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64.暗黒龍さんとの出会い

こんばんわ。今夜も読んでくれてありがとうございます。

明日も投稿します。時間は、午後18時になります。

 えい、と自分を貫こうとしたとき、頭の中が揺さぶられるような、低い声がした。


──殺したい…


 それは、声というよりは、巨大な生物のうめき声のようにも思えた。


「えっ…、誰を?」


 私は思わず返事をしてしまう。


──麒麟きりんを、殺したい…


 この狂った塔を作ったのは麒麟だ。直接手を下してはいなけど、だからこそ、余計に始末の悪い、悪の権化なのだ。


「私も、殺したい…」


 私は麒麟の少年のような磁器のような、青白い顔を思い浮かべていた。

 それは、暗闇の向こうで、いやらしく嗤っていた。


──気が合うじゃないか…。なら、お前の体をよこせ…


「よこすと、どうなるの?」


──お前に、俺の強大な力が手に入る、ただし…


 私は、ソウルセーバーを発現させた。

 そして、その青白い光が照らすものを見た。


 深い紫の体は固いうろこに覆われ、そして背後に巨大な羽が見える。

 そう、おとぎ話で見る、龍あるいはドラゴンの姿そのものだった。

 

「あなたが、人々の憎しみの塊、暗黒龍あんこくりゅうなの?」


──そうだ、俺はお前を乗っ取り、そして麒麟に積年の恨みを晴らす…


 乗っ取られるのは困る。そうだ。


「ね、ねえ、私と契約しない?」


──契約だと? 貴様、自分の立場をわかっているのか? 俺は今すぐにでも、お前を食い殺せるのだぞ。


 その言葉に、私はドキッとする。


「でも、私はアンドロイドだし、きっと、おいしくないよ…」


──俺は心をらう。だから、それは関係ない。


 食べられてはかなわないと、私は大慌てで、制服の内ポケットに手を差し入れた。

 そして、まだ手帳の名前を変えていなったことが悔やまれるけれど、【町の職員録】を暗黒龍に見えるように、差し出した。


──なんだ、それは。


お、興味を持ってくれたみたいだ。

わたしはすかさず、片手にもった、【契約のペン】をちらつかせる。


「私と暗黒龍さんとの、お約束。私もあなたに体を貸してあげるから、あなたも私に、その強大っていう力を貸してください」


──そうすれば、麒麟を殺せるか…


「もちろん、保証します」


殺せるかどうかわからないけれど、ここは、疑われないように自信たっぷりという様子で、返事をした。


──なら、約束だ。もし殺せなかったら、お前の命をもらう。


 アンドロイドに命なんてあるのかなと思ったけれど、暗黒龍さんが納得してくれたならいいのだろう。


「じゃ、名前を書くね。えーっと、お名前は?」


──名前? そんなものは、ない


「えっ、暗黒龍じゃないの?」


──なんだ、それは? 人間どもが、勝手につけた呼び名か


 そっか、暗黒龍というのは、人間が勝手につけた名前。いや、名前でさえない。現象の一つなんだ。

困ったな。名前がないと契約ができないみたいだし。


 落下し続けるなかで、私は必死で考え続けた

 そして、出てきた名前は、子供の頃、母親が飼っていた、インコの名前だった。

 安直すぎるけれど、今落ちているという状況のなかでは、それしか思い浮かばなかったのだ。


「…ぴーちゃん、っていうのは? どうかな」


──ぴーちゃん、だと?


 怒りがこもったような低い声に、私はしまったと思った。


 思いつきを言っちゃったけど、大丈夫かな。喰い殺されないかな。

 私はこわごわと、ぴーちゃん(仮)の返答を待つ。


──うん、ぴーちゃんか。…これはかっこいいんだろうな?


 ぴーちゃん(仮)の瞳が、私をぎろりと見つめる。

 もうほかの名前が出てこない私は、こくこくをうなずく。ああ、ばれたら殺されるかな。

 でも、ぴーちゃん(仮)もかわいいと思う。かっこよくはないけれど。


 でも、価値観はひとそれぞれだから。


 伝説の暗黒龍「ぴーちゃん」って、結構イケてないかしら?


