74.私、意外に強いので
こんばんわ。今夜も、貴重なお時間を割いて、お読みいただき、ありがとうございます。
いつもは壁でしかなかった、私たちの部屋へ続く廊下の突き当りが、四角く切り取られたように開いていた。
取っ手もなにもないから、気が付かなかったのだろう。
「あそこだ、速度を緩めず飛び込め!」
私は必死になって、北方さんだけを見つめて、あとを追う。
こんな狭い廊下を、時速60キロはいってるんじゃないかという速度で走るのはとても怖い。
ちょっとでもハンドル操作を誤れば、私はともかく、夏海は死んでしまうのだから、自転車とは全然ちがうじゃない!
「ひゃっ!」
ドアをくぐるとき、私の髪がすこし壁に触れて、ひやりとした。
夏海はだいじょうぶだったかなと心配なり振り返ると、目を固く閉じて、私にしがみついていた。
その後ろからは、エアバイクに乗った南原さんがついてきていた。
らせん状の非常階段に入ってからも、北方さんは速度を緩めるどころか、ますます加速させる。
私もアクセルを全開にしているのだけれど、やっぱり二人乗りはきついのか、ちょっとずつ離れてしまう。
「もたもたするんじゃねえ! 警備ロボットが来るぞ!」
急がなければならない理由はわかっていた。
まず、今言っていた、警備ロボットに感ずかれること。
私なら倒せるかもしれないが、余計な戦闘をしてエネルギーを消費したくはない。
それに、戦っている時間ももったいない。
そして、もう一つは、地上への最後の障壁となる鉄のカーテン。これが開いている時間は、緊急事態が発令されている5分間だけ。
だから、とにかく急ぐ必要があった。
らせん階段を猛スピードで登っていく。
このらせん階段がパニックなって非難する人であふれないのは、東さんが、各階にいる黒真珠のメンバーにしっかりと根回ししてくれて、(どういう方法かしらないが)住民はおとなしく部屋で待機しているからだった。
そうでなければ、地下での火災警報なのである。
逃げようとする人でらせん階段はあふれかえり、とてもじゃないが5分で地上へはたどり着けないだろう。
気が付けば、私の視界の中で、雨が降っていた。
でも、地下で雨が降るなんて。
そうか、火災と誤認させたから、スプリンクラーが作動しているんだ。
私は制服の袖で、ぐいと顔を拭う。
「姉御! 気づかれたみたいですぜ!」
北方さんの怒声にハッとして目を開けると、そこには、鉄騎士団とは違う、人型で相撲取りのようにぼってりとした体形をした警備のロボットが、私たちに銃口を向けていていた。
その銃口が私に向かって淡く光る。
私は、戦う覚悟を決めると、ソウルセーバーを握りしめて、後ろの夏海を振り返った。
「夏海、ハンドルをお願い!」
「えっ、ええっ!」
私は夏海をそっと振りほどき、ボードを蹴って、前方に飛び上がる。ソウルセーバーを両手に持ちながら。
そして、ばっさりと、その警備ロボットを一刀両断した。
「よっしゃぁ!」
北方さんが、私を追い越しざまに手を振り上げて叫ぶ。
私は、後ろから飛んできた南原さんに、腕をぐいとつかまれる形で回収された。
そして、ふらふらと運転している夏海においついて、改めて、夏海のバイクに飛び乗る。
「こ、こわかったよぉ~」
背中の夏海が、ぐしゅぐしゅ泣いていた。
「夏海は、男の子だったんでしょう?」
男性だから、がんばらなきゃ、というつもりはまったくなくて、それは夏海を励まそうと、私の口から自然にでた言葉だった。
「でも、でも…」
夏海がそうなるたびに、私は、冷静になっていた。
いや、無理をしてでも、冷静になるしかなかった。感情を押し殺して。
「南原ぁ!」
北方さんが後方の南原さんを振り返って叫んだ。
今度は、後方から警備ロボットに襲撃される。
しかも2台、階段を足元のキャタピラーをきしませて、猛スピードで登ってきていた。
いくらエアバイクで全速力を出しても、それは管理用の日用品に過ぎない。
警備ロボットの速度にはかなわないようで、じりじりと差と詰められている。
「おれならだいじょうぶだ! うまく逃げてやるさ」
南原さんは気丈に手を振るう。
「おう! 黒真珠ここにありだ! 見せてやれ!」
北方さんは、南原さんにそう叫ぶも、止まろうとしない。
「た、助けましょう! あんなロボットに生身の人間がかなうわけないです!」
「ばかやろう! あいつの花道を汚すんじゃねえ!! あいつは、亨さんの意志を継ぐお前を、なんとしても地上へ送るため、命すてる覚悟じゃねえか!」
「でも…、私なら助けられるかも…」
私のつぶやきは、この激しい風の音で、北方さんには届かない。
でも、私には、わかっていた。
北方さんの瞳が、ちょっとだけ濡れていたのを。
だから、北方さんを無視することにした。
「夏海、またちょっと、お願い」
「えっ、ええっ!」
夏海は戸惑いながらも、ハンドル操作を変わってくれる。
私は背中のグラディウスを抜き出して、必死で逃げる南原さんを追う、警備ロボットに照準を合わせた。
──射撃は、夜祭の屋台でしか、経験がないのだけれど…。
しかも、いつも、1発も当たらず、残念賞をもらっていたのだ。
でも、今はアンドロイドのマリの体だから、きっと何とかあてられる。
私はグラディウスを、亨がしていたように、床に対して水平に構える。
そして、2体の警備ロボットを凝視した。
すると、私の視界に円形の、ターゲットを示す表示が現れる。
ゆらゆらと不規則に視界を漂っていたそれは、やがて、1体の警備ロボットの頭のところで止まると、赤くなり、それからは、ロボットの動きを追尾するように、勝手に動いていた。
きっとこれは、ロックオン状態なのだろう。前世界の宇宙戦争を題材にした映画でみたことがあった。
「雷霆」
中二病的で、ちょっと恥ずかしくなる技の名前を、私はつぶやく。
私は力を大分抑えて、それを放つ。
亨が放ったのよりはずいぶんと小さい、レーザーのような青白い一直線の光が、その警備ロボットの頭に命中した。
ボスンと音がして、そのロボットは階段から転げ落ちていく。
──よし。もう1体も。
同じようにして、私はもう1体も仕留めた。大分力をセーブしたけれど、少し疲れた。
南原さんは、ころげおちていく2体のロボットをぽかんと見つけれてたけれど、やがて、私に向かって大きく手をふった。
「サンキュー、姉御!」
その言葉に恥ずかしくなりながらも、私は振り返ると改めて、エアバイクのハンドルを握り直した。
そして、のこり1分というところで、地下1階に、私たちはたどりついたのだった。
(つづく)
次回は、5月30日(土)午後6時投稿予定です。
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