40.九州にお別れ
これで、第1部 漆黒のデスベアー編は終わりです。
ここで、更新を一度お休みします。
更新の再開については、4月中を予定しています。
ここまで、読んでいただき、ありがとうございました。
どうか、いましばらく、お待ちください。
「おいしいねこれ、ちょっと臭いがきついけど」
知美は運ばれてきた、本場の博多とんこつラーメンのスープをひとすくい飲むと、向かいの私に笑顔を向けた。
「そっか、よかった。まだまだ先は長いから、たくさん食べといてね」
と私も笑顔を返す。
知美はきらきらした瞳で、はじめて見る博多とんこつラーメンを見つめている。
私は、知美を穏やかな気持ちで見つめながら、ふと思い出していた。マリのこと。
──そういえば、マリもこんな顔して、私のつくったカレーライスを眺めていたっけ…。
店先に設置されたテーブルから、大通りを見渡す。夜9時過ぎというのに、まだまだ人通りが多くてにぎやかだ。
私たちの住んでいた町よりも、数段都会だった。
もちろん、私のいた300年前の世界の基準に照らせば、田舎町といってもよいレベルだった。
でも、デスベアーの支配から解放され、これから人は少しずつ以前の生活を取り戻していくのだろう。
でも、以前の生活というのは、300年前の私のいた世界。
それが、果たして幸せなのだろうか。
「お姉ちゃん、食べないの?」
考え事をしていた私は、知美の声にハッと我に返る。
テーブルの上には、私の分の、本場博多とんこつラーメンが運ばれてきていた。
皿からはみ出すほど大きな5枚のチャーシューに、山盛りのネギと2つに割れた半熟たまごのトッピング。そしてそれらをかき分けると、白くて濃厚なとんこつスープをまとった、バリカタの細麺が姿を見せる。
それを見ていると、私のお腹が、勝手に音を立てた。
食べろ、と体が命令しているらしい。
一口食べてみると、懐かしい気持ちになった。
吊り下げられた裸電球の光が、私たちのテーブルを照らしている。
こんな風景をどこかで見たような気がした。きっと、300年前の私のいた世界での記憶なのだろう。
覚えのある日常の感触に、つい帰ってきたのかと錯覚してしまう。
でも、自分の手は白くほっそりとしていて、触れる髪も、相変わらず女の子のように肩まで伸びている。
それで、やっぱり、ここは300年後の世界なのだと、思い直す。
とりあえず、考えるのをやめて、私は本能の赴くままに、ラーメンをかき込んだ。
「うわぁ…、かわいい顔して、おっさんみたいな食べ方、やめようよ…」
知美の若干ひいた声が聞こえて、私は恥ずかしくなり、そっと麺をすすったのだった。
「あんた、デスベアーをたおしたマリさんでしょう。お代はいらないよ」
レジの前で、お金を払おうとした私は、その言葉に固まってしまった。
「いいっていってるんだから、行こうよ」
知美は軽くレジのおばさんにお辞儀をして、私の袖を引っ張る。
「でも…」
私は迷っていたけれど、知美に引きずられるようにして、お店を出た。おばさんに深々とお辞儀をしながら。
町の雑貨店で、飲み物やお菓子、食料を買い込んで、トラックに戻ってきた。
私はえいっと高い運転台に上ると、助手席に回って、知美の腕を取り引き上げた。
そして、知美がシートベルトをかけたのを見て、エンジンを始動させる。
時計の針は、10時を指していた。そして、私はハンドルと、シフトノブに手を添えた。
「なら、これからノンストップで、東京まで走るからね。知美は寝てていいよ」
「お姉ちゃんは、だいじょうぶなの?」
「私は、ほら…、寝なくてもね、だいじょうぶなの」
あまり自分のことを「機械」とは言いたくなくて、「機械だから寝る必要はない」、ということをあいまいにぼかしながら、伝えた。
知美には伝わったのか、聞き返してこなかった。
「そっか、なら、気を付けて行こう」
知美は右の握りこぶしを軽く振り上げて、そういった。
オークさんに見送られ、町のゲートを抜けると、目の前の景色はまた、真っ暗になった。
この体の瞳に搭載されている高感度センサーにより、月の薄明りだけでも、まるで昼間のように、景色を映し出すことができた。
でも、やっぱり、荒廃した街並みが広がっているだけだったので、私はセンサーをオフにした。
再び、景色は闇に包まれた。
トラックのヘッドライトだけが、道路をてらしていた。
それからどれくらいの時間が経過しただろう。
山を越え、そして、海峡にかかるつり橋を渡る。
位置的にいって、前世界の関門大橋に違いなかった。
月明りがゆらめく海面をてらして、光輝いていた。
知美にも見てもらいたかったけれど、寝ていたので、遠慮した。
私の記憶に焼き付けておいて、あとで見せようと思った。
そして、私たちを乗せたトラックは、九州から、日本本土へ上陸した。
ここはもう、町長の管理する区域ではない。ここからは”かみ”の四天王の麒麟の管理区域である。
もし、私たちの目的がバレたら、麒麟の手下につかまり、殺されてしまうかもしれないのだ。
もし、みつかったら、全力で戦うしかない。
それでもだめなら、せめて知美だけでも、逃げてもらおう。
そう思うと、自然にハンドルを握る手が汗ばんできて、力を込めてしまう。
博多で途中下車したせいか、予定時刻より遅れている。
このままでは、大阪付近を通過するのが、午前6時過ぎになってしまう。
私は祈るような気持ちで、思い切りアクセルペダルを踏み込んだ。
ディーゼルエンジンがうなり、スピードメータは振り切った。
──この1回だけ、私たちを東京へ連れて行ってください…
(つづく)
こんばんわ。読んでくれてありがとうございます。
前書きにも書きましたが、これで、第1部 漆黒のデスベアー編は終わりになります。
第2部 欲望の麒麟編を予定していますが、更新の再開については、4月中を予定しています。
どうか、いましばらくお待ちください。




