第72話 貰える領地について調べよう
叙爵の儀を終えた僕は、まず図書室へ向かった。
これから行くことになる領地について、地形・特産・周辺状況を調べる必要があると思ったからだ。
図書室に入り、地図と資料を探していると――
「ええと、この国の地図と、ターバクソンの地形を記した資料っと……」
ミルチャさんがいた。
「あれ、ミルチャさんじゃないですか。お久しぶりですね」
「え、ええ……おひさしぶりね」
……何か挙動不審だ。大丈夫かな?
「ミルチャさんは何をしていたんですか?」
「わ、わたしは……し、仕事に使う資料集めに」
「ああ、そうなんですか。大変ですね」
図書室は広い。資料探しは確かに大変だろう。
「そういえば、男爵の位を授かったとか。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「領地はどこを貰ったのですか?」
早耳だな。異世界人が爵位を得たのが珍しいから広まったのかもしれない。
隠す必要もないので答える。
「ターバクソンです」
「…………ターバクソン?」
目をパチクリさせている。
「はい。ターバクソンです」
「……あの僻地で、亜竜が多数生息していることだけが有名な……」
叙爵式でも散々言われていたけど、本当に辺鄙らしい。
「イノータ様。正直申し上げますが、あのような所を貰うくらいなら、領地は返還された方が良いと思います」
「そうなんですか?」
「はい。亜人族の領地に近く、ほとんどが山です。昔は金や銀が採れたそうですが、今は廃坑。亜竜が多い以外、名産と言えるものがありません」
「ふむふむ。つまり、鉱山はあったんですね?」
「はい。廃坑ですが」
「そうですか。じゃあ、色々と出来そうですね」
「はぁっ⁉」
ミルチャさんが「何を言っているんだこの人」という顔をした。
僕は資料を探すため一礼して離れた。
呆然としていたミルチャさんも途中から気を取り戻し、手伝ってくれた。
「どんな事をするのか気になりました」
と言って自分の仕事があるのに手伝ってくれるなんて、良い人だ。
そういえば、貴族になった以上、家臣も必要だ。
その辺は屋敷に戻ったら侯爵と相談しよう。
資料を集め終え、侯爵の屋敷へ向かう。
王都に自分の屋敷はないので、しばらくは侯爵家に世話になる。
馬車停留所に行くと、ビヒモンさんが待っていた。
「お待ちしておりました」
「すいません。資料集めに手間取って」
「いえ。では屋敷に向かいましょう」
馬車に乗り込み、揺れに耐えながら資料を読む。
(ええっと……領地の六割が山。金・銀・銅・鉄の鉱脈はあったが廃坑。『ミルキー・シープ』という魔物の毛が毛織物に使われている。亜竜が多く生息しているため直轄領……)
今分かるのはこのくらい。
後は現地で調べればいい。
鉱脈が途絶えたとはいえ、まだどこかに残っている可能性もある。
この世界の技術では使い道が分からない鉱物も、僕の知識なら何かできるかもしれない。
廃坑なら“ぼた”もあるはずだ。
選鉱で出る価値のない岩石の塊。
あれを物質錬成で加工すれば金になる可能性がある。多分。
(この前、物質錬成の魔法を開発したし)
試しにやってみたら出来たので驚いた。
出来なくてもおかしくないと思っていたので、ラッキーくらいにしか思っていない。
(この魔法のこと、まだ誰にも話してないんだよな……いつ言おう)
今日は侯爵とエリザさんは不在らしい。
僕の領地に来てくれる人材を探して奔走しているとのこと。
(本当にありがたいな。僕が声を掛けても誰も来てくれないだろうけど、侯爵達なら何人かは来てくれるだろう)
一人、多くて五人くらいか。
領地までの移動手段などは、侯爵達が戻ってから相談しよう。
(あっ、そういえばマイちゃん達に会ってないけど……いいのかな?)
叙爵式の後、謁見の間の前にいなかったので、どこかに行ったのだろう。
領地を貰った以上、しばらく会えなくなる。
近いうちに一席設けておかないと、拗ねて王都で大乱闘を起こしかねない。
(今度こそ僕が泡吹いて倒れるかもしれないな……)
そう思いながら、屋敷に着くまで資料を読み続けた。




