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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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バァボルの魂胆

 叙爵の儀を終えた儂は、宰相と第一王女アウラを連れて執務室へ向かった。

「掛けよ」

「失礼します」

 二人が腰掛けたのを確認し、儂は口を開く。

「お主らに訊くが、今回のイノータの件――どう思った?」

 宰相ヘイゼル・フォン・アラゴルンが静かに答える。

「率直に申し上げますと、陛下。此度のイノータ殿への恩賞は、些か酷ではございませんか?」

「何故だ?」

「イノータ様は魔法師団の戦力強化に寄与し、戦争では敵の目論見を見抜き撃退にも貢献されました。さらに近衛兵団の者たちの自信を取り戻させた功績もあります」

「うむ、そうじゃな」

「男爵位を授けるのは妥当ですが……よりによってターバクソンの地を与えるとは」

 宰相は顔を曇らせた。

 ターバクソンは名産品が少なく、かつては金・銀・銅の鉱脈があったが今は廃坑。

 現在は山に棲む食用魔物の毛を採る者が少数住むのみ。

 翼を持つ亜竜が多く生息するため、竜騎兵団の乗竜確保のため直轄領にしていたが、それ以外は特にない。

「幾らなんでも、あのような過酷な土地を与えなくても良いのでは? 王都近くの土地で十分でしょう」

「いや、あの者の器量ならば、あそこが丁度良かろう」

「ですが――」

「よいではないか、宰相」

 珍しくアウラが口を挟んだ。

「父上はあやつの器量を見込んで、あの土地を与えたのだ。ならば、その力をどれほど発揮できるか試すのも良いと思うぞ」

「ですが、領地経営などしたことのない者です。上手く纏められるとは――」

「それだ、宰相」

「はっ? それとは?」

「領地経営をしたことがない者は、誰を頼ると思う?」

「……親しくしている侯爵の援助を受けるでしょうな」

「だろうな。故にそれが狙いだ」

「? 仰る意味が分かりません」

「イノータという者を、我が国に帰属させるのだ」

 宰相の目が細くなる。

「……成程。つまり、異世界に帰る手段が見つかっても、イノータ殿を元の世界に帰させないようにする、と?」

「そうだ。あの者と食事をしたが、悪い者ではない。むしろ、上手く使えば国力増強の一助となる」

「確かに、イノータ殿の知識は他の異世界人と違い、こちらの世界でも応用できるものが多いですな」

 儂は頷く。

 他の異世界人の知識は錬金術ありきで成り立つものが多い。

 しかしイノータの知識はこの世界でも活かせる。

 特に融合魔法は凄まじい。

 理論は昔からあったが、制御が難しく習得者は皆無だった。

 それを近衛兵団に習得させた時点で、異常な才覚と言える。

 他の異世界人は帰っても構わぬが、イノータだけは残って欲しい。

「だから、侯爵の援助で働かずとも領地を経営でき、裕福な暮らしができるようにする。元の世界に戻りたくなくなるほどにな」

「自然と帰還の意思が薄れる、と?」

「そうだ。ついでにエリザかセリーヌを嫁にやれば、更に良い」

「むぅ、確かに」

 儂としては、嫁がせるのはもう少し器量を見てからにしたい。

 人格面では問題ない。

 何せ、エリザと親しくしている時点で十分だ。

 あの無口すぎて、何を考えているのか分からず男達を怯えさせている。

 一部では無口すぎて高嶺の令嬢扱いしており、非公認の「エリザ様親衛隊」まで作っているそうじゃ。

 しかも兵士まで所属しているから、頭が痛い。

 そのエリザと親しくしている時点で、イノータは十分に人が出来ておる。

「納得したようじゃな」

「はっ。では領地運営の支度金は、そこまで多くなくても?」

「いや、十分過ぎるほど用意しろ。気前が良いと思われるし、ケチれば不信感を抱かれる」

「承知しました。手配いたします」

「うむ、任せたぞ」

 そこまで話したところで、執務室の扉が叩かれた。

「入れ」

 王宮メイドがカートを押して入り、茶と菓子を置いて退出する。

 儂は茶を飲む前に懐から小瓶を取り出した。

 アウラは溜め息を吐くが、儂の好みなのだから良かろう。

「陛下、それは?」

「これか? この前、エリザがイノータから作り方を教わったというレモンカードじゃ。儂はこれを茶に入れて飲むのが好きなのじゃ」

「はぁ、そうなのですか」

「……やらんぞ。これは」

 儂は小瓶を隠すように身を捩らせる。

 以前、茶に柑橘類を入れて飲んだが酸味だけで美味くなかった。

 砂糖を加えてもいまいちだった。

 だが、このレモンカードを入れると酸味と甘味が丁度良く、儂好みであった。

 近々、王室御用達にする予定じゃ。

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