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44.私の体にあったもの

こんばんわ。お読みいただいき、ありがとうございます。

次回は、4月21日(火)19時投稿予定です。

「マリさんは、こっちだよ」


いつの間にかやってきていた麒麟が、エレベーターの前手招きをしていた。


 私は後ろ髪惹かれる思いで、ウルフに連れられている知美を見つめながら、麒麟に向かって歩き出す。


 麒麟の側までやってくると、麒麟はパチンと指をならした。すると、私の手錠は、砂のようにさらさらとくだけちっていく。

 私は、両手を手錠がはめられていたときの形のまま、胸にそえて、すこし背の高い麒麟を見上げて聞いてみる。


「いいの? 逃げ出すかもしれないよ」


「ふふ、知美さんを置いて、マリさんが逃げるとは思えないからね」


「なら、ここであなたを殺すかも…」


「マリさんは賢いから、無駄なことはしないって、わかってる。信用しているんだ」


 麒麟は余裕の笑みを浮かべていた。

 たしかに、その通りだった。

 私の気持ちは、さっきの鉄騎士団との闘いで、完全に折れていた。麒麟はそれをわかっている。


そして、麒麟と二人きりでエレベーターに乗り込んだ。そして、ゆっくりと上昇を始める。


 塔の中心部にあるから、外の景色なんて見えないはずなのに、塔もエレベーターの壁も透明になっているかのように、荒野となった大阪の街が一望できた。

 まるで、私たちの立っている床だけが、空中へ上昇していっているようだった。


 私は思わず、高さ300メートルの高層ビル、べあのハルカスを探してしまう。

 もちろん、そんなものは見つけられなかった。

 とっくになくなってしまったのだろう。


 私が目を丸くしているのに気が付いたのか、麒麟の声が後ろからした。


「ふふ、そんなに驚かなくても、たいした技術じゃない。ただ、エレベータの壁に外の景色を映し出しているだけだ。300年前でも実現可能だったはずだ」


 たしかにそうだけど、これほどリアルに精細に景色を壁面に反映させることができていただろうか。


 私たちを乗せて、床面は際限なく上昇していく。ついには雲を突き抜けて、天空までやってきた。

 視界の下には、ところどころ浮かぶ雲のしたに、茶色く廃墟となった大阪の街が見える。

 でも、人間の活動がなくなり、大気汚染がなくなったせいで、空気が澄んでいて、山や海はきれいに見えた。


 私が景色に夢中になっていると、麒麟も横にやってきて、ゆっくりと話し始めた。


「この後世界について、マリさんはどこまでしっているかな」


「ある程度なら…」


 私は町長に教えられたことを思い出しながら、前をみたまま、返事をする。


「なら、この世界がループしていることも、わかっているかな?」


「え? ループしているって、どういうことですか?」


私は驚いて思わず、隣にいる麒麟を見上げる。端整な横顔が、私の瞳に映った。


「それは知らなかったんだね。マリさんの体は、鹿児島市のとある廃墟になった高校で発見される。

 そして、この後世界を、もとの人間が支配する世界に戻すため、あわよくば自分の世界に帰るために、バシレイアに向かう。そして、”かみ”との戦いに敗れ去り、その体は破壊されてしまう。

 でも、破壊される寸前に、その体にそなわっている、【時空転移ドライブ】により、時間を逆転させて、300年前に戻る。そして、そこから、また新しいだれかの心を連れて、この後世界にやってくる。その繰り返しさ」


 知らなかった。


 それにしても、【時空転移ドライブ】ってなんだろう。思わず頭に手を当てる。ここに入っているのだろうか。【時間圧縮】や【完全防御】もその力の源のおかげなんだろうか。

 私が不思議そうな顔をしていると、察したのか、麒麟は補足説明をした。


「【時空転移ドライブ】とは、その体の力の源だ。

【時間圧縮】は、あの町長は、マリさんの思考を高速化させることによって、周囲が遅くなって見える、と理解していたようだ。

 ほら、人間だって命の危機のときには、景色がスローモーションになるっていうだろう、あれと同じようなものさ。実際に時間を操作しているわけじゃないと、町長は思っていたのだろう。

 でも、実際はそうではない。

【時間圧縮】は本当に、マリさんの時間だけを早めているんだ。だから、相対的に、それ以外の時間の流れはゆっくりとなる。

 そしてそれを引き起こすのが、【時空転移ドライブ】。300年前、宇宙から飛来した隕石から、真っ赤な鉱物が発見された。それを利用して、あるアンドロイドの科学者が、マリさんの体を作り上げたらしい。そして、同様の設計図でもう一体を作ったところで、鉱物を使い果たし、二度と同じものは作れなくなった」


 この体に、時間を逆転させる機能があったなんて。でも、それはこの体が崩壊するときにしか発動しないようだし、もしそうなったら、今マリの体に入っている私の心も消滅してしまうだろう。

 この体に、私よりも前にはいっていたであろう人たちと同じように。


「なら、私は何人目なんでしょうか」


「マリさんの体にはいっているだれかさんの心、それを君とよぶならば、君でちょうど300人目だ」


「でも、ループして時間を戻されているのに、どうしてあなたはそのことを知っているですか? だって、あなたの記憶だって、戻されるはずじゃないですか」


「”かみ”だけは、この300回のループに起こったすべての事象を記憶している。そして、”かみ”は私たち四天王、いや、今は3人かな、にもその記憶を分け与えてくれるんだ。だから、知っている」


「でも、私を破壊すると、その…、【時空転移ドライブ】っていうのが発動するなら、このループを止めるには、私を生かしておくしかないじゃないですか。そして“かみ“も私を殺せない」


「そう…、生かしておくしかない。”かみ”は300回の繰り返しのなかで、ようやくそのことに気が付いた。その体の【時空転移ドライブ】による逆行を引き起こさせないためには、転移ドライブの発動のトリガーとなる、体の破壊を引き起こさなければいい。つまり、その体が自然に活動を停止するまでの長い時間、生かさず殺さず、封印しておけばよい、それが答えだったんだ」


「封印って…」


「でも、だいじょうぶ。それよりもいい方法がみつかった。…ほら、最上階についたみたいだ。続きは部屋でゆっくりと話そう」


 私は真実を聞いて呆然としていた。

 そして、まるで夢遊病者のように、ふらふらと麒麟のあとを追って、エレベータを出た。


(つづく)

お読みいただき、ありがとうございました。

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