72.深山まり
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
「あ、あんた本当に人間か?」
北方は自分から、食べろ、といったくせに、声を震わせて、私を指さした。
私が、出された料理を、すべて平らげたからだ。
「ま、まあよかった。なら、そろそろ部屋に戻るがいい」
北方に促されるようにして、私と夏海は立ち上がり、出口へと向かう。
無理やりとはいえ、これだけのごちそうをふるまってもらったのだ。
いくらならず者相手とはいえ、お礼は言っておかないと。
振り返ると、北方さん、そして、他の3人が並んで私たちを見送っている。
亨の記憶によれば、あとの3人の名前はそれぞれ、西条さん、東さん、南原さんという名前だ。
「ごちそうさまでした。とってもおいしかったです。ありがとう」
私は、北方以下、並んでいる3人にむかって、とびきりの笑顔でお辞儀をした。
私はこの体が、自分が、とてもかわいいことを知っている。
案の定、4人とも、顔が緩んでだらしない笑顔になっていた。
北方は緩んだ表情を引き締めて、私に頭を下げた。
「姉御のお気持ちわかりました。それで、明日の午前4時に、中央エレベータホールに来てください。絶対に寝坊しないでくださいよ!」
「だいじょうぶです、だって私は…」
アンドロイドだから、と言おうとしたけれど、ちょっと考えなおして、
「世界を救うマリア様、ですから」
と、できるだけ優しい笑みをたたえて、微笑みながら、首をちょいとかしげた。
部屋に戻っても、真っ暗で、知美はいなかった。
わかりきっていたことだけど、しゅんとしてしまう。
「知美…」
私が真っ暗な部屋をみて、うなだれてるのを見て心配したのか、夏海が声をかけてきた。
「だいじょうぶだよ、これから助けに行くんでしょう」
「そうだけど…、成功するかな」
思わず不安を口にしてしまう。前世界では、自分が中心となって、こんな大それた計画を立てるなんて、したこともない。
いつも、誰かの敷いたレールの上を、お手伝い、と称してそのままついていくだけだったから。
「失敗したっていいじゃない、だってあなたは、もう…」
夏海はそういいかけて、私の背中に顔を寄り添わせて、抱き着いてきた。
そのあとは、言わなくてもわかってた。
そう、私は、300年前に死んだのだから。
そして、この後世界で壊される──死ぬと、この体はまた300年前に転送されて、そしてまた、新しい心を連れて、この後世界にやってくるのだ。世界を救うために。
今度は、きっと、私よりも、強くて、勇気があって、思い切りがよくて、それでいて、思いやりがあって、優しい心の、不良品じゃない心の持ち主が、来てほしい。
そうなると、またその人はこうして、夏海と出会うことになるのだろうか。
それとも、博多とんこつラーメンなどという寄り道をしなければ、麒麟なんかにはつかまらずに、そのまま東京へ行けて、そこからバシレイアに行けたのかもしれない。
だとすると、私──、亨の言葉を借りるならば、今回のマリア様は、もうすでに失敗作、詰んでいるのかもしれない。
”かみ”に対抗しうる、大切なもの、【時空転移ドライブ】さえも、麒麟に抜き取られてしまったのだから。
でも──、それでも、ひとつだけよかったと思えることがある。
「夏海と会えてよかった」
私は、そっと背中の夏海を振り返る。
「ん? どうしたの」
夏海は、急に振り返った私を、きょとんとした顔で見つめていた。
いつものように、食事と入浴を済ませて、私と夏海は、二人だけになった部屋で、布団に入った。
一人で寝るのかとおもったら、夏海がそっと布団に入ってきた。
「あっ…」
すべすべした足が、私のそれに触れて、思わず声をあげてしまう。
「いよいよ、だね…」
恥ずかしくて、夏海の顔を見られない私は、そのつんと膨らんだ、下着姿の胸元を見つめていた。
「どこ見ているの?」
「あ、いいなって思って…」
「何がいいの?」
夏海は、目線を私の顔に向ける。そして、私が胸元を凝視していることに気が付いたみたい。
「あ、いけないんだ、エッチ」
「あの、その…」
私は気まずくなって、思わず目をそらす。
「ふふっ、冗談だよ」
夏海の温かい吐息が、顔に触れた。
目の前には、下着の中で柔らかく膨らんだ胸がある。
「うらやましかったんだ、中学生の頃…、女の子が」
私のつぶやきを、夏海は黙って聞いていた。
「女の子が、クラスの女子が、だんだんと女性らしくなっていくのが、耐えがたいほど、うらやましかった。
でも、私はそれとは正反対に、男らしさを増していく。ひげが生えたり、すね毛が生えたり…。とっても嫌だった」
「なら、性転換すればよかったじゃない?」
夏海はこともなげにいうけれど、私は首を振った。
「私のいた、300年前の時代でも、そういうことをする人はいたけれど、それなりに手間も費用もかかったし、なにより中学生では、そんなことはできなかったんだ」
「そっか…」
「それに、300年前の技術では、完全に女性になることはできなかった。それに大人なってから女性になっても、仕方ないと思ったんだ」
「どうして、仕方がないの?」
「きっと私は、女の子として生まれて、何の疑問も持たずに、女の子としての人生を歩みたかったからだと思うんだ…。そう、心も体も、女の子になりたかったんだよ、きっと」
いつの間にか、私は涙を流していた。いろんな感情が押し寄せてきて、自分でもどうして泣いているのかわからなかったけど、たぶん、悔しかったのだと思う。
思うように生きられなかった、深山真理としての人生を思い出して。
「私は、小学生の頃から女装していたんだ。
ゴミ捨て場から拾ってきた女の子の服をきて、部屋の中で、ずっと空想してた。女の子になった自分をね。鏡に映った、女の子の服を着た自分をみて、うっとりしてた。
その世界では、私は正真正銘女の子で、優しい家族や友達に囲まれて、毎日楽しく生活してるんだって…。
でも、その女の子は、決して鏡からは出られなかったんだ」
こんな恥ずかしいことは、今まで、誰にもいったことはなかった。
死ぬまで心の中にしまっておくべき秘密なのだから。
でも、今初めて、苦しかった心の内を打ち明けられて、私は嬉しかったんだと思う。
頭の奥がじんわりと熱くなって、告白しているそばから、涙がこぼれた。
夏海は、そんな私の告白を、黙って聞いてくれた。
「ひとつきいていい?」
「な、なに…、いいよ?」
「その女の子の名前は、なんていうの?」
「え、えっ…と、まり、深山まり、だよ」
私は顔がほてっているのが自分でわかるほど、恥ずかしかった。
そんな私を、夏海は優しく見守ってくれていた。
「泣かないで、まりは、もう、誰がどう見ても女の子なんだから。私が保証するからね」
夏海はそういって、優しくも悲しそうな表情で、私を見つめていた。
(つづく)
次回は、5月28日(木)午後6時更新予定です。
今まで、たくさんのPV、ブックマーク、ポイント評価をいただいて、ありがとうございました。
まだまだ物語は続きますが、これからもよろしくお願いします。




