73.作戦決行
こんばんわ。今夜も読んでくれてありがとうございます。
作戦決行時刻である4時ちょっと前に、私は目を覚ました。
ぼんやりとした意識がはっきりしてくると、もうすでに部屋が明るいことに気が付く。
ベッドから顔だけ動かすと、もうすっかり準備万端といった様子の夏海と目があった。
「おはよ、ドキドキして眠れなかったんだ」
夏海は笑顔を見せながら、私にむかって、今、おきたの? といった風に手を振る。
私はそんな夏海に、小刻みに揺れる人差し指を向けていた。
「え、そんな格好で行くの?」
見ると夏海は、てっぺんが平ぺったい麦わら帽子に、ピンクのチェック柄の半袖シャツ、それに黄土色のキュロットスカートを着ており、おまけに背中にはだいだい色をしたリュックを背負っていた。
どこかで見おぼえがあると思ったら、前世界ではやっていた、山ガール(登山やトレッキングをする、とりわけおしゃれな恰好をした女性)のファッションによく似ていた。というか、それそのものだった。
「だって、山登りみたいなものでしょう。動きやすい恰好じゃなきゃ!」
「そ、そうだけど…」
もっと目立たない地味な恰好の方がいいんじゃないかな、と言いかけて、私はやめた。
自分の着ていく予定の、いつもの制服の方が、よっぽどこの世界にはそぐわないのだから。
もちろん、それは、高い防御機能があるからという実利的な理由であったけれど。
でも、夏海が愉しそうにしているのはよかった。
直前になって、やっぱり怖くなって、やめるなんて言い出したらどうしようかと思った。
だって、夏海は、地上部への最後の扉を開けるための、DNA生体認証キーなのだから。
そして、期待はしていなかったけれど、千春はやはり来てくれなかった。
私はパッとベッドから起き上がり、立てかけておいた、グラディウスを手に持った。
グラディウスは、戦うときは私の背丈以上の長さがあるけれど、そうでないときは、普段の半分ほどの長さに縮めて置けるのだった。
私はそれを、背負ったリュックサックと背中の間に、おちないように差し込んでおいた。
まだ使い方はよくわからないし、むやみに亨が使っていた技を発動させて、エネルギーが底をついても困る。
だから、メインの武器のソウルセーバーの位置を確認するように、私はそっと腰のそれに触れた。
──知美、今から助けにいくから、待っててね。
午前4時ちょっと前の廊下は、まだ薄暗かった。
シンとしていて、人の気配は一切感じられない。
廊下を進み、約束していた中央ホールについたのは、作戦決行1分前だった。
そこには、もうすでに、北方さんが立っていた。そして彼らのもう一人の仲間の、南原さんも。
「よお」
北方さんは、私の姿を認めると、静かなしかしよく響く野太い声で、呼びかけてきた。
そんなつもりはないのかもしれないが、私はつい怖くなって、びくっとしてうなずいた。
「…なんだその格好は、近くの山に登山にいくんじゃねえんだぞ」
北方さんと、南原さんに二人して笑われてしまい、私と夏海はすこし恥ずかしくなる。
「だか、もう着替えている時間はねえ。朝の取り決めどおり、迷わず一直線で地上を目指すぞ」
北方さんは、時計に目を落とす。
「あと30秒──、エアバイクに乗れ」
私は声に押されるようにして、エアバイクに向かう。それは、3台しかなかった。
「あの…、1台足りませんが…」
「それは2人まで乗れる。お前らは一緒に乗れ」
北方さんにそういわれて、私と夏海は顔を見合わせる。
おたがいに、何を迷っているのか、言わなくてもわかっていた。
これ、一体、どっちが運転するんだろう、と。
私はバイクの免許は持っていなかった。
「夏海…、運転できる?」
私の問いかけに、夏海はふるふると首を振る。
押し付けあっている私たちをみて、北方さんの焦ったような怒声が飛んできた。
「なにやってんだ! そんなもん、自転車に乗れりゃあ使えるから、どっちでもいいんだよ」
「あ、はい」
またまた怖くなって、私はエアバイクに飛び乗って、ハンドルを握りしめる。
夏海も後から乗ってきて、私の腰に抱き着いてきた。
「3、2、1…、行くぞ!」
北方さんがカウントダウンを終えた。それは4時ちょうどになったということ。
遥か上の階らしき場所から、地鳴りのような爆発音が響いてきた。
「よし、西条のやつがうまくやったな」
そう、朝の取り決めとおり、西条さんが中央制御室を爆破したのだ。
もちろん、完全に機能を停止させると、この地下空間の、ライフラインの管理一式及び、換気、調音、空気や水の浄化といった生命維持機能まで損なわれ、大量の死人が出てしまう。
だから、緊急警報が発令される、必要最低限の破壊で済ませていた。
私たちのいたホールは、緊急事態を示す非常灯に切り替わり、景色はだいだい色に変わる。
それとともに、冷静な機械の合成音が鳴り響く。
『緊急火災警報を発令します。25階の中央制御室付近において火災が発生しました。管理者は住民の安全管理に努めてください。その他の住民につきましては、指示があるまで部屋で待機してください。なお、非常階段を解放します。命の危険がある場合について、使用を許可します。繰り返します…』
「もたもたするなよ、ついてこい!」
北方さんの大きな怒鳴り声は、しかし、今の私には、とても頼りに思えていた。
「夏海、つかまって」
私は、思い切りエアバイクの床面に足を踏ん張ってから、アクセルを全開にした。
(つづく)
次回は、5月29日(金)午後6時投稿予定です。
PV、ブックマーク、ポイント評価を頂けて、うれしいです。




