43.デザイアの塔へ
こんばんわ。読んでくれてありがとうございます。
ブックマークしてくださっている方、ありがとうございます。
PVも励みになります。
途端に、地面が激しく揺れて、バランスをくずしてへたり込む。
同時に轟音が鳴り響く。
まるで、核ミサイルが投下されたかのような。
いや、実際には知らないけど。
しばらくして、また元のように静かになった。
幸い、この地下鉄駅はさきほどの激しい衝撃にも耐えて、崩落せずに済んだ。
ひとまず重たい知美を、そっと壁にもたれさせるようにして、地面に座らせた。
地上へ出ることはできないので、どうしようかとうろうろしていると、トイレを見つけた。
並んでいる個室のドアを開けてみると、白骨化した死体があった。
300年前にアンドロイドが”かみ”にあやつられて狂ったときに、トイレに逃げ込んだのだろうか。
私はそっと、両手を合わせて、冥福を祈った。
洗面所の割れた鏡に映る私の顔は、すこし疲れているようだった。
知美の元へ戻るが、まだ目を覚ましていなかった。
無理に覚ましても、麒麟から逃げられないという悲惨な現実があるだけである。
もう少し、ここで寝かせておこう。
そして、地下鉄の線路を移動して、一番遠くの駅から地上へ出る。それから高速道路へ向かい、そこで、無人運転トラックを強奪して、鹿児島市へ戻ろう。
私はいちおうの行動計画が決まって、すこし安心する。
そして、知美の横に、同じようにして腰かけて、前を見つめた。
耳を澄ませていると、階段から、こつん、こつんと足音が聞こえてくる。
思わず私は耳を澄ませる。
この町で動くものといえば、私と知美と麒麟だけ。
曲がり角から姿を現したのは、やっぱり麒麟だった。
「見つけた」
麒麟は楽しそうに笑った。
私は思わず、知美を抱きかかえるようにして、叫んだ。
「殺さないで、せめて、知美だけは…」
「だいじょうぶだよ。大事な奴隷を殺したりはしない。安心して」
麒麟はその少年のような顔に、優しい笑みを浮かべる。
思わず安心してしまいそうになるが、先ほどの徹底的な破壊を思い出し、私は首を振る。
麒麟は私たちを殺そうとしたんだ。
「さっき、殺そうとしたじゃないですか」
「すべて計算ずくだよ。私はマリさんならきっと逃げおおせると思っていた。そして、こうやって見つけられた」
麒麟の言い訳は、私の耳には届かない。どうやってこの場の切り抜けるか、必死だったから。
【時間圧縮】はもうエネルギーが残りすくなくて、使えない。
もう一度、麒麟を蹴飛ばして吹っ飛ばせば、時間稼ぎができるかとも思ったが、この地下鉄駅では逃げ場がない。
私は、麒麟をまっすぐに見つめて、言った。
「妹を、知美を殺さないと約束してくれるなら、おとなしく、つかまります」
「ふふ、約束しよう。私はデスベアーのように野蛮じゃないからね、さ、外に車を待たせてある。ついてきて」
麒麟はそういって、私たちに背中を向けた。
私は、知美を背負って、おそるおそる麒麟の後ろをついていった。
地下鉄駅を出ると、目の前には、黒塗りの護送車が待っていた。
テレビのニュースで見たことがある、囚人護送車によく似ていた。
「さあ、のりなさい」
護送車の前で、麒麟は振り返った。
先ほど麒麟に白旗を上げていた私は、特に抵抗もせず、あきらめてワゴン車に乗り込んだ。
すると後ろから、狼人間が私のおしりに手をあてて、車内に押し込んできた。
「ちょっと、おしりをさわらないで!」
「人間のメスには興味はねえよ」
「あんたはよくても、私は嫌なの」
「麒麟さまの面前だ。静かにしろ!」
ウルフ人間は、座席に座った私たちに、拘束のためのベルトをかけてから、出口の前に座り、ワゴン車のドアを閉じた。