──なら、それでいい。契約成立だ。


 私はぴーちゃんの気が変わらないうちに、手帳にペンで名前を書く。落下しながらなので、字がよれよれになってしまった。


──さあ、お前の体をよこせ…


「貸すだけです…」


 私は控えめにそう反論したのだった。

 ぴーちゃんに向かって。




 気が付くと、私は、亨の目の前に立っていた。

 そして、体には、なぜだか力がみなぎっていた。


 99人を倒して、食事も与えられず、ほとんどエネルギーを使い果たして、ふらふらだったのに。

 ふと見ると、視界右上のエネルギー残量を示すであろう数字は、町長の精神を吸い取ったときと同様、振り切れていた。


 よくわからないが、これが、暗黒龍…、いえ、ぴーちゃんの言っていた強大な力の恩恵なのだろうか。

 

 服を見ると、高校の制服は、いわゆるゴシックロリータ風の白と黒のメイド服に変わっていた。


 ぴーちゃんの力を取り入れたことで、体の外側の制服も、織り直されたのだろうか。

 

 この服は、私の気持ちや状態に応じて、自在に変形するのかもしれない。

 

 ただの服ではない。だとしたら、これを直した万里夫は一体、どういう人物だったのか。本当に、ダークウェブで検索するだけで、この体や服を直すことができたのだろうか。

 

 だって、私のいた300年前の前世界には、こんな技術はないはずだった。すくなくとも公には。


 私の頭に浮かんだ疑問は、目の前に立っている亨により中断された。


「ほう、よく戻ってこられたな。その背中の、悪魔のような真っ黒な羽のおかげだな」


 亨に指摘され、私は自分の背中を振り返る。

 そこには、私が想像していたような真っ白な天使の羽とは正反対の、真っ黒な羽が生えていた。おそらく、ひーちゃんの力を取り入れた、高校の制服が変化したものだろう。

 

 おかげで、奈落から舞い戻ってこられたのだ。


「もしかして、暗黒龍と会ったのか」


「はい…」


「だとしたら、その真っ黒な姿、暗黒龍を取り込んだんだな」


 亨は納得したような表情を浮かべた。


「もしそれが事実ならば、もう俺に勝ち目はない。雷霆らいていを放つためには、再度1年かけてグラディウスを充電しなければならないからな。それに、暗黒龍を取り込んだお前に、それが効くという保証はない」


「なら、もう私を壊すことは、あきらめてくれるんですね、よかった」


 私はホッとして亨に歩みよろうとする。でも、


「いや──、さっきも言ったが、どちらかが奈落に落ちるか、死なない限り、出口の扉は開かない」


「なら、なんとか、扉とか、壁とか、壊してみようよ、できるかもしれないよ、やってみよう」


 私の希望に満ちた声は、しかし、亨に否定された。


「それに、お前が不良品という事実にかわりはない…。闇の暗黒龍に取りつかれたお前は、もはやマリア様になる資格を失ったのだ。不良品から、粗大ごみにランクアップだ」


 亨の目が不気味に光ったのを見て、私は踏み出しかけた足を止めた。


「だから、俺が処分してやるよ!」


 1本だったグラディウスを割りばしを割るようにして両手に持ち替えて、亨は私に向かって飛んできた。


 仲良くなれると思い油断していた私は、大あわてでソウルセーバーを作動させる。


 今度は、さっきとは違い、しっかりした剣が出現した。なにせ今の私は、エネルギーに満ちているのだから。

 でも、その色はいつものような白ではなく、なぜだかすべての光を吸収したかのような、黒だった。


 私を切り付けようとしていた亨の剣を、ソウルセーバーで防ぐ。でも、これじゃ、さっきと一緒。なら、いちかばちか。


「おい粗大ごみ! それじゃさっきと一緒だぜ!」


 亨の左手に握られた、もう一本のグラディウスが、私の側腹部めがけて、飛んできていた。


(つづく)

最後まで読んでくれてありがとうございました。

ブックマーク、や評価、PVはとても励みになっています。


次回は、明日の午後6時に投稿予定です。

(万が一ストーリー上の矛盾が発生した場合は、内容について、投稿後でも若干の修正を加えるかもしれません。ご了承ください)

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