54.塔の最深部にあったもの
こんばんわ。今日も読んでくれてありがとうございます。
私は二人を起こさないように、制服に着替えて、部屋を出た。
体内時計を参照すると、深夜3時。
どこへ行くのかも告げられず、不安になっていた私は、思わず歩いていく千春の背中に向かって聞いていた。
まさかとは思うけど、千春の管理室で、ふたりっきりで、仲良くチュッチュッする…、なんてことはないのだろう。
私は頭に浮かんだ妄想を振りはらうように、頭を振り、千春に訊いてみた。
「あの…、こんな夜中に、どこへ…」
「あとから説明する。だまってついてこい」
千春は相変わらずぶっきらぼうに言う。
その作業着のような制服の胸元は、脂肪か胸かそれとも筋肉かで、暴力的に盛り上がっていた。
でも、今はそれに見とれている場合ではないような気がした。
エレベータに乗り込むと、千春は操作パネルを鍵であけて、下へ行くボタンを押していた。
そして、真夜中、無言の私たちを乗せて、エレベータは降りていく。
エレベーターはずっと止まらず、どこまでも降りていく。
地の底の、そのさらに底まで下りていくような感覚がして怖くなった。
ここから、帰ることができるのだろうか、と。
どれくらい時間が経過しただろうか。エレベータは停止し、扉が開く。
そして、千春が歩き出したので、私も無言で後を追う。
青白い灯りで冷たく照らされている細長い廊下のさきに、小さな扉があった。
ドアには取っ手はなく、代わりに円形のバルブハンドルが付いている。
千春が両手でそれを力いっぱい回そうとするが、動かない。
その袖からはみ出した太い腕に力こぶをたぎらせて、再度力を込めるが、びくともしなかった。
「あの…、私がやってみましょうか?」
「うるさい…」
千春は私の申し出を断り、がんばっていたが、やはりびくともしない。
「やっぱり手伝え!」
千春は振り向きざまに、私に叫ぶ。
「は、はい…」
私は千春の横りに立ち、一緒にバルブハンドルを回す。それは、ゆっくりと回転し始めた。
そして、厚さ30センチはあろうかという、鉄の扉がゆっくりと開いていった。
「ここが、今から、お前の仕事場だ」
千春のあとを追って、分厚い扉をくぐった先で私が見たものは、大きな穴だった。
それは、そこが見えないほど深くて、真っ暗だった。
この穴の奥深くに、夏海の記憶から教えてもらった「暗黒龍」がいるのだろうか。
そして、穴の中心には、直径20メートルほどの円形の床が、浮かんでいた。
その床は、天井から伸びる、4本のワイヤーで、吊り下げられている。
扉から、その円形の床に向かって、まっすぐに道が伸びていた。
反対側にも、扉があり、同様に、円形の床へ道がつながっている。
まるで、闘技場みたい。
私は扉の前から一歩も進まず、千春に聞いてみる。
「ここで、私は何をするんですか?」
「ここは、人間処分場だ。お前は、向こうの扉から送られてくる人間を殺し、その穴の底へ突き落して処分することが業務だ。人を殺したお前には、ぴったりの仕事だろう」
千春の、最後の言葉に私はドキッとした。
私が何も言えず黙っているのを見て、千春はつづけた。
「向こうの扉からやってくる人間も、お前と同様に、人殺しをしたか、あるいは使い物にならなくなって、発狂した人間のどちらかだ」
「発狂って…?」
「デザイアの塔では、奴隷が一生地下で働くという希望のない生活のせいか、自殺が多発している。でも、それを放置すれば、いずれ奴隷がいなくなってしまう。それで、自殺した人間や殺された人間はかならず蘇生させる。死んでも逃げることができなければ、自殺は防げるし、自殺による奴隷の減少も抑えられる」
「それが人間の発狂と、どういう関係があるんですか?」
「何度も自殺して蘇生を繰り返していくと、自殺時の身体的、精神的ショックと、生き返ったときの絶望で、脳がだめになっていく。そして、次第に人間性を失っていく。
最終的には、奇声を上げて、血が噴き出すまで自分の体をかきむしり、泣き叫び、所かまわず排泄し、周囲に危害を与えるだけの、獣に成り下がるんだ。
それを我々管理者は「発狂」と読んでいる。そこまで行くと、さすがにもう、生かしていても役にたたないから処分するしかなくなる」
自殺して逃げることすら許されないなんて、なんてひどい世界なんだろう。
知美はそのことを知らないからともかく、夏海はそれを受け入れているのだろうか。
それにしても、こんな塔、一刻も早く脱出しないと、知美が心配だ。
けれど、こんな地下の底の底に押し込まれてしまっては、脱出がますます遠のいてしまう。
「…、そ、それで、私はここへ連れてこられたのは、どうしてですか?」
「お前が人を殺したという通報があった。理由はどうあれ、デザイアの塔では、人殺しは許されない。だから、お前も処分の対象になった」
「処分って、死刑ってことですか?」
不安になった私は、思わず大声で聞き返す。
千春はゆっくりとうなずいた。
「だって、あれは、黒真珠の人が、私の頭をすごい力で踏みつけてきたんです! あっちだって悪いんです!」
「そうかもしれないが、結果がすべてだ。お前は生きている。そして、その黒真珠のメンバーは死んだ」
どうやらデザイアの塔には、まともな司法制度はないようだ。
「だが、チャンスはある。この処分場で、100人を奈落の底に突き落とせば、お前は地上の世界へ行くことができる」
「100人を、突き落す…?」
千春の言葉に、私はおもわずつぶやいていた。
「え、誰がそんなルールをつくったんですか?」
「麒麟さまのご趣味なんだろう。この処分場の様子は、地上世界へ娯楽の一つとしてその様子がデザイアの塔内ネットワークで配信されている。地上へ行けるという餌があった方が、奴隷どもが死に物狂いで戦うから、面白くなるのだろう」
「いままで、100人を連続で処分して、ここから出られた人はいるんですか? そもそも、不可能に思えるんですけど…」
今日の千春は、質問によく答えれくれる。私はここぞとばかりに質問した。
「かつて100人斬りをなしとげたのは、黒真珠のリーダーの、亨ただ一人だ」
(つづく)
次回は、5月9日(土)19時更新予定です。
PV、ブックマーク、ポイントを入れていただいて、ありがたく思います。
これからもよろしくお願いします。




