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63.邪剣グラディウス

こんばんわ。今日も読んでくれてうれしいです。

 私も亨を見返した。でも、亨の脳内をスキャンしても、亨の心は真っ白だった。そこには、何もなかった。

いや、何十人もの意識が混じっていて、実体がなかった。

 

 こんなこと、初めてだった。


 なんで? と考えている暇はなかった。

 とにかく、私は亨を蹴飛ばして、距離を取った。


「あなたは、何者なの?」


「私はとおるさ」


 亨はバカなことを聞くな、といった様子だった。


「ふざけないで。…あなたは、どうして、心が何もないの?」


 もう一度問い詰めると、亨はふぅとため息をついた。

 説明するのがめんどくさそうだった。


「私も桂司と一緒だったのさ。差別され、虐げられて、この地下へやってきた。それからも、なおひどい目にあってきた。私は、苦しみから何度も自殺をして、何度も蘇生させられた。

 通常なら、4、5回もそうすれば、気が狂って、この処分場へ送られるはずだった。でも、私はそうはならなかった」


「どうして…」


「自分でも、よくわからない。ただ、猛烈なあふれ出る復讐心、憎しみのせいかもしれない。私は苦しめたものを絶対に許さない。殺してやるという憎しみ。それが、私に狂うことさえ、許してくれなかったのだろう」


 私はソウルセーバーをゆっくりとおろして、亨の告白を聞いていた。


「蘇生される度に、オリジナルの記憶はすこしずつ失われていく。私のようにひどい記憶がある場合はなおさらさ。2、3回ならば、まだ影響はないが、数えきれないほど蘇生を繰り返していると、蘇生前の自分と蘇生後の自分が同じだとは思えなくなる。そして蘇生に使用した、他人の肉体の記憶も、そっと私の心に混じってくるんだ」


そっか。だから、ある意味亨も、私と同じ、もう、人ではないんだ。


 最後に亨は、こう付け加えた。


「マリア様も、気を付けた方がいい。人の記憶を見ることは、その人を自分の中に入れることだから、やりすぎは体に毒だ。ほら、ある哲学者も言っていただろう。深淵を覗いていると、深淵もまたあなたを覗き込むって」


