↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/152

68.おにぎりが食べたい

おはようございます。読んでくれてうれしいです。

少し予定変更をして、朝7時に投稿しました。

今日の夕方、午後6時にも、投稿します。

「ふふ、めったに仕事はないよ。安心して」


 私は、出ていこうとした麒麟きりんの背中に訊いてみた。


「ところで、100人目を達成したら、地上へ行かせてもらえるというのは…」


 麒麟はくるりと振り返る。忘れてた、という表情で。


「ああ、あれね。ここでしっかりお勤めを果たして私が認めたら、そのうちに、ね。行かせてあげるって約束したけど、今すぐとは言ってないだろう?」


 なぜだか私にウインクしてきて、それが余計に腹立たしい。

 そのうちっていつだろう。それはたぶん、私が活動を停止したら、だろう。


 まあ、そんなことだろうとは思っていた。

 ”かみ”にとって、私の体は、活動を停止するまで”管理”しておかなければならない存在、らしいから。

 

 地上へ行くという許可を出せば、当然に、逃げ出すに決まっている。

 私は思わず、悔しくなって唇をかんだ。

 だから、知美を助けるためには、もう強引に地下を抜け出すしか方法はないんだ。


「じゃあ、お仕事がんばって」


 麒麟はそれだけ言い残すと、開いたドアから去っていった。




 麒麟が出て行って、緊張が解けた私は、女の子座りでその場にへたり込んだ。

 そして、数か月間は過ごしたであろう、人間処分場のホールを見渡してから、よろよろと立ち上がり、ホールを後にした。


 麒麟のことなんて信用していなかったけれど、すこしだけ期待していた地上生きがだめになったことで、私はがっくりしてしまった。


 私の体内時計を参照すると、千春にここに連れてこられてから今日まで、2160時間、つまり、90日と3時間経過していた。


 ”かみ”に会うんだって、意気揚々と鹿児島市かごしまを出たのは8月上旬。

 それから3か月経過して、きっと季節はもう秋の終わりなのだと思うと、私は言いようもない切なさを覚えた。

 

 今は午前6時である。あれから3か月後の。


 お腹がすいていた。そして、服はともかく、顔も手足も、血がこびりついて、気持ち悪かった。

 今の私は、まるで、人間の肉を求めてさまようゾンビみたいに思えた。


 こんな格好を知美が見たら、なんて思うだろう。


 私のこと、気持ち悪がって嫌いになっちゃうかな…。




 そんな心配ごとを抱えながら、ふらふらと壁に手をつきながら、歩いていく。


 ひとまず、部屋に戻ろうと思った。


 エレベータの前まで来ると、千春が仏頂面で仁王立ちして待ち構えていた。


「お、おひさしぶり…」


 私はやっとのことで、あいさつする。


 麒麟から、約束を破られたのを知っているからか、その表情はいつもより優しそうに見えた。


「部屋に帰るぞ」


 千春の声に、私は顔を上げる。でも、体が壁にもたれたままで、なかなか思うように動かせない。


 【時空転移ドライブ】さえ取り戻せば、こんなことにはならないのかな。


 なにせ、300年間も、この体に搭載されていた頭脳を生き永らえさせたのだから。


 先ほどまでの、命の危険がなくなり、緊張が解けたいせいで、お腹がすいてたまらない。


 早くなにか食べないと、また、知美と出会った日の夜みたいに、行旅死亡人こうりょしぼうにんになってしまう。


 今感じている空腹が、この体によってエネルギーを補充させるがために、意図的に私の意識に発生させている感覚なのだとわかっていても、やっぱりつらい。

 心までは機械になりきれないのだった。


 そんなことを思いながら、お腹を押さえてうつむいていると、頭の上で声がした。


「食べろ」


 千春が私に向かって差し出したのは、ラップにつつまれた、こぶし大のおにぎりだった。

 私の体が勝手に動いて、千春からそれを奪い取ると、むさぼるように口に押し込んでいた。


 おにぎりを3個ほど食べると、やっとお腹が落ち着いてきて、意識が空腹以外に向き始めた。


 300年後にも、おにぎりってあるんだと思い、前世界と後世界がつながっている気がして、少しホッとした。そうだよね、おにぎりは、江戸時代からあったんだから。


「お前、犬みたいだな」


 千春のあきれたような表情を見て、さっきまでの私を思い浮かべてしまい、赤面したのだった。

 

 そして、私は、千春のあとを追って、エレベータに駆け込んだ。



 

 ドアが開くと、そこには、夏海が待っていた。


「おい、こいつを洗え」


 私は、千春に背中をドンと押されて、よろめきながら、夏海のもとへたどりついた。


「はい」


 夏海は返事をすると、私の顔を見つめてきた。


「いや、見ないで…」


 私は思わず、夏海の視線から避難するように、顔をそむけた。


 服はなぜだか織り直されて汚れがなくなったけれど、髪や顔、手足には、戦いの痕跡である、赤い液体がこびりついていたからだった。

 

 とても、女の子の顔とは思えない。


「だいじょうぶだよ、これからお風呂にいって、きれいなマリさんに戻るんだから」


 夏海は、そっと私の背中に手を添えて、歩き出した。




 一人で体を清掃するのかなと思っていたら、夏海も脱衣場についてきた。


「体を洗ってあげる。でも、千春には内緒だよ。やきもちやくからさ」


夏海そう言って、私の服を脱がせていた。私は、されるがままになっていた。


「それは、どっちに?」


「ふふ、内緒だよ」


 夏海はそうやってはぐらかすが、もちろん、千春がやきもちを焼くのは、夏海と仲良くしている、私に対してなんだろうな。

 夏海のために、女を捨てるくらい、多分、夏海のことを愛しているのだから。


 そして、いつの間にか、私も夏海も、タオル一枚だけの姿で向き合っていた。


「行こ、早くしないと、千春が様子を見にきちゃうといけないから」


 夏海の手招きにつられるようにして、私は浴室に入っていった。


(つづく)

ここまで読んでくれてありがとうございました。

今まで頂いた、PV、ブックマーク、ポイント評価は、継続にあたって、とても心の支えになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。