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88.令奈さんの秘密基地

こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。

 住宅街の一角にある、さびれた公園にやってきた。

 

 ブランコなどの遊具は、「危険だから」と理由で撤去され、残されたのは、ベンチと砂場と、動物をモチーフにした置物だけという、子供にとってはあまり魅力的でない公園だったので、誰一人遊んでいる人はいなかった。


 その一角に、プレハブの倉庫が立っていた。

 地域の老人会のゲートボール道具をしまうものだろうか。


「あれね、私の秘密基地なんだ」


 じっとプレハブを見ている私に向かって、令奈はプレハブを指さして言った。


「行こ」


「入っていいのかな?」


「だいじょうぶだよ。いつも使っているから」


 令奈に手を引かれて、私は周囲を見回しつつ、ためらいがちに歩き出した。


 あんなプレハブの中で、令奈は私と何をしようというのだろう。

 

 令奈の部屋では、できないことなのかな。




「ドアを閉めて」


 令奈に言われて、私はプレハブの中からドアを閉める。

 上にある採光窓から夕焼けの光が漏れていたので、中は真っ暗闇ではなかった。

 ゲートボールに使用する、ボールやスティックなどが、きちんと整頓しておかれていたので、中はわりと広々として感じられた。


「だれも来ないよね」


 私がこわごわ尋ねると、令奈は安心してと笑う。


「だいじょうぶ、毎日ここで、時間つぶして帰ってるんだから」


「家には帰らないの?」


 私の質問に、令奈は顔を曇らせた。


「…あいつに、会いたくない」


「あいつって…」


「おじさん」


 令奈は両親はいないといった。

 でも、未成年者には保護者が必要だ。

 きっと、その「おじさん」が保護者なのだろう。

 でも、令奈の態度から察するに、あまりいい保護者ではないようだ。


「私だけの秘密基地で、嫌なことを思い出させないで」


 ふと見ると、令奈はいつもの誰も信じない冷たい瞳で、私を見つめていた。




「怒ったりして、ごめんね。はじめようか」


 私が押し黙ったのを見て、令奈な表情を緩めた。

 そして、自分の学校指定のリュックの中から、きちんと折りたたまれた、制服一式を取り出して、床に置いた。


 それは、見慣れた、私の通っている中学校の女子用の制服だった。

 丸襟のブラウスに、紺色の吊りスカート、そして胸元には赤いリボンがあしらわれたものだ。

 何度となく、毎日学校へ行くたびに、それを着たいと思っていたのだった。


「さあ、これを着て、さっきみたいにさ」


 その制服と同じ格好をした令奈に言われるけれど、面と向かって許可されると、恥ずかしくて動けない。


「いいのかなぁ~、バラしちゃうよ、教室で私の服をきて、うっとりしてたこと」


 令奈はそういって脅してきたけれど、それは私のためらう気持ちを少しでも軽くしようとするためだとわかった。


 私は令奈に脅された、という大義名分を得て、自分の男子用の制服を抜いて、ブラウスのボタンを留めて、スカートに足を通す。


「留めてあげる」


 令奈が近寄ってきて、吊りスカートの留め金をパチリと止めてくれた。


「お名前を教えて?」


 うっとりとした表情で令奈にたずねられて、私は戸惑った。


「わ、私の名前? 令奈さんは、知ってるよね?」


「ふふっ、私は、あなたみたいな、かわいい女の子と会うのは、はじめてだけどなぁ~」


 私の戸惑いを知ってかしらずか、令奈は私の返事を待ち遠しそうにしている。


 どうしようか。ずっと、心の中でひとりぼっちだった、あの子の名前を出そうか。

 

「私は、…深山まりです。ひらがなで、まり」


 心の中まで女装していることが知られて、私はとても恥ずかしなった。

 令奈の目線に耐えられずうつむくと、床には、私と令奈の靴が向い合せになっていた。


「私は、佐藤令奈だよ、よろしくね」


 そして、令奈は、そっと近づいてきて、私に顔を近づけると、そっと背中に両手を回してきたのだった。




「あっ…、令奈さん、やりたいことって…、まさか」


 プレハブの天窓から差し込む夕日に照らされて、令奈の琥珀色の瞳が水気を帯びて、きらめいていた。

 そして、背中に回していた右手を、そっと私の頬に添えてきた。私は、思わず目をそらしてしまう。


「まりちゃんは、察しがいいね」


 こわごわ目線を令奈に戻すと、彼女の瞳は、私をまっすぐに見つめいていた。

 長く伸びたまつ毛が、瞳に影を落としている。

 そして、それはゆっくりと閉じられた。私も、それに合わせるように目を閉じた。


 ふんわりとした感覚を唇に感じるとともに、令奈のぼさぼさの髪が私に触れる。

 女の子っぽい、甘い香りに、かすかなバラの匂いがした。


 目を閉じているせいか、令奈の甘い匂いで、私の頭はいっぱいになった。

 

 そのせいかどうか、私はいつの間にか、自分の両手を令奈の背中に回して、自分からも、唇を押し付けていた。


「まりちゃん、激しい…」


「あっ…、ごめん、苦しかった?」


「ううん、嬉しいの、もっときて…」


 ささやくような令奈の声に、私は一層刺激されて、令奈を抱きしめた。

 

 しばらくそうしてから、力を緩めて、令奈の服の下から柔らかく膨らんだ胸に、そっと自分の手を添えた。


「いいな、おっぱいがあって、私も欲しいな…」


「えっ、まりちゃんも、あるじゃん、ほら…」


 令奈もそっと、私の胸に手を当ててきた。

 ふと見ると、令奈と同じかそれ以上に膨らんだ私の胸が目に入った。


「あれっ…、どうしてだろう」


 そっと、大切なものをめでるように、令奈が私の胸を撫でていた。

 制服の上から感じられる、その感触が心地よくて、先ほどの疑問も忘れて、思わずうっとりしてしまう。

 そして、ずっと欲しかったものが自分についているという現実は、まるで長い年月のあいだに凍り付いていた私の心を溶かしていく。


──そっか、ここは夢の中だから、ふくらんでいてもいいんだ。


 令奈に体を撫でられているうちに、次第に胸が高鳴ってきて、ドキドキしてきた。


 私の中で、パチンと何かがはじけた。

 国語の教科書で見た、赤い実がはじけたのだろうか。


「令奈さん…あの」


「れな、でいいよ、まり…」


「令奈、好き…」


 今度は、自分から、令奈の頬に手を添えて、唇に自分のそれをかさねていた。


(つづく)

次回は、第89話「令奈と私」7月11日(土)午後6時更新予定です。

評価やPV、ブックマークはとても嬉しく思っています。

ありがとうございます。

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