93.白銀の美少女
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
次回の更新は、8月1日を予定しています。
詳しくは活動報告をご覧ください。
そう、私の夢は、放課後、お友達の女子生徒と(もちろん自分も女の子で)、図書室で一緒にお勉強することだった。
それが、いま、こんな形でかなえられるなんて、涙が出そうなほど、嬉しかった。
”かみ”の方じゃない、本当の神様ありがとう! と心の底からお祈りしていた。
隣を歩く知美の恰好は、私と大体同じ、胸元に水色の大きめなリボン、白のブラウスに紺のブレザー、そしてチェック柄のスカートだ。
「こんな服買っちゃって、真冬に怒られても知らないんだからね」
揺らめくスカートと、黒の革靴を見下ろしたあと、いたずらっぽい笑みを私に向ける。
でも、知美もまんざらじゃないみたい。
高校へ行けなかったのだから、きっと、高校生活に憧れはあったに違いない。
私はアンドロイドだし、知美の見た目は子供っぽい。
だから、23歳の私と、21歳の知美とはいっても、一見すれば、高校生の姉妹が歩いているように見えた。
私はショーウインドーに映る、二人並んだ姿に気が付いて足を止めた。
「どうしたの?」
ガラス越しに、こちらを見る知美と私の目線が交差した。
もう、自分ではどうにも止めることができなかった。
暖かい涙が、瞳からあふれて、頬を伝い、ぽたぽたと真っ白なブラウスにしみを作る。
肩が震えてとまらない。
「ありがとう…、こんな幸せな時間をくれて」
私は、アンドロイドのマリを思い出しながら、目の前の自分に、つぶやいた。
知美は、何も言わず、そっと私の背中に手を添えた。
「いけない、もう3時だ。急がないと」
ショッピングモールの下りエスカレーターを、あぶないけれど、パタパタと降りながら、私はつぶやく。
いつもの電車の時間に遅れそうなので、友達と一緒に急いでいるみたいな気がして、私は楽しかった。
「お姉ちゃんの注文が細かすぎるからだよ、お店の人も困ってたよ」
同じように、後を追ってくる知美。私と同じ、チェックの柄のスカートをひらひらと揺らしながら。
たしかに。私の着ているのと、同じ服を、といっても、オーダーメイドならいざしらず、お店の在庫にはそうそうあるものではない。
それでも、真冬パスポートの威力かどうか、お店の人は文句ひとつ言わず、いろんな制服やリボン、スカートを持ってきてくれた。
そのたびに、私はあーでもない、こーでもないと、その服をつっぱねたのだった。
「でも、おかげで、大体おそろいに見えるくらいの服が買えたからよかったね!」
エスカレータで190階まで下りた私は、後ろの知美と手をつなぎながら、速足で、人混みの間を駆けていく。
そして、エレベータに乗ると、185階まで降りて行ったのだった。
そこには、映画館にある、革張りの重たい防音扉があった。
それを、体を押し当てるようにして、ゆっくりと開く。
パタリとドアが閉じると、シンと静まりかえった空間だった。そして、漂ってくる、本のかおり。
手前に受付カウンターがあり、その先には、見渡す限りの本がぎっしりつまった本棚がひろがっていた。
「紙の本だなんて、意外に原始的なんだね」
夏海が情報室なんていうから、タブレットのような端末で電子データを閲覧するところだと思っていた。
見上げると、天上にまで届きそうな本棚に、ぎっしりと本が詰まっているのが見える。
前を見ても、後ろを見ても、上の見ても、本ばかりだった。
──たしかに、情報量はすごそうだけど…。
これだけ大量にあると、探すのが大変そうだ。
私の調べたいことは、”かみ”についてのことと、”バシレイア”のこと。
とりあえず、受付の女性に聞いてみることにした。
私が近づいていくと、そっと立ち上がり、お辞儀してくれた。
地上部で暮らしているからか、それなりにきれいな人だった。
丸襟のブラウスに、緑色のエプロンをして、まるで書店員のような恰好だと、私は思った。
「あ、あの…、バシレイアについての本は、どこにありますか?」
私が勇気を出して訊ねる。
「あ、初めての方ですねぇ、それでは、この認証装置に指をあててもらえますか?」
女性はカウンターの上に、認証装置を置いて、私に笑顔を向ける。
それは、ちょっと大きな消しゴムくらいの黒い長方形の箱だった。
上面の読み取り部が、つややかに光っている。
私は、自分の人差し指をじっと見た。
そして、そっと読み取り装置に、人差し指の先を触れる。
ピッと音がして、受付の女性がうなずいた。
「お連れの方も、お願いします」
感心した様子で、情報室を見回していた知美も、ハッとした様子で、となりに歩み出てきた。
そして、同じように、認証装置に指をあてる。
「はい、ありがとうございます。登録完了です」
受付の女性はそういうと、分厚いA4の本を2冊、差し出した。
白い表紙のそれには、題名も模様も、なにも書かれていなかった。
「これをどうぞ」
「これが、バシレイアに関する本なんですか?」
「ふふっ、使い方を説明しますね」
女性はカウンターに置かれた本の表紙をそっと開いて、ページをパラパラとめくった。
表紙と同じような真っ白なページがあるだけだった。
メモ帳やノートを渡されても、困るのだった。
私の怪訝そうな顔をみて、受付の女性は、本に向けて、願いを吹き込むように、そっとつぶやいた。
「バシレイアについて、教えてください」
すると、カウンター上の本は淡く光り、それが収まると、表紙には、「バシレイアの誕生とその歴史」という題名が記載されていた。
魔法だろうか? でも、300年後といっても、ここは現実世界で、異世界ではないのだ。
真っ白だった本の表紙は、ご丁寧にも、ところどころ剥げたような、時間経過を感じさせる、こげ茶色になっていた。
その様子から、とても以前に出版されたものだと思われる。
「これはね、電子ペーパーの本なんですよ。知りたいことを、本に向けて呼びかけると、この図書館全体の中から、それにぴったりあった本の情報を取り込んで、そのなかに表示するの。
タブレットと違って、まるで紙の本と同じように、ページをめくって読むことができるの、いいでしょう」
私は受付の女性の説明を聞きながら、パラパラとページをめくる。
たしかに、いつのまにか、真っ白だったページのすべてには、ぎっしりと文字や図が印字されていた。
この図書館の膨大な蔵書のどこかに、今取り込んだ本の、本物があるようだ。
「あとね、他のおすすめは、裏表紙にあるから、気になるなら、それも調べてみてください」
私は、受付の女性にお礼を言って、すこし離れたところにある、椅子と机が並んだ、読書席へ向かった。
「やっぱり、ここにある情報は、間違いばかりだな、真実はここにはない、か」
近道しようと通った、両脇を本棚に囲まれた細い通路の途中で、目が覚めるような銀髪の美少女が、手元の本を見つめながら、つぶやいていた。
(つづく)
たくさんのPV、ブックマークまた評価を頂きありがとうございます。
忘れられるのが怖いのですが、一度物語を整理するために、7月中はお休みさせていただきます。
楽しみにしてくれている、数少ない方にはお詫び申し上げます。
再開日などは、また活動報告にて、報告させていただきます。
よろしくお願いいたします。




