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91.真冬パスポート

こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。

最初の予定では、ここで一度3日に一度の投稿に切り替える予定でした。

でも、ストックがある限り、毎日投稿します。

いまのところ、第94話まではできています。

 私と知美は、ソファーで顔をこちらに向けて、すやすやと寝ている千春を残して、部屋を出る。


 高校の制服に、ダサいドレスの私たちが、豪華絢爛ごうかけんらんなシャンデリアと絨毯じゅうたんで舗装された広い廊下を歩いていく。

 その取り合わせが、なんだかとっても不釣り合いで、その様子を想像して可笑しくなってきた。

 

 やがて、真冬の部屋の前にやってきた私は、コンコンと優しくノックをした。


「はい」


 双子なので声が一緒だけど、その優しいトーンからして、夏海だと思った。


 私はそっとドアを開けて、中に入る。

 

 中央のリビングのテーブルには、高そうな紅茶の茶器が置かれていた。

 そして、ティーカップを口に添えている真冬と目が合う。


「なに? なんか用?」


 真冬が私を問い詰めるのを見て、夏海が申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「あの…、夕食までまだ時間あるから、図書館でも行こうかなって思って…」


「あっ、そ。勝手にすれば」


 真冬はどこまでも失礼だった。

 興味なさげに、窓のある方を向いてしまう。


 夏海は、素っ気ない態度をの真冬に、どうしてよいのかわからないのか、申し訳なさそうにして、私に頭を下げた。

 そして、ふと思い出したように、頭を上げてこちらを見た。


「そうだ、今日、真冬のお誕生日会だから、6時までには帰ってきてね」


 そうなんだ。ということは、クローンの妹とはいっても、その姉の夏海も、今日が誕生日なのかな。


「夏海の誕生日は?」


 私が訊こうとすると、夏海はなにかに遠慮するように手を振った。

 その目線の先には、お姉ちゃんとの二人きりの時間を邪魔されて、不機嫌な真冬の後ろ姿があった。


「私は、いいの、気にしないで。それより、図書館案内できなくて、ごめんね」


 夏海は一緒に行きたそうだったけれど、何となく真冬に気を使っていように見えた。

 ソファーに座ったままで、心配そうに、ティーカップの中で揺れる水面を見つめている。


「場所は、わかるよ。心配しないで」


 亨の記憶があるから、と言いかけて、あわてて口をつぐむ。

 余計なことは言わない方がいいと思った。


「ちょっと、あなた達!」


 部屋を出ようと、ドアに向かって引き返そうとしたら、背中から真冬の呼び止める声がする。

 

「私の…、お姉ちゃんの友達が、そんな変な服でうろうろしてたら、恥ずかしいでしょ。特に、そのちっちゃい方! なにそれ、ぼろ雑巾でもまとってるかと思った! クロゼットに入れてあったドレスはお気に召さないのかしら?」


 ちっちゃい方というのは、知美の方らしかった。

 失礼な呼ばれ方をして、さらには鈴子さんのダサいドレスをバカにされて怒ったのか、知美はすこし顔を赤くして、目を潤ませてつぶやいた。


「知美です…」


 私は知美を慰めようと、そっと背中に手を添える。


「クロゼットのドレスは、すこし派手すぎて、その…、私たちみたいな、一般人には似合わないと思って…」


 真冬をイラつかせないように、私は、慎重に言葉を選んで返答する。


 すると、真冬は一枚のカードを、私たちの足元に向かって放り投げた。


 私は腰をかがめてそれを拾ってから、目の前にかざして、まじまじと見つめた。


 それは、交通系ICカードと同じ大きさで、それでいて、すこしずっしりとして重たかった。

 感触からすると、金属製のカードのようだ。


 そして、表も裏も真っ黒で、その片面の右下には、”Mafuyu’s friend”と白い文字で記載されていた。


「それは、”真冬パスポート”。私の家に招待したゲストさんに渡すものなんだ。デザイアの塔のあらゆるサービスはそれがあると、無料になるから、降りたらすぐに、ショッピングモールの専門店街で、あなた好みの、ちゃんとした服を買って着換えなさい」


 真冬の口調は冷ややかだけど、内容は優しいことをいっていた。


「ありがとう。でも、どうやって使うの?」


 私はカードを胸に当ててお礼を言うと、真冬はめんどくさそうに説明を始めた。


「お店の人に渡すだけでいいの」


「あとエレベータは、夢見る人の真冬さん、しか動かせないっていってたけど、付いてきてくれるの?」


 態度からして、そんなわけないと思いながらも、話の流れで聞いてみた。


「バカじゃないの? そんなめんどくさいことしたくないから、このカードがあるの。これは、私の代わりだよ。これを持っていれば、エレベータは動かせるし、199階より上のエリアにも出入りできるようになるんだから」


 バカじゃないの、というのは真冬の口癖だろうか。

 真顔で面と向かって言われると、すこしいたたまれない気持ちになる。でも、私がすべて受け止めようと思う。


 それにしても、カードを持っていると、エレベータが動かせるならば、麒麟のいるであろう、300階にも行けるのだろうか。

 

 しかし、私の期待はあっさりと消滅した。

 

「でもね、それはゲストさん用だから、本日限りの期間限定で、権限も制限してあるの。そのカードでは、199階と256階を行き来することしかできないの。でもそれで十分でしょ」


 説明を終えると、真冬はなんだか大仕事を終えたかのように、ソファーにどっかりと腰を下ろした。

 そして、また優雅に紅茶を飲み始める。

 その姿だけを見ていると、お姫様みたいで、うっとりしてしまう。


「じゃ、行ってきますね」


 私は困ったような笑顔を浮かべる夏海に、そっと手を振ったのだった。

 

(つづく)

読んでくれてありがとうございました。

次回、第92話「ここがいいのっ!」は、7月14日(火)午後6時投稿予定です。


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