76.秋の終わりの冷たい空気
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
私はそっとしなやかに、剣を持ち上げる。
そして、軽くステップを踏むように、ひらひらとスカートをはためかせて、クモの足を一刀両断した。
体制を立て直したクモは、残りの7本の足と、レーザーで私に総攻撃を加える。
でも、私は軽やかに、自然に、ふわりと揺れる鳥の羽のように、その間を漂っていた。
──2本目。
私は、そう思いながら、軽く剣を振り下ろす。
今、私の心は、とてもリラックスしていた。これが、町長と一緒に考えた、私の必殺技。
それは、舞踏剣だった。
精神を集中して、そして得意な(町長はそう思っていた)踊りに集中すれば、恐怖やためらいから解放されて、自由になれる。
そして、体も思い通りに、しなやかに動いたのだった。
続けざまに、8本の足を切り裂くと、球体は地上へ落下した。
そして私は、最後の仕上げに、その球体を真っ二つに切り裂いた。
これで、フィナーレね。
私は、まるでステージに立っているかのように、観客たちに深々とお辞儀をしていた。
「姉御! お辞儀なんてしてる場合じゃないぜ! 鉄のカーテンがもう閉まる!」
北方さんに、目の前で怒声を浴びせられて、私は我に返る。
そう、これが舞踏剣の欠点だった。正気と取り戻すのに、少々時間がかかるのだった。
でも、正気を保ったまま、ひとを殺せるのも、またおかしいでしょう。
それでも、北方さんの怒声が、いい気付け薬になった。
「そ、そうですね。あっ…」
見上げると、鉄のカーテンはもう閉じられようとしている。人が一人、入れるかどうかの隙間しかない。
私はためらうこともなく、背中の黒い羽で、飛び上がった。そして、鉄のカーテンの間にその身を押し込んで、両手で迫りくるカーテンが閉じようとするのを、抑え込んだ。
「は、早く、長くはもちません!」
北方さんと、南原さんは、それぞれのエアバイクに千春と夏海を乗せて、私の側に飛んできた。
「は、はやく…、い、痛いから」
夏海は心配そうな瞳で、私をちらっと見る。けれど、
「夏海! 早くしろ、こいつは、長くは持たないぞ!」
千春は夏海のおしりをぐいと上で押しやった。
「あ、はいっ!」
夏海の慌てたような、はずかしそうな声が、頭の上から聞こえる。
「ぐぅ…、き、北方さんも、南原さんも、早く、して…」
鉄のカーテンに押し付けられた腕は、ちぎれそうに痛かった。
私は、息も絶え絶えになっていた。
しかし、二人は、私から離れると、エアバイクごと床へ降りてしまう。
「ど、どうしたんですか…」
「俺らは、地下の黒真珠の奴らの面倒をみなくちゃならない。だから、ここでお別れだ」
「で、でも、残ったりしたら、こんな脱出騒動なんて起こして…、麒麟にひどい目にあわされるかも…」
「だいじょうぶさ! 姉御におどされて、無理やり協力したってことにしますんで!」
南原さんは、そう叫ぶと、ありがとうと、私に向かって大きく手を振る。
まだ話しておきたいことはあったが、もうこれ以上は、迫ってくる鉄のカーテンを支えきれない。
北方さんたちが決めたことだ。私が口出しすることじゃない。
「姉御! 亨さんの願い、果たしてくれな!」
そう、それが一番、私が北方さんたちに報いる方法なんだから。
「わかったよ、きっと、麒麟を殺します!」
「おうおう、こえーなぁ…、麒麟さまにいいつけないとなぁ~」
私の叫び声を聞いて、南原さんが肩をすくめる。
その様子に、北方さんがわらったので、私もつられて、思わずわらってしまった。
──ありがとう…。
私は心の中でつぶやく。
そして、鉄のカーテンから手を離して、地上へとはい出した。
カーテンは、ゴトンと音をたてて、閉じられた。
秋の終わりを感じさせる、ひんやりとした外気が、私の頬に触れた。
その張り詰めたような感触は、とても久しぶりで、私は懐かしささえ、感じていた。
(つづく)
次回の更新は、7月1日からを予定しています。
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