42.鉄騎士団
麒麟は、私の一撃を腕で受け止めた。
しかし、私はすぐさま、彼のお腹を思い切り蹴飛ばした。
麒麟は後ろに控えていた鉄騎士団の大群をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。
私の目的は、麒麟を倒すことじゃない。
東京へ行って、バシレイアへ行って、”かみ”と話しをすることなんだ。
だから、急いでトラックへ戻り、エンジンをかける。この場から離れるために。
「行くよ! 知美、しっかりつかまって!」
私は、一番包囲が手薄な部分に向けて、トラックを走らせる。
鉄騎士団を踏みつぶしていく感触が、アクセルペダルから伝わってきて、すこし気持ち悪い。
知美は、祈るように両手を合わせて、かたく目を閉じていた。
トラックは中央分離帯を越えて、対向車線へと飛び出した。
「うわー! お姉ちゃん、怖いよ! 助けて!」
「知美!」
助手席のガラスが割れて、そこからのびてきた鉄の手が、知美を外へ引きずり出そうとしていた。
私はソウルセーバーでそいつの頭を思い切り串刺しにする。
鉄騎士団の体が崩壊し、トラックの後方へと飛んで行った。
ほっとしたのもつかの間、途端に、車が大きく揺れた。どうやらどこかのタイヤがパンクしたらしい。
体制を立て直そうとしたけれど、ハンドルが効かない。
このままでは、高速道路の側面の壁に衝突する。
思い切りハンドルを切ったら、ベキッと音をたてて外れてしまった。
このトラックはもうだめだ。脱出しなければならない。
──【時間圧縮】。
私は止まりかけた時間の中で、知美を抱きかかえて、トラックを飛び降りた。
ふと、このまま静止した時間の中を逃げようかと思った。
でも、この【時間圧縮】はもって9分間。
そんなに距離は稼げないし、この体のエネルギーが尽きれば、動けなくなってしまう。
視界の左上のエネルギー残量は76%を指している。
私は知美を抱きかかえて、高速道路を飛び降りる。
そして、適当な廃屋に身を隠して、【時間圧縮】を解除した。
その途端、轟音がして、なにかが地面に落ちる音がした。
たぶん、さっきのトラックが高速道路の壁を突き破って、地面に落ちたのだろう。
それで、麒麟が私たち二人が死んだと思ってくれたらいいのだか。
すこし落ち着いた私は、周囲を見渡した。
なにかの飲食店だったらしく、わりと広い店内には、ゆったりとした感覚で、テーブルにソファーが配置されている。
私は、そっと知美をソファーに横たえた。
自分も少し疲れたので、知美の隣に腰かける。
もちろん、麒麟たちに見つからないよう、店の奥の方の席を選んだ。
日が昇りはじめたのだろう。窓から光が差し込みはじめた。
それにつれて、天井はやぶれ、物が散乱している店内の様子が照らし出される。
ふと、その光景に、300年前の日常のファミリーレストランの様子を重ねてしまう。
にぎやかな店内。楽しそうな家族連れ、カウンターで順番を待つ人。料理を運ぶウエイター。そしてドリンクバー。
それらはすべて、失われてしまった。
私は、たまらなく心細い気持ちになっていた。
──これから、どうしよう。
知美のぽかんと開けた口を見て、私は考える。
東京へ歩いていく、という選択肢はないだろう。知美の足が持たないし、麒麟にもつかまってしまう。それに、天空のはくたか、という四天王のことも気になる。
いつも空から見張られているとしたら、あぶない。
思考は堂々巡りをして、まとまりがない。でも、作戦は失敗したことは間違いない。
一度、私たちの町、鹿児島市へ戻ろう。
私はそう決意をして、すっかり明るくなった窓を見つめた。
──マリさん、どこにかくれているんだい?
耳元でささやくよう声がして、ぞくっとする。麒麟の声だ。
バッと振り返っても、誰もいない。
麒麟も”かみ”の四天王の一人。きっと、私の心に直接話しかけているのだろう。
けれど、それはラジオの電波みたいに一方的に発信しているのを私が受信したのであって、麒麟が私の居場所を特定した、というわけではなさそうだった。
私の場所を特定されないように、私はそれに反応しないことにする。
──ふふ、出てきてくれないんだね。なら、このあたり一帯を破壊させてもらうよ。10、9、
姿が見えない麒麟の、カウントダウンを始める声が聞こえる。
私はあわてて立ち上がるけれど、この場を切り抜けるアイデアなどない。
麒麟の破壊するという自信満々な口調からして、威力は相当なものだと予想された。
知美は相変わらず起きない。
たぶんだけど、私はだいじょうぶだろう。私を修理した万里夫の話だと、ミサイルが直撃しても大丈夫らしいから。
でも、知美は間違いなく死んじゃう。
麒麟もそれを承知の上での行動だろう。つまり、そばにいながら、知美が人質にとられていることになる。
──8…、
カウントダウンが終わる直前、私は【時間圧縮】を発動させる。
そして、知美を背負って、お店を飛び出して、一目散に走り出す。
きっとあるであろう、地下鉄の入り口に向かって。
止まりかけた時間のなかで、私は走りだす。
視界の左上のエネルギー残量を示す表示が、ぐんぐん減っていく。
今はだれも通っていない大通りの歩道を走っていた。
道路はあちこちアスファルトがはがれて、森のようになっていたので、麒麟の視界を遮ることができそうだった。
かつては高層ビルであったろう瓦礫の山を曲がったところに、それはあった。
私は知美を抱えたまま、その地下鉄の入り口に飛び込んだ。
そして、階段を駆け下りると、【時間圧縮】を解除する。
──3、2、1、…おわりだ。
麒麟の冷酷な声が、私の頭のなかに響いていた。
(つづく)
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次回は、金曜日の夜7時に投稿します。




