第73話 まさか、こんなに集まるなんて
集めた資料を読みながら、領地に着いたら何をするか計画を立てる。
細かく決めすぎると現地で支障が出るので、大まかに考えることにした。
(まずは支度金で人を雇い、廃坑に潜ってもらう。そこで“ぼた”や選鉱で弾かれた脈石を集めてもらい、それを物質錬成で金に変える。それを元手に事業を広げれば、援助金なしでも暮らせるようになるだろう)
支度金がどれくらい貰えるか分からないので、最低ラインを想定する。
男爵なら金貨十枚くらいだろう、と予想しておく。
この世界の平均収入は金貨二枚ほどだとミルチャさんから聞いた。
採掘作業は危険が伴うので、一人につき金貨一枚渡せば文句は出ないはずだ。
「後は、この金で得た資金を元に何をするかだな」
資料によれば『ミルキー・シープ』という魔物がいる。
その毛は毛織物として高く取引されるらしい。
ならば養殖して安定供給できる生産ラインを作るのも良い。
亜竜が多く生息しているなら、竜騎兵団向けに調教施設を作り、
品種改良して強い亜竜を育てるのも面白い。
「……色々考えられるな。欲を言えば岩塩があればいいのだけど」
岩塩は海底が隆起した際にできるので、内陸でも砂漠地帯なら存在する。
しかし、この国には砂漠がないので塩湖もない。
つまり岩塩は期待できない。
「まぁ、昔から採掘されていて見つかっていないなら、無いんだろうな」
無い物ねだりをしても仕方がない。
僕は晩御飯まで領地の構想を練り続けた。
男爵を授かってから数日間、色々なことをした。
マイちゃん達を説得したり、領地について調べたり、
またマイちゃん達を説得したり……説得したり。
こうして振り返ると、説得に費やした時間が一番長いな。
特に大変だったのが椎名さんだ。
他の三人は説得すれば聞き入れてくれたが、椎名さんだけは頑として譲らず、
しまいには「猪田君に付いて行く」と言い出す始末。
仕方なく西園寺君に頼んだところ、渋々ながら聞き入れてくれた。
どんな手を使ったのか気になって訊いてみたら、
『押して駄目なら、引いてみろ』
と言われた。
……うん、全然意味が分からない。
まあ、聞き入れてくれたので良しとしよう。
僕は王宮の中庭の一部を借りて、領地に同行する人たちの人数を確認していた。
「ここに居る者達が、イノータ殿と共にターバクソンへ向かう者達です」
侯爵の言葉を聞き、人数を数える。
ひー、ふー、みー、よー……全部で二十人。
えっ、二十人?
予想より多い。よくこんな僻地に行く気になったな。
あ、ミルチャさんもいる。
僕に気付いて小さく手を振ってくれたので、僕も軽く会釈した。
「ず、随分と集まりましたね。僕はこの半分くらいだと思っていました」
「それは……娘が頑張りまして」
「……そうですか」
エリザさんのことだから、第二王女様の伝手か、実家の威光か、
何かしら使ったのだろう。
「あの、不躾ですが支度金は貰えるのでしょうか? この人数だと、向こうに着いてすぐ給料を渡せないと困るので」
「その点は陛下が十分に用意してくださいます。さらに金が尽きた場合は、私どもに一報を。すぐに支援金を送ります」
「ありがとうございます」
ふむ。事業を起こす資金が足りなくなっても、遠慮なく頼めそうだ。
そう考えていたら、宰相が宮臣を連れてやってきた。
「御機嫌よう、イノータ殿」
貴族式の挨拶をされたので、僕もたどたどしく返す。
「陛下よりのお言葉を申し上げます」
僕は跪いた。
「拝聴いたします」
「『この度、ターバクソン男爵に任じられた者イノータよ。汝に領地運営の支度金として“大金貨二百枚”を進呈する。領地運営に役立てるがよい』とのことです」
大金貨二百枚⁉
予想の二十倍だ。
宮臣が布袋を差し出してくる。
「どうぞ、お受け取りください」
僕は布袋を受け取った。
「陛下も貴方の手腕を期待しております。どうぞ、ご自由に改革なさってください」
「はっ。微力ながら、期待に応えたいと思います」
「イノータ殿、そろそろ」
「はい」
僕は立ち上がり、宰相と侯爵に一礼して振り返る。
「これよりターバクソンに向かいます。総員、乗車!」
同行者のほとんどは馬に乗れないので、幌馬車二台に分乗してもらう。
僕は自分の移動手段に跨る。
「ギュリリリッ」
鞍を乗せたグリフォンが前に来た。
前に僕を咥えて飛んだあのグリフォンだ。
それ以来、何故か懐かれている。
領地に行くことをどこからか聞いたらしく、鞍を乗せて待っていた。
「えっと、道中よろしくね」
「ギュリリリ♪」
頬ずりして甘えてくる。
このままじゃれていたら遅れるので、僕は鞍に跨った。
「では、これで」
「何かありましたら文を届けてください」
「はい。じゃあ、行こうか」
「ギュリリリリ!」
グリフォンは駆けだした。
乗ってすぐ思った――このグリフォン、意外に速い。
領地に着いたら、まずはあれとこれをしよう。
振動に揺られながら、僕は次の計画を思い描いた。




