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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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ミルチャの報告

 わたしがイノータと共にザクセンへ到着したその日のうちに、領主館の執務室へ役人たちが集められ、イノータの自己紹介が行われた。

 役人たちの紹介が終わると、イノータはこの領の経営状態、各村の人口などを記した書類を用意させ、読み始めた。

(異世界人の知識がどれほどのものか……この僻地を豊かにするには相当な時間が掛かるはず。どんな手段を使うのか、見せてもらおう)

 そのために、わたしはこんな辺境まで同行したのだ。

 イノータが資料を読み漁ること一時間ほど。

 やがて資料を閉じ、役人へ告げた。

「明日、近くの鉱山へ採掘に行く人員を用意してほしい」

 その場にいた全員が「はぁ?」という顔をした。

 この領の鉱山はすべて廃坑になって久しい。

 採掘などできるはずがない。

「だ、男爵様。我が領の鉱山は廃坑になっておりまして、もう取れる資源は……」

 案内役の役人が慌てて口を挟む。

「廃坑になったからといって、まったく取れないわけではないでしょう?」

「はっ、粗悪な岩石塊や捨石なら採れると思いますが……」

「僕はそれを見てみたいのです」

「? そのような物を見て何をなさるのですか?」

「こちらの世界では使えなくても、僕の世界では使えるかもしれません」

「……男爵様は異世界人と伺っておりますが、廃坑の捨石など使い道があるとは思えませんが」

「やってみないと分かりません」

「……分かりました。人を集める以上、報酬は後払いでよろしいですね?」

「いや、前払いにします」

「な、何と⁉」

 まだ何が採れるかも分からないのに前払いとは――正気か、この子。

「金はあります。ここに」

 イノータが顎で合図すると、役人の一人が宰相から渡された皮袋を机の前に置いた。

 その拍子に中身がこぼれた。

「こ、これは大金貨ではないですかっ⁈」

 役人は目を剥いた。大金貨を見るのは初めてなのだろう。

「採掘に必要な人足は何枚いりますか?」

「い、いえ……大金貨一枚あれば十分です。すぐに準備いたします!」

「お願いします」

「はっ、では直ちに!」

 役人は大金貨を布で包み、一礼して慌てて部屋を出ていった。

 他の役人たちも風のように去っていく。

「「「………………」」」

 あまりの勢いに、わたし達は呆然と見送るしかなかった。

「……とりあえず、こんなものかな」

 イノータは何とも言えない顔で呟いた。

「皆さんは疲れたでしょうから、今日は荷下ろしをしたら休んでください」

「イノータ様は如何なさいます?」

「僕はもう少し資料を読んでから休みます」

「はっ、では失礼いたします」

 役人たちが下がっていく中、わたしは一人執務室に残った。

 言いたいことがあったからだ。

「あれ、ミルチャさん? どうかしました?」

「男爵様、その“さん”付けはやめてくださいと申しました」

「あっ、そうだった」

「それと、先ほどの下手に取られるような言動はお止めください。男爵様の権威が軽んじられます」

「う〜ん、すみません。年上の人と話すときは敬語が癖で」

「その癖はすぐに直してください。いいですね?」

「え、え〜」

「い・い・で・す・ね?」

「はい」

 素直な子だ。普通なら反発するか、はぐらかすものなのに。

(まぁ、わたしには関係ないけれど)

 そう思い、わたしは執務室を辞した。


 翌日

 イノータの指示通り、廃坑へ向かう人足が領主館前に集められた。

 人数は五十名ほど。一人銀貨二枚で雇われたらしい。

「男爵様、一言お願いします」

「えっ⁈ あ、はい」

 イノータは人足たちの前に立った。

「え〜、皆さんにはこれより廃坑になった鉱山に入り、色々な物を採掘してもらいます」

 もっと威厳を持って言えないのかしら、この子。

「採掘って、鉱山は廃坑なんだろ?」

「廃坑で何を採るんだ?」

 人足たちがざわつく。

「報酬は既に払っていますので、皆さんは採掘だけしてください。そうしたら“良い物”を差し上げます」

「「「良い物?」」」

 声が揃った。

「何が手に入るかは採掘した物次第です。頑張ってください」

 人足たちは互いに顔を見合わせる。

「もう報酬は貰ったし、やるしかねぇな」

「鉱物を採れとは言われてねぇし、何持ってきても文句言われねぇだろ」

「だな。行くか」

 人足たちは鉱山へ向かっていった。


 正午過ぎ

 陽射しが陰り始めた頃、採掘を終えた人足たちが荷車を引いて戻ってきた。

(さて、これをどうするのかしら)

 イノータを見ると、地面に見たことのない魔法陣を描いていた。

 八芒星――こんな陣は初めて見る。

「男爵様、言いつけ通り採掘した物を持ってきましたぜ」

「ありがとうございます。まずは荷車の物をこの陣の上に置いてください」

「? へい、直ちに」

 岩石塊が陣の上に置かれる。

「では、離れてください」

 人足たちが下がる。

 イノータは陣の外側に立ち、深く息を吸った。

「よし、やるか」

 両手を地面に叩きつけると、陣が輝き始めた。

「あれは……魔法陣? 何をするつもり?」

 眩しい光に目を細めながら注視する。

 陣の中の岩石塊が光り、形を失っていく。

 まるで分解されているようだった。

 そして――金色の輝きが現れた。

(なっ……あ、あれは……まさか、金⁈)

 光が収まると、そこには岩石塊の代わりに黄金色の物体があった。

「「「………………」」」

 全員が言葉を失う中、わたしは陣の中の小さな金片を拾い、噛んでみた。

 材質を確かめる昔ながらの方法だ。

 堅い。これは金属だ。

「これは、まぎれもなく金だ!」

 わたしが叫ぶと、周囲の人々は声にならない悲鳴を上げた。

 正直、わたしも叫びそうだった。

(触媒もなしに物質錬成魔法を使うなんて、有り得ない!)

 どんな魔法使いでも、触媒なしにこんな高度な魔法は使えない。

 これは上官に報告しなければ。

「……これ、どうしよう?」

 それは貴方が考えることでしょうが!

 創ったのだから、責任を持って使い道を考えなさい‼

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