくていいよ、どんな真実があっても、私は知美の前から、いなくなったりしないから…


 瞳で知美に語り掛けてから、目線を本の上に戻してから、そっと目を閉じる。そして、自分の記憶に意識をゆだねた。


 そして、私は本に教えて欲しいことを吹き込んだ。


「世界について、教えてください」


(つづく)

次回、第97話の投稿予定日は未定です。

でも、8月1日には再開します。

いままでPVやブックマーク、ポイントを頂いてありがとうございます。

継続の力になっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。