第75話 久しぶりの再会
「陛下、恐れながら申し上げます」
「うむ。申すが良い、レオン騎士団長」
名を呼ばれたレオン騎士団長は椅子から立ち上がった。
「魔人領への侵攻自体に反対はありません。ですが、他種族と共に攻め込むのはお止めになった方が良いと考えます」
「ふむ。理由を述べよ」
「第一に、前回の侵攻は他種族との足並みが乱れたため敗退しました。同じことが起こる可能性があります。
第二に、武具や兵糧といった兵站を誰が準備するのかが不明です。
最後に、連合軍を誰が指揮するのか。以上三点から、他種族との共同侵攻には反対いたします」
「確かに、懸念すべき点であるな」
「であれば、何故他種族と共に侵攻するのですか?」
「お主の懸念は理解しておる。ゆえに、今からその懸念を払拭しよう」
「払拭ですか……?」
陛下の言葉に、周囲がざわつく。
(何か考えがあって言っているのだろうな)
僕は耳を傾けた。
「まず第一の懸念だが、前回足並みが崩れたのは、総大将が全体の指揮をきちんと取らなかったからだ」
「確かにそうでしたな。前回の総大将であられた天人族の将は、統率力の面でいえば些か……」
レオン騎士団長が苦々しい顔をする。
(……面倒な人だったんだな)
その表情で察した。
「ゆえに、今回の総大将は話し合いではなく、くじで決める」
「くじ、ですか。ふむ、それならば公平ですな」
確かに、これなら反発は出ないだろう。
前回は話し合いで決めたらしいが、想像するだけで面倒だ。
「次に兵站だが、武具や兵糧の統括は我が国が全面的に行う」
「つまり、我が国が兵站を握るということですか?」
「そうだ」
「ですが、種族ごとに武具も兵糧も違います」
その通りだ。
獣人族の弓は複合弓で、骨や皮、腱を張り合わせた特殊なもの。他種族は様々な理由で使わないし、製造方法は獣人族の職人しか知らない。
弓ひとつ取っても面倒だ。
陛下はそこをどうするつもりなのだろう?
「そこで、ターバクソン男爵」
「は、はい⁉」
何で僕が呼ばれるんだ?
「お主は各種族とそれなりのコネクションを持っておるな?」
「は、はい。ですが、国を通しての付き合いですから、それほど親しい訳では……」
敵対したら縁を切れるように、広く浅い付き合いだ。
中には親族を僕の嫁に、と言ってくる人もいるが。
「そのコネクションを使い、他種族の武具や兵糧の価値を調べてもらいたい」
なるほど。つまり価値を調べて買い上げるつもりか。
「分かりました。大至急調べます」
「うむ、頼むぞ」
残るは人間族軍を統率する大将だ。誰になるのだろう?
「最後に陛下、これだけお聞かせください」
「何じゃ?」
「総大将はくじで決めるとのことですが、人間族軍の大将は誰になさるのですか?」
「それは――」
陛下は横に立つ第一王女を見た。
「我が娘、アウラ・エクセラ・ロンディバルアを大将とする」
その言葉に、各軍団長たちは頷き、納得した声を上げる。
「王女殿下なら問題ない」
「ああ、近衛兵団の団長を務めておられる方だ。兵からの信頼も厚い」
「うむ。王女殿下なら各軍団の兵も従うだろう」
全員不満はないようだ。
「他に意見はあるか?」
誰も何も言わない。
「では、四種族を王都に招き、総大将を決めた後、魔人領へ侵攻する。各々、準備を整えておけ」
「「「はっ、承知しました」」」
「これにて会議を終了する。解散」
宰相の声で会議は終わり、参加者たちが退出していく。
僕も今日は用がないので、久しぶりに友人たちに会いに行くことにした。
会議室を出ると、視線を感じた。
周囲を見回すが、誰もいない。
敵意はないようだが、妙に気味が悪い。
(無視した方がいいかな……)
そう考えていたら、誰かが走ってくる。
「おーい!」
逆光で顔が見えないが、手を振りながらこちらへ――そして飛んできた。
「ノっっっっく~~~~~ん‼」
この呼び方をするのは一人しかいない。
「マイ、ちゃん――ぐぶっ⁉」
マイちゃんの腕が僕の首に巻きつく。
勢いが強すぎて息ができない。
「久しぶり~! 会いたかったよ~!」
頬ずりしながら、さらに締めてくる。
「ま、マイちゃん、く、首が……」
「元気だった? 領地運営大変だったでしょ? 少し痩せた? 太った?」
締める力が増していく。
(あ、やばい、意識が……)
その瞬間、パコン、と音がした。
腕が離れ、僕は咳き込みながら空気を吸う。
見ると、ユエが立っていた。
「マイ、久しぶりなのは分かるが、首を絞めてどうする。再会早々殺す気か?」
「うう~、だって~」
ユエがマイちゃんを宥めている。
「ユエ、久しぶり」
「久しぶりだな、ノブ」
ユエは笑顔で挨拶した。
「元気そうで何よりだ。領地運営はどうだ?」
「最初の頃に比べたら、かなり豊かになったよ」
「かなり、か……十分すぎるの間違いじゃないのか?」
「そうかな?」
まだ開拓村が多いが、いずれ町にする予定なだけだよ。
都市にするには、まだ時間が掛かる。
「まぁ、ノブならそう言うと思っていた」
「そういえば、皆は元気?」
「うむ。皆元気だ」
「そっか。それで、お前はどうして王都に?」
「……そのうち発表されるだろうけど、今のうちに話しておくね」
「ほう、重要な話のようだな」
「うん。どこか、ゆっくり話せる場所ない?」
「丁度いい場所がある。そこで話そう」
「じゃあ、行こう」
「うむ。行くぞ、マイ」
「オッケー!」
三人で、静かに話せる場所へ向かった。




