20.秘密基地
「それじゃ、時間もない。さっそく訓練を開始しよう」
町長はたちあがり、私についてくるようにうながした。
応接室を出で、1階に降りると、そこはいつもの日常の町役場の風景が広がっていた。
ベンチに腰かけて待っている人、カウンターで書類を書いている人。執務室で背伸びをしている人。
それは、私がいた時代の役場の風景そのもので、ふと帰ってきたのではと錯覚してしまう。
そんな日常を横切って、私は町長と一緒にエレベータに乗り込む。町役場の建物は3階建てだけど、バリアフリー対策としてエレベータが設置されているようだ。
町長はボタンをめちゃくちゃに操作した。まるで子供がいたずらをしているように見える。
しかし、ほどなくエレベータはドアを閉じて、ゆっくりと動き出した。
私は体がふわりと浮かぶ感覚があったので、
「エレベータが下に動いてる…。町役場に、地下室なんてあったんですか? 下りの階段なんて、どこにもなかったみたいですけど」
エレベータのドアが開いて、私は町長に続いて、おそるおそる歩みだす。
コンクリートの壁面が向きだしの、薄暗い廊下が続いていた。天井には蛍光灯が備えられて、周囲を白い光で照らしている。
夏だというのに、ひんやりとして涼しかった。
「ここは…、なんですか? 町役場に地下室があったなんて」
私は歩きながら、町長の背中に問いかけると、
「以前は、災害時の備蓄倉庫として使われていたようだ。ああ、以前というのは、マリさん、あなたが製造された300年前のことだが」
町長は、私のことをどこまで知っているのだろう。体には300年前のおっさんが封入されていると知ったら、おどろくだろうか。
「今は、わしの秘密基地としてリフォームさせてもらっている」
「なんのための、基地ですか?」
「バシレイアの”かみ”を打倒するための最前線基地だ」
町長は力を込めてそういうと、目の前の大きな両開きのドアを開いた。学校の体育館にあるドアのみたいだ。
そこには、学校の体育館ほどの大きさの空間が広がっていた。天井から照明に照らされて、廊下の薄暗さになれてしまった瞳にはまぶしく感じられるほどだ。
「ここで、今日から1週間、泊まり込みでマリさんを訓練する」
「泊まり込み?」
町長はそういうと、さっそく腰からライトセーバーを取り出して、スイッチを入れた。
ヴィンと音がして、町長の右手に光の棒が出現する。
「時間がない、いくぞ!」
町長がいきなりおそいかかってきたので、私は慌てて両手で制止する。
「ちょ、ちょっと待ってください。そんなので切られたら、私こわれちゃう!」
「何度でも直してやるさ。そのための設備もある! いくぞ」
町長さんに治せるんですか? 1000万円かかってるんですよ、私の体。
「まだローンが残ってるんです。壊さないでー!」
町長は、しりもちをついて両腕で頭を覆っている私の頭上数センチでライトセーバーを止める。
「…わしがデスベアーだったら、とっくに壊されていたよ」
ライトセーバーを下げながら、町長はため息をつく。
「私は戦闘用アンドロイドじゃないので…」
震える声で町長に訴えたものの、万里夫の話だと、マリは純粋な戦闘用アンドロイドとして製作されたらしい。
横流しされる時点で、多くの戦闘用パーツは、はぎとられてしまったようだが、身体能力はそのままで残っているのかもしれない。
でも、私の意識がついていかない。37年生きてきて、ろくにケンカもしたことがないのだ。
とりあえず、本当のことは言わないようにしよう。
「少し休みませんか?」
壊されそうになって、ドキドキする胸を落ち着かせながら、私は床にへたり込んだまま町長を見上げる。
「泊まり込みなら、家に連絡しとかないと心配します。一度帰らせてください。かならずまた来ます」
もちろんうそだ。また来るわけなどない。町長が狂ったと、住民課に苦情を申し立てるつもりだった。
「あまり時間がないし、一般人があまり頻繁に秘密基地を出入りするところを見られたくない。デスベアーにこの基地の存在が知られたら、この場所に奴がやってくるかもしれないんだ」
「でも、鈴子さんと知美が心配していると思います」
「家には、役場の者から連絡させておくから心配しないでもいい。1週間の農業研修があるということにしてある」
ああ、農業研修の方がどんなに私に向いているのだろうか。
「食事とか、着替えとかはどうするんですか」
「それも、役場の者に調達させる。マリさんの着ていた制服も持ってこさせるよ」
「農業の研修はしないのですか?」
私の問いかけに、町長は遠くを見つめるような表情で、答えた。
「平和になったら、ぜひやりたいな」
それから、町長は私にもライトセーバーを渡した。それは、ちょうどリレーのバトンくらいの大きさの金属の棒に見えた。
もちろん、バトンよりずっしりとして重たく、ひんやりとした感触があった。
町長に言われるままにボタンを押すと、ヴンと音がして、私の背丈ほどももある光の棒が出現した。
おもわず腰が引けてしまう。でも、重たくはない。
「これは、なんていう名前ですが。やっぱり、ライトセーバーというんですか」
私はライトセーバー越しに、町長の顔を見つめる。
「おしいね、これはソウルセーバーというんだ。使っている人の精神エネルギーを変換して、なんでも切り裂く光の棒を作り出すんだ」
「でも、私の体はアンドロイドなのに、精神力なんてあるんですか?」
私が首をかしげると、自分の髪がさらりと揺れるのがわかった。
町長はソウルセーバーを私に向けて、
「ソウルセーバーを発現させられたということは、君が人間であること証拠だ。マリさんの体に入っている、誰かさん」
本当のことをずばり言い当てられてびっくりした。
どうしよう、実は現代日本人の37歳の女装オ〇ニーが趣味のひきこもりだったおっさんでした、と正直に告白すれば、解放してもらえるだろうか。
「しかし、そんなことは関係ない。アンドロイドの体に人間の心が入っていることが最重要なんだ。私は、君と…、初めて出会ったときから、目を付けていた。君こそが、”伝説のマリア様”なのだと」
どうやら、そんなことは関係ないらしい。私は首をうなだれた。
それにしても、伝説のマリア様って誰だろう。私は、真理という名前で男性だったんですけど。
(続く)
こんばんわ。
早いもので、20話になりました。
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