79.夢見る人の、真冬さん
こんばんわ。今晩も貴重なお時間を割いて読んでくれて、ありがとうございます。
まだ、どこからか他のウルフの獣人たちに狙われているかもしれない。
そう考えた私は、先頭になり、おそるおそるエレベータを出る。
周囲を見渡すと、周りの人たちが、まるで殺人の現場を見るかのような視線を向けていた。
無理もない。麒麟の部下であろう、ウルフの獣人を倒してしまったのだから。
それにしても、デザイアの塔の地上部の人たちは、割と300年前でも通用するようなファッションだった。
私はふと、首をそらせて上を見た。
そこには、吹き抜けの空間が広がっていて、それが遥か上まで続いていた。
そして、その吹き抜けの空間を囲むようにして、通路といろんな娯楽を提供する施設やお店が配置されていた。
「ここは、デザイアの塔の娯楽を集約した、ショッピングモールだよ。190階から199階まで、吹き抜けの空間なんだ」
ぽかんとしている私に、夏海が説明してくれた。
「千春とも、来たことあったよね?」
夏海に念を押されて、千春はとまどっているようだった。
「え、そ、そうだったな…」
「あ、忘れてるんだ、ひどい!」
幼なじみっていいなと思いながら、私はそんな二人をほほえましく見つめいていた。
「さて、ここから先へ進めるエレベータにいきましょうか」
私は、じゃれあっている夏海と千春をせかすようにして、さっさと歩き始める。
亨の記憶によれば、199階まではエスカレータで登り、そこから先には、さらに上の階へ進めるエレベータがあるはずだった。
「とまれ」
中心の大きな噴水のある広場まで来たところで、どこからともなく声がする。
振り返ると、人混みの中から、次々とウルフの獣人がはい出してきた。
肩からマシンガンをぶら下げて、銃口をこちらに向けていた。
そして、そのウルフたちの中から、マシンガンを所持していない、なんとなく風格を感じさせるウルフが歩み出てきて、私の前に立ちはだかった。
「許可なく地下から脱出した罪と、地上部の平穏を乱した罪で、お前たち3人を射殺する」
「ちょっとまって、後ろの二人は、私に脅されて連れてこられたんです。だから、関係ありません」
私が言い訳すると、ウルフのリーダーは、口角を上げてにやついて、失笑を浮かべた。
間から、鋭い犬歯がのぞいた。
「犯人にかばわれる人質なんぞ、聞いたことないな、…やれ」
ウルフのリーダーの手が上がると、一斉に私たち3人に向かって、マシンガンが火を噴いた。
「夏海、千春、私の側を離れないで!」
私はすぐさま、【絶対防御】のシールドを発現させた。
放たれた銃弾の雨をはじき返しながら、私は跳んだ。
上の階の手すりに片足をついてから、間髪入れずに、次の階の手すりに向かって飛び上がった。
心配になって後方を振り返ると、エアバイクに夏海をのせて、千春もなんとかついてきていた。
麒麟との戦いに備えて、エネルギーを節約しておきたいけど、ここで壊されてしまっては、元も子もない。
出し惜しみはしないことにした。
私は背中のグラディウスを抜き出して、下いるウルフたちに狙いを定めた。
──舞踏剣、雪月風化
地上から、私たちめがけてマシンガンを向けているウルフたちめがけて、私はグラディウスを一振りした。
その先端から、無数の白く小さな光の粒が放たれた。まるでちりばめられた雪のように。
そして、私の放った光の弾丸は、一般人をすり抜けて、ウルフたちだけを正確に撃ちぬいた。
「お前、やっぱりすごいんだな」
エアバイクに乗って必死でついてくる千春がつぶやく。
千春にほめられて恥ずかしくなりながら、私は自分の胸を指さして答える。
「そんな…、この体がすごいんだよ」
「マリさん、照れている場合じゃないよ!」
「えっ…」
夏海が指さした先を見ると、すでに上の階に待機していたであろうウルフたちが、やはりこちらに向けて一斉射撃をしてきた。
他の一般人はすっかり避難してしまい、いつの間にか人通りは皆無になっていた。
私はそれを【絶対防御】のシールドで防ぎながら、次々に上の階へと上っていく。
あと、1階。これを上りさえすれば、さらに200階より上に行けるエレベータがあるはず。
──待っててね、知美。助けにいくから。
周囲360度から、シールドがなければ、とっくに全員死んでいたであろう、マシンガンの攻撃を受けながら、私は、199階の手すりに手をかけた。
すると、そこからひょこっと、夏海が顔をのぞかせた。
「おはよう!」
──あれ、夏海は後に…。
と、私が振り返ると、同じようにぽかんとした表情と夏海と目が合った。
「あれ、夏海さん…?」
突然の事態に、私の思考は追い付かなかった。
この体に搭載されている、ちょっとした研究機関のスーパーコンピューター並みの演算速度を持つ頭脳をフル回転させても、理解が追いつかなかった。
単純な計算をするのと、物事を解明して理解するのとでは、また頭の働きが違うのだろう。
そして、きっと物事を理解するのは、マリの頭脳に搭載されている、人間の脳組織側の役割なんだ。
「お姉ちゃんを連れてきてくれて、ありがとう」
そして、少し遅れて、目の前のこの女の子は、夏海のクローンの妹なのだと理解した。
その瞬間、彼女の光沢のあるピンクのハイヒールが、私の顔めがけて飛んできていた。
油断していた私は、無防備に顔面を横殴りにされて、あっという間に190階の噴水公園の地面にたたきつけられた。
ぐらぐらと揺れる頭を抱えながら、私はゆっくりと起き上がる。
見ると、千春も夏海も側にいて、そしてスタート地点の190階に戻った私たちは、気が付けば、再度ウルフたちに囲まれていたのだった。
そして、ウルフの包囲陣の中から、さっきの夏海そっくりの女の子が歩み出てきて、私たちの近くに歩みよってきた。
頭には宝石がちりばめられたティアラを載せていた。
そして、それが載っている頭の黒髪は、夏海と同じような、吸い込まれそうなくらいのあざやかな黒色をしている。
穏やかな笑顔は、夏海そっくりだ。でも、その瞳からは、凍り付くような冷たさを感じた。
そして、たくさんのフリルがついた薄ピンクのドレスは、どことなく透明感があり、まるで天女の羽衣のようにきらめいていた。
私はなんとなく、理解した。
さきほど見た、一般の通行人とは明らかに違う格好。
この女の子は、きっと、夏海が言っていた、「夢見るひと」なのだろう、と。
そして、夏海とこんなにもそっくりなのは、もしかして。
「おはよう、目が覚めたかしら? はじめまして。夏海の妹で、夢見る人の、真冬です。よろしくね」
真冬は、ドレスの裾を両手で摘まみ上げながら、傷だらけの私に向かって、にこやかにお辞儀してきたのだった。
(つづく)
ブックマークをしてくださって、ありがとうございます。
これまで頂いたPVやポイント評価、ブックマークも励みになっています。
次回の更新は、7月1日(水)午後6時を予定しています。




