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92.ここがいいのっ!

こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。

「今日は、午後6時から、真冬さまの誕生日会がありますので、それまでに戻ってきてくださいね」


 プロフェッショナルな笑顔をしたメイドに見送られて、私たちは真冬の家を後にする。


 大きな庭を横切り、ひんやりと涼しい森を抜けると、夏空に照らされた田舎道があった。

 

 道路脇には、木々と夏草が生い茂り、生暖かい風に揺れていた。


 私と知美は、できるだけ木陰を選びながら、出口を目指す。


 夏らしく暑い気候だったけれど、からっとしていて、息苦しさは感じない。


 道の先を見ていると、ふと、田舎のおばあちゃんの、涼音さんことを思い出す。

 私は、切なくなって、瞳に涙がにじんできたのだった。


 


 

 前世界で、お父さんの実家の、鹿児島市の田舎に連れて行ったもらったときのことを思い出していた。

 10歳の頃だった。両親は、鹿児島の実家に私を預けて、その間1週間、夫婦二人だけの時間を過ごすために。

 

 そのことについては、私は異存はなかった。むしろ、夫婦仲がよいことを望んでいたので、一緒に旅行してくれることは、嬉しいことだった。


 私抜きで、存分に楽しんできて、日ごろのストレスを解消し、ずっと夫婦仲良く過ごしてほしいと思っていた。


 そして、鹿児島のおばあちゃん、涼子さんは、私の秘密を知ることになった。


──あらあら、真理しんりちゃんは、女の子の恰好が好きなんだね。


 昼下がり、畳の部屋で、こっそり女の子用の浴衣を着ているところを、見られたときのことだった。

 両親が帰って行って、兄も部活の合宿で、ここにはおらず、自分一人だった。

 だから、すこし開放的な気持ちになっていて、油断していたのだと思う。


 涼子さんは、ちょっと驚いたみたいだったけれど、すぐに、またいつもの穏やかな表情に戻った。


──なら、今日は近所で夜祭があるから、その格好で、一緒に出掛けようか。


 私は、顔を赤らめてうつむいていた。浴衣のすそをぎゅっと握りしめながら。

 涼音さんに秘め事を見られたことが恥ずかしくて。


──お父さんには言わないで。


──言わないよ。ほら、そんなよれよれで、せっかくの美少女が台無しだよ、こっちにいらっしゃい。


 美少女という言葉に、私は顔を赤くする。

 私は着こなせずに、乱れている浴衣の裾をひきずりながら、涼音さんの側にいった。

 

 涼子さんのにおいが、私を包み込む。

 浴衣を整えて、帯をぎゅっと締めると、涼音さんは、パシッと私の背中をたたいた。


「はい、鹿児島一番の美少女の出来上がり!」


 それから私を鏡台の前に立たせると、恥ずかしがる私に、すこしだけと言って、お化粧をしてくれた。


──さ、行こうか。


 そして、涼子さんと手をつないで歩いていく田舎道。

 それは、今の目の前に映るのと、同じ光景だった。


 涼子さんは、私が高校にあがってからまもなく、亡くなった。

 最後まで、私の秘密を、誰にも話すことなく。


 でも、せっかく涼子さんが秘密にしてくれたのに、私の不注意で、女装しているところを母親に見られてしまったのだけれど…。




「あれ、どうしたの? なんか嫌なこと思い出した?」


 隣を歩いていた知美が、怪訝そうに私の顔を覗き込む。

 無理もない。隣の人が歩いていて、わけもなく泣きそうなっていたら、私だって、不審に思うだろう。


「ううん、いいことだよ。前世界での、おばあちゃんのことを思い出しちゃって、さ」


「前世界?」


 知美が首をかしげるのを見て、そういえば、知美には、まだ私が前世界の人間だということを明かしていなかったことに気が付いた。


 ずっと一緒にいたから、知っているものとばかりに思っていた。

 知美にとっては、まだ、私はしらない町からやってきた、家出少女なんだ。


「あの…、知美と出会う前に暮らしていた、前の町のことなんだ」


 まだ、言わないでおこう。そう思い、私は軽い嘘をつく。


「ふーん、また話してね」


 知美は、あまり気にしていないみたいだった。

 いつかちゃんと話そう。記憶を送り込むというやり方ではなく、私の口から、ちゃんと。




 エレベータに乗り込むと、私はちょっと考えて、


「199階へ」


 とエレベータに指示する。

 図書館、この後世界では情報室というらしいけれど、それは、官庁街が軒を連ねる、180階~189階のエリアの中にある。

 直通するエレベータはないので、199階で降りて、190階で乗り換える必要があった。


「まず服をちゃんとしないとね」


 エレベータが動き出して、ふわりと体が浮かぶような感触を感じながら、知美を振り返る。


「ちゃんとしてるよ」


 知美はドレスの裾をつまんで、にこっとした顔を私に向ける。


「盆踊りのダンスパーティーの時は、あんなに嫌がっていたのに?」


 私はあえてニヤニヤしながら、知美に突っ込む。


「もう、まだそんな大昔のこと覚えてるの? いじわるなんだから!」


 知美はプイと窓の外を向いてしまった。

 



 チンと音がして、目の前のドアが開く。

 

 エレベータから出ると、午後の昼下がり、のんびりとした雰囲気のなかで、人がまばらに歩いていた。

 ドアを出ると、少しの間注目されたけれど、私の変な服(高校の制服)と、知美のダサいドレスを見て、すぐに何事もなかったかのように、目線を外した。


 そう、199階より上は、夢見る人の生活する場所。

 だから、そのエレベータから出てくるのは、夢見る人である。

 例外的に、私たちのような、ゲストさんが出てくることもあるけれど。


 夢見る人が見られなくて残念ね、と同情しながら、私は知美と手つないで歩き出す。


「どこ行くの、情報室に行くんじゃないの?」


「まずは、身だしなみを整えないと。真冬さんの機嫌を損ねるわけにはいかないじゃない。せっかく、「なんでも買える魔法のカード」をもらったんだしさ」


 私は制服の胸ポケットから、真冬パスポートをとりだして、知美にみせびらかすようにした。


「まあ、お姉ちゃんが楽しんでみるみたいだから、いいけどさ」


 そういって、素直についてきてくれた。


 どんな服を買おうかと迷っていたような気がするけど、実際はそうじゃなかった。

 自分の欲求に素直に従うかどうかを、迷っていたのだった。


 知美は、私の趣味に付き合ってくれるかしら。

 それが迷いの原因だったんだ。


「ここ…」

 

 知美の手を引いて、私が連れてきたのは、主に、前世界の女子高生の制服ファッション、を取り扱うブランドのお店だった。


「ねっ、ここにしよう」


 私は、自信なさげに、お店を指さして、知美の表情をうかがった。


「えっ、別にいいけど…」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがる私を、知美は不思議そう見つめたのだった。


(つづく)


次回は、第93話「白銀の美少女」は、7月15日(水)午後6時投稿予定です。

ブックマークありがとうございます。

いままで頂いた評価、ブックマーク、なども大切に思っています。

これからも、皆様に飽きられないように、がんばります。

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