そして、同じく、ウルフの獣人の運転手に、よし出発しろ、というようにあごで指示していた。
私と知美は、両手首に手錠をはめられていた。
悪いことをしたわけではないのに、その手錠の冷たさと重たさになんだか、悲しみがこみあげてきた。
振り返ると、麒麟が見送るように手を振っている。
体を動かそうにも、ベルトがしっかりと食い込んで痛くて動かせない。
知美は首をだらりとして、まだ気絶しているみたいだった。
でも、むしろそれでよかった。
やがて、私たちを乗せた護送車は高速道路に入った。
そして、スピードを上げる。
私は、窓ガラスの景色の中で、すこしずつせまってくる、麒麟の支配するデザイアの塔の輝きをみつめていた。
廃墟と化した大阪の街に、それだけが青白く光り輝いて、そびえたっている。
それを見つめながら、今までの出来事を、どうやって知美に説明したらいいのか、じっと考え続けていた。
デザイアの塔は、入り口が高速道路のインターチェンジと直結していた。
護送車はすべるように、その塔の内部へ進んでいく。
塔の中を中心に向かって進んでいき、車はロータリーで停車した。
「降りろ」
ドアの横に座っていたウルフは、うなだれている知美の髪の毛をひっぱり、乱暴にひっぱりあげて、ゆさぶった。
私は反射的に、止めに入っていた。
「ちょっと、やめてください」
「奴隷の分際で、何様のつもりだ!」
ウルフ人間の眼球がギロリと動き、パンチが私の頬を直撃した。
そして、私の頭が、窓ガラスに激しく打ち付けられた。
人間のパンチよりも、ずっと重たくて痛い。きっと、筋力も人間の何十倍もあるに違いなかった。
「おいおい、かわいそうじゃねえか。大事な奴隷だぜ?」
運転席のウルフが、茶化すようにな声で、にたにたしながら注意した。
当たり前だが、私のことを気遣っての発言ではないことは明白だった。
私は、頬を抑えながら、無言で、私をなぐりつけたウルフをにらみつけていた。
「だいじょうぶだぜ? むかつく目でこっちをみてやがる」
そして、ウルフは乱暴に知美の髪をひっつかんで、投げ捨てるように車外に放り投げる。
私は思わず身を乗り出す。
今ので、知美は目をさましたようだ。
しかし、現状を把握できず、ただ、震えて泣きそうな目で、私を見ていた。
──そう、今はただ、言うとおりにして。
私は知美を見つめて、メッセージを送る。
知美は、私だけにしかわからないくらい、かすかにうなずいた。
「お前もでろ!」
相変わらず、ウルフ人間は荒っぽい。私の町のオークさんたちが、どれほど優しかったのか、今になって感謝してしまう。
私は、先ほど殴りつけられて、とても痛かったので、今後は体が勝手に従った。
あの衝撃は、生身の人間なら、間違いなく頭蓋骨が砕けて、首の骨が折れていたぐらいの強さだった。
アンドロイドなので、なんとか無事だったけれど、痛みの記憶は残っていた。怖かった。
車から出て、知美のところへ駆け寄ろうとすると、
「お前はこっちだ」
と、運転手をしていたウルフに引き離される。
「お姉ちゃん!」
知美もウルフに連れていかれて、私たちの距離はますます開いていく。
でも、私にはどうしようもできなかった。ここで、となりのウルフを思い切り殴りつけて、知美を助けたとしても、その先のあてがないのだ。
またきっと鉄騎士団に囲まれて、やられてしまう。
だから、ここはじっと我慢した。
脱出するなら、最後までつながる計画をたてなければ。
もしかしたら、やっぱり麒麟を倒さないと、先へは進めないかもしれない。
麒麟は、私たちは殺さないと約束した。
もちろん、信用はできないけれど、今はその言葉にすがるしかなかった。
(つづく)