 ちょっと意味が違うと思うが、当たらずとも遠からずとは思える。


「私はマリア様ではありません、マリという名前があるんです」


「機械人形にも、名前があるのか。それは失礼した。まあ、私みたいな生物にも、いちおう亨という名前はあるのだからな」


そういって、亨は自虐的な笑みを浮かべた。


「私は、人間でした。いつか、300年前の元の世界に帰るんです」


「そうか。なら、近道を教えてやろう。さっきので、もう十分、お前が不良品ということはわかったからな」


 どうして亨は私のことを不良品だと断定しだのだろうか。


 もしかして、さっき私が、亨の脳にアクセスしたときに、私も亨に逆アクセスされていたのか。それで、私の記憶を覗き見た亨は、私の正体を知った──。


 亨は両手に持っていた剣を、ゆっくりと胸の高さまで持ち上げて、その2本を重ねて、一本の剣にした。

 二つに分かれた、深いコの字型の刃が出来上がった。

 そして、その切っ先を私に向ける。


「これは、超電導ちょうでんどうリニアブレード、別名神殺しの邪剣グラディウスだ」


 その亨の身長くらいはある、長い剣の切っ先が私に向かって鋭く光っていた。

 私はまるで銃口を向けられた処刑人のような恐怖を感じた。


「そんなもの、どこで手に入れたんですか?」


 私が訊くと、亨はグラディウスに目を落とした。

 長いまつ毛が、瞳に影を落としている。


「ふふ、ある武器商人が、遺跡から面白いものが発掘されたっていうんで、俺に売りに来たんだ」


 遺跡、それは、300年前の、現在廃墟となっている都市のどこかだろうか。


「でもな、これはもともと、マリア様が”かみ”を倒すのに使う武器なんだ。それが、流れ流れて、俺のところにやってきた」


「なら、私に返してください」


私はダメもとで亨に向かって、真っ白なてのひらを差し出した。


「さっきも言っただろう。お前は不良品のマリア様だ。もったいなくてこれは渡せない。だから、ここで始末する」


 亨は再びグラディウスを私に向けた。


 私は怖くなって、逃げようと思ったけれど、この人間処分場はどこへも出口はなく、あるとすれば、奈落へ落ちる逃げ道しかなかった。


 でも、それは私にとって、永遠に近いほど長い時間、眠り続けるということだった。

 そして、そうなると世界はループせず、この理不尽に思える”かみ”、による支配が決定してしまうということ。


 ならば、私は亨の攻撃を受けて、消滅した方がいいように思える。


 そうすれば、時空転移ドライブが発動して、また世界は、300年前の最初からやり直しになるはずだった。


 麒麟の言っていたことが、本当であれば、だけど。


 私は、どうすることもできず、足を震わせて、その場に立ち尽くしていた。


「さようなら、マリアの体よ、今度は、こんな臆病者で、男か女かよくわからないクズじゃなくて、もっとちゃんとした奴を連れてこい…」


 私が見つめる先の、グラディウスが光輝いた。


雷霆らいてい


 亨が私に向かって、起動させるのに必要なのだろうか、必殺技のような言葉を叫び、二つに合わせた剣の間から、光の塊が放たれるのが見えた。


 どこかでみたようなきがする。

 そう、天の裁きに、そっくりだった。


 光の速度で来るそれは、時空転移ドライブにより機能する、【時間圧縮】が使えなければ、回避することはできない。


 一瞬の瞬きのあと、私の周囲は真っ白な光に包まれていた。




 落下していく感覚があった。

 そっと目を開けると、私は真っ暗な空間を、際限なく落ちている。

 

 亨の攻撃を食らい、ステージからはじかれたに違いない。


 一体どれくらいの時間落ちているのだろう。それとも、永遠にこうやって落下し続けるのだろうか。


 私の体が活動を停止する、何百年間も…?。


 そうなると、時空転移ドライブは発動せず、世界はもうループしない。


 今の”かみ”による支配が確定して、世界はこの先も、続いていることになる。


 でも、私はそれでもいい、と思っていた。

 だって、前世界と、この後世界、実を言えば、そんなにも変わるところはない気がする。


 弱肉強食の世界。結局は同じなのだ。むしろ後世界の方が、しっかり管理されていて、快適な気さえするのだ。


 気がかりなのは、知美だった。このデザイアの塔を出ることができなければ、いずれ発狂してしまうかもしれない。

 今更だけど、連れてこなければよかった。

 私が、知美と一緒にいたかったから、ついなんとなく連れてきてしまったんだ。


 永遠とも思える時間落下し続けるなかで、私の中に一つのひらめきが生まれた。


──自分で自分を壊せば、世界はループする。


 どうせ奈落に落ちてしまった身なんだ。失敗しても、リスクはない。

 むしろこのまま永遠の時を落下し続ける方が、計り知れない苦痛に思えた。


 私は、ひらひらと暗闇を舞うスカートの裾を見ながら、ソウルセーバーに手を伸ばす。

 そして、それを発現させた。

 真っ暗闇の中に、それだけが青白く輝いていた。

 その輝きは、私の精神力であり、命そのものに見えた。


──知美、ごめんね。お姉ちゃん、ここまでだったよ。でも、私がいなくなれば、また時間は戻るみたいだから、今度こそ、きっと、新しい誰かと、この世界を終わらせてね。


 私は両手でソウルセーバーを持ち、その切っ先を自分の胸に向けた。


(つづく)

次回は、5月18日(水)午後6時に投稿予定です。


PV、ブックマーク、ポイント評価はとても励みになっています。

まだまだ続きますので、今後も見守ってください。よろしくお願いいたします。

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