↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/152

81.潜入! 赤ちゃん工場

こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。

 299階の全面すべてが赤ちゃん工場のようで、壁もないので、花畑はどこまでも広がっているように思えた。

 空には、春の穏やかな水色の空が映し出されていた。


「ごきげんよう」


 知美を探しながら、目をこらして歩いていると、布切れ一枚をまとっただけの、お腹がぽっこりと膨らんだ女性が、にこやかに声をかけてきた。


「あ、はい…、ごきげんよう」


 私は言われたままを返して、お辞儀をしながら、その女性の様子を観察した。

 一見穏やかそうに思えたけれど、その表情はうつろで、目線はどこか遠くを見ているようだった。


 そして、うっとりと、自分の大きく膨らんだお腹を撫でていた。


 亨の言っていたとおり、辛い状況を自覚させないために、気持ちよくなる薬を投与されているように思えた。


「あのっ、幸せですか?」


 私は思わず聞いていた。まずは、知美の居場所を尋ねるべきだったけれど、どうしても聞いてみたかった。


「ちょっと、何を聞いて…」


 以外に冷静な夏海は、私を振り返り、咎めるような目線を向けてきた。


「ふふっ、おかしなことを聞くんですね。わたしは、幸せですよぉ…」


 そう答える彼女はどこかうつろな表情だった。


「行こう…」


 夏海に手を引かれて、私は後ろ髪惹かれる思いで歩き出す。


「なんであんなこと聞いたの? 襲われたらどうするつもりだったの?」


「女の人は、妊娠することができるから、いいなぁ…、って思ったんだ」


 私が自分の下腹部をさすりながら返事をすると、私の前世界でのことを知っている夏海は、何かを感じたのか押し黙った。

 

「夏海は、赤ちゃんを産めるの?」


 私の心からこぼれたようなつぶやきに、夏海は戸惑った表情をうかべていた。


「え、たぶん…、毎月の女の子の日もあるから」


 毎月の女の子の日というのは、生理のことを指しているのだろう。

 やっぱり300年前とくらべて、生命工学の技術は進歩しているみたいだ。


 ふと流れた沈黙を、押し流そうと思い、私はことさらに軽くつぶやいた。


「ふふ、ごめんね、冗談だよ、行こ」


 そして私は目線をはるか向こうの青空に向けたのだった。

 

 千春はといえば、私のすぐ後ろで、なにかに心奪われたかのように、ぼんやりと花畑を眺めている。

 やっぱり、お花が大好きな女の子なのかな。




 お花畑のところどころには、木々が生い茂っている茂みがあった。

 そして、そこには、二人の男女が寝そべっていて、男性が女性の上におおいかぶさって、もぞもぞと動いていた。

 耳を澄ませると、女性の甲高い声も聞こえてきた。


 真冬も含めて、みな無言で歩いていた。

 なるべく早く遠ざかろう、という思いが一致しているように思えた。


 

 

 しばらく歩いていくと、川沿いで、肩を寄せ合って座っているカップルに出会った。

 私は、知美のことを尋ねようと思い、びっくりさせないようにそっと近づいていく。

 

「あの、すみません…、ちょっといいですか」


 私はカップルの背中に呼びかけると、二人はゆっくりと振り返る。

 相変わらず、体は布切れ一枚しかまとっておらず、女性の目は、やはりさっきの人と同様、どこかうつろだった。

 

 男性はというと、ほどよく鍛えられたスレンダーな体をしていて、耳が少し隠れるほどの長さの髪だった。

 そして、すっきりとした顔立ちの、いわゆるイケメンであった。

 

 その色気を感じる切れ長の二重瞼の瞳を見ていると、私の心がほてってくるのがわかった。

 

──やっぱり、私って元から、前世界にいた頃から、頭がおかしかったのかな。男にドキドキするなんて…。


 思わず胸に手をあてて確かめてみるけれど、この体なので、なにも打ち返しては来なかった。 

 

 でも、今は自分の気持ちを検証している時間はないんだ。

 

 私は、そのイケメン男性の瞳の呪縛から逃れようと、頭を振り、男性と女性の体が目に入らないように、明後日の方を見て、たずねることにした。

 

「知美という人を知りませんか? つい、2、3日前に来たばかりなんですけど…」


 私の質問に、イケメン男性は首をかしげるばかりだった。

 そう、亨によれば、この男性は遺伝子操作で作られた男性。

 もしかして、人間としての心はもっていないのかもしれない。

 ただ、手あたり次第に女を口説いて、性交をするためだけに生きているのかもしれない。


「ともみさん、という人は知らないけれど、ここにきて、2、3日なら、まだ管理棟の方で検査をしているじゃないかしら、あたしもそうだったしぃ…」


 女の人は、ぼんやりとした声で答えながらも、明確なはっきりとした答えをくれた。


「ありがとうございます!」


「どういたしまして~」


 女の人は私たちに向かってひらひらと手をふって、そしてまた男性と抱き合い、顔を近づけて濃厚なキスを再開したのだった。


「マリさん、急ごう、あまり時間がないかもしれない」


 夏海にせかされて、私は瞳を望遠レンズにして、周囲をぐるりと眺めた。

 そして、少し離れた場所に、建物があるのを発見した。


「じゃあ、行こう、夏海は私の背中に乗って」


「えっ…、でも…」


 夏海はすこし、もじもじしていたけれど、私が夏海の前にしゃがみこんで背中を見せると、


「結構、重たいよ?」


 といって、体を預けてくれた。


「真冬さんは、千春と一緒に、エアバイクに乗ってついてきて」


 私の提案に、千春はえっ、という表情を浮かべる。

 そして、真冬はというと、両手を腰に当てて憮然とした表情で私を見下ろした。


「は? 偉そうに私に指図しないでよ、なんかムカツク」


「真冬、お願い…」


 夏海は両手を合わせて懇願すると、真冬ははぁ…とため息をついて、千春が乗っているエアバイクに足をかけた。


「お姉ちゃんのお願いなら、仕方ないよね。でも、転倒して、あたしの顔に傷でもつけたら、死刑だからね」


 死刑という言葉に、千春は動揺しながら真冬を振り返る。


「え、ええ…? じゃあ、お前が運転してくれよ…」


「なんで、あたしが運転しなくちゃいけないの? 夢見る人になんてこと言うの! 立場をわきまえなさい、バカじゃないの…?」


 真冬から畳みかけるようにわめかれて、千春は苦笑いを浮かべていた。


(つづく)

これまで頂いた、PV、評価、ブックマークは創作の支えになっています。ありがとうございます。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。