45.身体測定
こんばんわ。いつも読んでくれてありがとうございます。
PVやブックマークをいただけて、うれしく思っています。
麒麟に連れられて入った部屋は、300年前に医療ドラマで見たことがある、病院の手術室のみたいだった。
「さ、そこのベッドに横になって」
麒麟は台がむき出しになったベッドを指さした。
「なにするの?」
私は麒麟に疑いの目を向ける。思わず、自分のを守るように、体を両手で抱きしめた。
「【時空転移ドライブ】を取り出すんだ。そうすることで、そのドライブから供給されるエネルギーに依存していた、マリさんの特殊能力、つまり【時間圧縮】と【絶対防御】は使えなくなる。そして、その体が破壊されるときだけに発動される、【時空転移】もね。マリさんは、普通の女の子に戻れる。そうなれば、もう奈落の底に封印する必要はないわけだ」
それを取り出す手術をこれから行おうというわけなんだ。
私はベッドと見つめて、ためらっていた。
言っていることが本当だとしたら、もう”かみ”を倒せる可能性はなくなる。それに…、
「ドライブを取り出したあと、私を破壊するんでしょう」
「ふふ、そんなことはしないし、できなんだ。たとえマリさんから転移ドライブを外して、そのあとその体を破壊したとしても、遠隔で転移ドライブが発動してしまう。300回のループの間に検証済みさ」
「なら、取り出した転移ドライブを破壊すればいいじゃない」
「そんなもったいないことはできない。これは、この世界には存在しない物質で作られていて、二度と作ることができないものだ。…”かみ”を倒すことができるかもしれない、唯一の手段だ。大切に使わせてもらうよ」
麒麟は不敵な笑みを浮かべていた。
それがどういう意味か、私にはわからなかった。
でも、逃げられないのは事実だった。なら、また恐怖を味わうよりは、素直に従おうと思った。
「知美と、また会わせてくれますか?」
私は自然に涙声になっていた。
「もちろんさ。普通の女の子になって、ね」
麒麟の言葉に、私はそっとベッドに足を進めたのだった。
目を覚ますと、真っ白な見知らぬ天井が目に入り、布団に横になっていた。この体に搭載されている体内時計を照会してみると、3時間ほど経過しているようだった。
私は床に手をついて、ゆっくりと起き上がる。
麒麟は、【時空転移ドライブ】を取り出したというが、とくに調子が悪いところはない。
着ている服は、高校の制服だった。後世界で、おそらくは最高の防御力を誇る服だけど、麒麟は返してくれたみたいだ。
しばらく布団にすわってぼんやりしていると、目の前のドアが開いた。
「起きたなら、早くでろ!」
すこし甲高い叫び声とともに、頭を借り上げた、すこし小太りで、でも体格がよい男性が姿を現した。
私はびっくりして、思わず背筋を伸ばした。
「は、はい…」
ドアを出たところには、小さな部屋があり、大きな姿見が設置されていた。
鏡にはすこしおびえた表情の私と、その後ろにさっきの男性が立っているのが映っていた。
「その変な服を脱げ」
「えっ…」
ここ最近、すっかり女の子としての生活が板についてきたのか、私は戸惑ってしまった。
いや、男だったとしても、知らない人の前で全裸なるのは、はずかしいかな。
とても断れるような雰囲気ではなかったから、私は素直に服を脱ぐ。
そして、胸とあそこだけを手で隠して、一糸まとわぬ姿が、鏡に映っていた。
不意に頭を挟まれるように、両手で触られる。それは頭、顔、首、胸とだんだんと下りてくる。
その冷たい手の感触に、私は身震いする。
「性別チェックだ、俺も女だった。気にするな」
気にするなっていったって、あなたの見た目はまるっきり若い男性なんですが…。
それにしても、女だったって、まさか、トランスジェンダー?
私は顔をひくつかせながら、私をチェックし続けるその人を見る。
でも、そういえば、男性のはずなのに、ひげは生えておらず、体全体もふっくらとしている感じだ。
その表情は女性らしい優しさの名残があり、おなべっぽい雰囲気が漂っていた。
「じろじろ見るな」
甲高い声に私はビクッとして、気をつけの姿勢で直立不動になる。私の胸があらわになってしまう。
でも、その人はそれにはあまり興味を示さず、たんたんと身体チェックをつづけたのだった。
やっぱり、元女性だからかな。
「服をきろ」
私はあわてて服を着る。
「こっちへ来い」
言われるがまま、エレベータに乗り込む。
さきほど麒麟と一緒に乗ったエレベータとは違い、景色を映し出すことはなく、無地の壁面が私を取り囲んでいた。
その人は鍵取り出して、パネルを開けると、ボタンがあった。そして、その一つを操作する。
どうやら、権限がないと、エレベータは使えないようだ。
だとすると、これから連れていかれる場所は、どういうところなのか、想像ができる。
自由に出入りが許されない、刑務所のような場所。
いや、私は犯罪者ではないけど。
エレベータが下りていく感触があった。
結構長い時間、その人と二人きりだった。
刈り上げた頭に、固太りした体に、大きな背中。
無言が気まずくて、変に気を使ってしまう私は、話しかけてみた。
「あの…、お名前は、なんていうのですか?」
「…千春」
「あ、女の子みたいですね、あ、いえ…一般的にという意味で」
思わず言ってしまったが、あわてて、わけのわからない言い訳をする。
でも、千春はなにも言わず、黙っていた。
ほどなくして、エレベータが止まる。千春がだまって歩き出すので、私も慣れたもので、無言でその背中を追っていた。
そして、エレベータホールから伸びた、両脇にドアが並んだ、細長い廊下を進んでいく。
なんだか、ビジネスホテルのようだった。
麒麟が、大切な奴隷とか言っていたから、奴隷たちの居住区だろうか。
私がいろいろ考えながら歩いていると、千春は、一番奥で、歩みを止めて、ドアノブに手をかけた。
「ここだ。お前らの奴隷の部屋だ。しばらく待機。追って指示する」
部屋に入ると、ドアがガシャンと閉じられて、外から施錠された。
振り返ると、そこに、知美が地べたに座り込んで、目を潤ませて顔で私を見ていた。
「お、お姉ちゃん…、生きてたんだ。よかった」
私は知美と、抱き合って、二人とも泣きじゃくっていた。
(つづく)
次回は、4月23日(木)19時投稿予定です。




