75.舞踏剣
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
私が見上げた天上には、ぽっかりと円形の穴が開いていた。
瞳の機能をつかって測定してみると、直径30メートルほどもある。
でも、それは少しずつ閉じられようとしている。
両端からせり出してくる、鉄のカーテンが、次第にその面積を広げて、穴を満たしつつあったのだ。
多分、5分が経過しつつあるのだろう。
「急がないと!」
私は思わず振り返って叫ぶ。
しかし、何者かに、横殴りにされて、すごい速さで壁に激突した。
「いったぁ~」
私は、前にもこんなことがあったかなと、狂った町長とのやりとりを思い出しながら、頭を抱えて立ち上がる。
顔をしかめつつ、状況を把握しようと前を見ると、そこには、天井に届きそうなくらい大きな、クモのような形のロボットが、放射状に足を広げていた。
多分、地下から脱出しようとする不届きものを始末するための、ガーディアン的なロボットのなのだろう。
私は、ついてきた夏海たちに目をやった。
壁に張り付いて、互いに寄り添いながら、私と、そのロボットをこわごわと見つめている。
あの鋼鉄の足で殴られたのが私でよかった。
人間なら、体が分断されて即死していただろうから。
私は改めて、目の前のロボットを見上げる。中心にはメタリックな光沢を放つ丸い球体があり、そこから8本の鋼鉄の足が、クモのように放射状に延びていた。
そして、どうしようか考えている間にも、クモは私めがけて、その足を振り上げる。
私はすんでのところで、その鋭い切っ先から逃れる。
足は、まるで豆腐を突き刺したかのように、軽々と壁に刺さっていた。
あれで刺されたら、さすがのこの体も、破壊されてしまう。
私は制服の内ポケットに差し入れていた、【町の職員録】のページを広げた。
「わが町の職員ぴーちゃんへ! 町長臨時代理の名のもとに、いまここに出張を命じます!」
命の危険を感じ取った私はとっさに、ぴーちゃんを呼びだしていた。
掛け声も、考える暇がなかったから、町長に言われた通り、そのままに。
──なんだ、麒麟じゃないのか…
がっかりしたような声とともに、私の目の前に、ぴーちゃんが現れた。
それは、視界を埋め尽くすほどの大きさだった。奈落では、周りに比較するものがなくて、よくわからなかったのだろう。
──さっさと殺っちまうか…
ぴーちゃんは、クモに向かって、かあっと口を開く。
その口元が、どす黒く光り始める。
「ちょ、ちょっと何をする気なの?」
──あのガラクタを暗黒のブレスで焼き払う
「え、私たちは大丈夫なの? その巻き添えを食らったりはしないかな」
──お前なら、だいじょうぶだ、心配するな。お前は、麒麟を殺すために、最後まで連れていく必要があるからな
それって、どういうこと? 私の体はアンドロイド。人間よりずっと丈夫だ。
だから、私がだいじょうぶ=夏海たちも無事、とはならない。
「ちょっと待って、私の体を貸しますから」
──めんどくさいが、まあいい。でも、覚えているな。俺の力を借りる代償を…
それは奈落で出会ったときに、ぴーちゃんから聞いていたことだ。
ぴーちゃんの力を使うたびに、私の記憶のどこかが、抜け落ちていく。
私は覚悟を決めてゆっくりとうなずいた。
さっきもぴーちゃんの力を取り入れたけれど、一応、めぼしい記憶は残っている。
だいじょうぶ、まだ、私は、わたしだった。
でも、失った記憶は、それが存在したかどうかもわからず、失ったことにさえ、気が付かないものかもしれない。
私はその不安を振り払うようにして、頭を振る。髪がさらさらと揺れる。
天上は、もう半分ほど閉じられている。
──まよっている時間はないんだ。
そして、私は、ぴーちゃんを受け入れるようにして両手を広げた。
気がつくと、頭にはフリルのついた白いカチューシャ、そして、服はさきほどのゴシックロリータ風のメイド服に早変わりしていた。
そして、なんだかむらむらと、力が湧き上がってくる感触があった。
それは、衝動にも似た、なにもかも破壊したい、という気持ちであった。
「夏海! 壁のそばでじっとしていて」
姿が変わった私に驚いたのか、夏海は表情をこわばらせながらうなずく。
クモの足が私に向かってひっきりなしに振り下ろされる。加えて、中心の球体からは、絶え間なくレーザーが放たれる。私がかわしたレーザーは壁に当たると、それを真っ赤に溶かして穴を開けた。
──せっかく町長に教えてもらった、必殺技があるのに、これじゃあ、精神統一する時間がないよ…
そう、打倒デスベアーでの特訓の時に、町長から、マリさんもなにか必殺技を作ったらどうかねと言われて、二人で考えたのだった。
私は、おくびょうもので、人を傷つけるのは怖いです、と伝えた。
すると、町長は、そんなマリさんにぴったりの技があるとにんまりとした。
──せめて、7秒時間が稼げれば…
誰かにクモの注意をひきつける囮になってもらうことも考えたけれど、踏ん切りがつかなかった。
夏海はもちろん、北方さんも、南原さんも、一緒に震えているのだった。
私が必死でクモの足とレーザーから身をかわしている間にも、天井の鉄のカーテンは締まりつつある。
そこから差し込む光も、だんだんと細くなっていった。
不意に目の前で爆発が起きた。
クモの制御部であろう、中心の球体が爆発した。
激しい爆風に身をかがめて耐えていると、声がする。
「夏海! やっぱり俺も行く!」
「ち、千春さん」
夏海の声に、私も振り返ると、そこには、まだ砲口から煙が立ち昇るロケットランチャーを肩に抱えた千春が仁王立ちしていたのだった。
しばらく、呆然と千春を眺めていた私は、ハッと我に返る。
ひっくり返ったクモが、今まさに起き上がる寸前だったのだ。
──今しかない!
私はソウルセーバを発現させた。
暗黒龍ピーちゃんの力を体に取り込んでいるので、その光は真っ暗闇だった。
目を閉じる。
ここは、コンサートのステージで、主役は私。
──舞踏剣、剣の舞い
(つづく)
次回は、5月31日(日)午後6時投稿予定です。
いつもながら、PV、ブックマーク、ポイント評価は継続の力になっています。
今後ともよろしくお願いします。




