80.夢見る人は、とっても偉い
こんばんわ。お久しぶりです。今日も読んでくれてありがとうございます。
「やめて」
私たちを取り囲んでいたウルフの獣人が、一斉射撃をしようとマシンガンを構えるのを、真冬は手で制した。
「しかし、こいつらは、脱走者です。今しがたも、我々の仲間がやられたんです。放っておいたら何をするか…」
ウルフのリーダーらしき人物が、不満そうに真冬に訴える。
丁寧語なのが、彼と真冬の地位の差を感じさせる。
その様子を見ていると、「夢見る人」というのは、それほど偉いのかと思う。
「それは、麒麟さまの命令なのかしら?」
取り詰めるような冷たい口調に、ウルフのリーダはたじろいた。そして、しぼりだすように、つぶやく。
まるで、主人からいたずらを咎められて、しょんぼりしている柴犬のようだった。
「いえ、一般的な規則によるものです。私にもある程度の裁量は認められておりますので」
「そう。あなたの独断なら、私の命令の方が優先するよね。さっさと、こいつらを連れてこの場から去りなさい」
真冬は、私たちを取り囲んでいたウルフ達の方を向いて、サッと手を振る。
「でも、こいつらを野放しにはできません」
なおも食い下がるウルフのリーダー。狂暴な見た目とは違い、職務には忠実みたいだ。
「この人たちは、私のお友達だから、私が預かるの。これ以上言わせないで、ね」
ウルフのリーダーに向けられた、真冬の目線は、その名前通り、冷たくて、それでいて意識が吸い込まれるようほどきれいだった。
ウルフのリーダーは、背筋をぴしっと伸ばして、敬礼して、仲間を連れて去っていった。
「さて、野蛮人はいなくなったね、あ、あいつら人じゃないか、きゃははは!」
それから、一仕事終えたかのようなため息をついてから、真冬が歩み寄ってきた。
私は少し身構える。
すると、突然、走り出して、私を通り越すと、後ろの夏海に抱き着いていた。
「お姉ちゃん、会いたかったよ!」
私が振り返ると、戸惑っている夏海と目があった。
「えっ…、あ、はい、お久しぶりです」
突然のことに、夏海はそういうしかなかったのだろう。
どこかよそよそしい「お姉ちゃん」に、真冬は、不満を抱いたようだ。
「お姉ちゃん、なんでそんな他人行儀なの!」
「そ、そうだね、うん…」
とはいっても、夏海にとっては、15年ぶりに会うのである。
それに、妹とはいっても、実際は、おちこぼれた自分の代わりに両親が作り出した、自分の複製なのだから、その気持ちは複雑だろう。
真冬は、されるがままになっていた夏海の手を取った。
「さ、行こう。あたしの家に。お父さんも、お母さんも待ってるよ」
真冬の提案に、夏海はうかがうように、私と千春を交互に見る。
その目は、私たちに、行っていいかな? と聞いていた。
もしかしたら、麒麟の罠かもしれない。
「いってみたいな…」
夏海がそうつぶやくのを聞いて、知美のことを思い出していた。
そして、思わず私は、いい雰囲気の姉妹に割り込んでしまう。
「あ、あの!」
真冬は、少しびっくりしたような表情で振り返る。夏海の肩に両手をのせたままで。
「何かしら?」
その冷たい瞳に、心を冷や冷やさせながらも、私は勇気を振り絞ってお願いする。
「あのっ、299階にいるはずの、知美を助けてほしいのだけど…」
すると真冬は、ついと私から顔をそらして、夏海に顔を向ける。
「お姉ちゃんも、そうなの?」
「うん…、知美さんは、地下で見つけた友達だから」
夏海の言葉に、真冬はすこしつまらないことを聞いたような表情を浮かべた。
「仕方ないなぁ…、他ならない、お姉ちゃんの頼みなら」
「あ、ありがとう」
私は精一杯の声でお礼を言うけれど、
「どういたしまして」
真冬は私を振り返りもせず、目の前の「お姉ちゃん」にそう返したのだった。
無視されたような気がして、それで前世界での嫌な記憶を思い出してしまい、私の胸はずくりと痛んだ。
でも、知美を助けるためなら、どんなことだって、耐えてやろうと、覚悟していた。
私たちは、真冬についていくようにして、ショッピングモールを歩いていた。
もうすっかり平穏をとりもどしたのか、通路は楽しそうな人々であふれていた。
エスカレーターに乗っていると、周囲の人たちからの視線を感じた。
でも、その視線が注がれていたのは、さわぎを起こした私ではなく、「夢見る人」の真冬に対してだった。
「たまに遊びに来ると、いつもこうなの。疲れちゃう。やっぱり、変装してこなくちゃね」
私のすぐ前で、有名芸能人のようなことをつぶやきながら、真冬は笑顔で振り返った。
私は、つい目線をそらせてしまう。とてもきれいだったから。
「さ、乗って」
真冬はせかすようにして、199階から先へ行くエレベータに私たちを押し込んだ。
そして、真冬が、299階、とつぶやくと、扉が閉じて、動き始めた。
「ここから先は、「夢見る人」に選ばれていないと、行けないの。このエレベータだって、私の声じゃないと、動かないんだよ」
自慢気な真冬の声が、狭いエレベータの中に響く。
真冬の頭に乗っているティアラが、小刻みに揺れて、ちりばめられた宝石が輝いていた。鼻歌なんか歌って、ご機嫌の様子みたいだ。
お姉ちゃんに会えて、嬉しいのかな。
もしかして、意外といいひとなのかもしれない。夏海の妹なんだから。
そんなことを考えながら、私はエレベータの壁に手を添えて、映り込んでいる外の景色を眺めた。
相変わらず、大阪平野には、人の気配がしない、廃墟が広がっているだけだった。
いつの間にか、空は雲に覆われていて、冷たそうな雨が、廃墟の街に降り注いでいた。
「着きました。行こう、お姉ちゃん」
ドアが開くやいなや、真冬は、夏海の手をとって、さっさと先に行ってしまう。
私と千春のことなんて、どうでもいいみたいだった。
通路の先にある、大きなドアの前には、例によって、ウルフの獣人が立ちはだかっていた。
「おつかれさまです」
でも、真冬が一礼すると、ウルフの獣人は、恐縮したように身をこわばらせて敬礼して、道を開けた。
「真冬さんって、すごいんですね」
私はため息まじりに感想を漏らすと、
「当然よ」
と、そっけなくて冷たい返事が返ってきたのだった。
目の前の大きなドアが開くと、そこには、色とりどりのお花畑が広がっていた。
開いたドアからは、心地よい春の香りがするそよ風が吹いてきて、私の頬を撫でる。
「ここが、赤ちゃん工場…?」
その穏やかな景色に、思わず心奪われていた。まるで、おとぎ話で聞いたことのある、エデンの園みたいだった。
どこかに林檎の木はないかな?
「マリさん、どうしたの? 早く知美さんを連れて、こんなとこ出よう」
「そうだったね」
夏海に呼びかけられて、私は、えいと自分自身に気合を入れ直す。
そして、お花畑に一歩、足を踏み出したのだった。
(つづく)
次回の「第81話 潜入! 赤ちゃん工場」は、7月4日(土)午後6時更新予定です。
7月は、毎日投稿と行きたいのですが、思うようにストックが溜まりませんでした…。
1か月も時間を頂いたのに。ごめんなさい。
ブックマーク、ポイント評価、PVとても嬉しいです。励みになっています。
まだまだ、先は長いですが、今後ともよろしくお願いいたします。




