第69話 よし、これで準備完了だ。
「これで、どうでしょうか?」
僕は、試作に試作を重ねた料理を王宮の厨房を預かる料理長に試食してもらう。
まさか試食までに三日もかかるとは思わなかったな。
だが、そのおかげで満足いくものが出来た。
これで料理長から文句がなければ、正式に作って食べてもらうことになる。
僕は料理長の様子をじっと見つめる。
料理長は試作した料理を口に運び、目を瞑って味わっている。
「どうですか?」
「モグ……文句ない出来だ」
「あ、ありがとうございますっ」
僕は深々と頭を下げた。
「よし、これでどうにか出せるぞ。早速食材を発注しよう」
「お待ちください、イノータ様」
声を掛けてきたのはヴァルデドゥールさんだ。
──あっ、頬にクリームが付いてる。
さっき試作を手伝ってくれたお礼に、生クリームを使ったお菓子を作った。
生クリームをホイップして凍らせ、薄いスポンジの上に乗せて少し置いたものだ。
某料理漫画に出てくる、双子のイタリア人料理人が作ったドルチェを真似たもの。
アーモンドの部分は再現できなかったが、他はどうにか形になった。
レモンカードの部分は、この世界にもレモンに相当する柑橘類があったので作れた。
そのクリームが、ヴァルデドゥールさんの頬に付いている。
笑うとか以前に、何で誰も指摘しないのだろう?
言うべきか言わざるべきか迷っている間にも、ヴァルデドゥールさんは話を続ける。
「そのようなこまごまとした事は、わたし達が行います。なので、イノータ様は食材が届くまで、ゆっくりとしてください」
「は、はい」
「では、わたし達は発注元に向かいますので、イノータ様はここで暫くお待ちください」
そう言って、ジューリロさんを連れて行ってしまった。
僕はとりあえず一休みしようと椅子に座る。
「ガツガツガツガツ」
先ほど出したデザートを、ものすごい勢いで食べているビヒモンさん。
どうやら気に入ってくれたようだ。
その食べっぷりを見て、ふと思う。
「そういえば、マイちゃん達に会ってないけど、元気にしているかな?」
王宮に来たのだから会えるかと思ったが、まったく気配がない。
どうしてだろう。
そんな事を思っていると、何処からか視線を感じた。
視線を感じるので、そちらに目を向けると、厨房の隅に料理人達がいた。
料理人達はビヒモンさんが食べている料理と、僕を交互に見て来た。
・・・・・・食べたいのかな?
材料あったかなと思いつつ、食材を置いている所を見ると、これはレモンカードとスポンジとホイップした生クリームしかないな。
スポンジにレモンカードを塗って、その上に生クリームを塗ったレモンカードケーキを作った。
「残った材料で作った物ですけど、どうぞ」
僕が料理人達を見て勧めると、料理人達が目にも止まらぬ速さで駆けてレモンカードケーキを手に取り食べていた。
凄い勢いで無くなっていくなと思い眺めていると、袖が引っ張られた。
顔を向けると、ビヒモンさんが見て来た。
これは欲しいんだなと察した僕は取り分けていたケーキを渡すと、ビヒモンさんは一口で食べてしまった。
暫し咀嚼した後、音を立てて飲み込んだ。
「・・・・・・こっちの方がレモンカードの味が良く分かるな」
この人、意外にグルメなのかな?
その後、料理長からレモンカードの作り方を教えて欲しいと言われたので、僕はすんなりと教えた。
すると、料理長は感謝した後、セリーヌ王女の茶会にレモンカードを使ったデザートを出したそうだ。
セリーヌ王女はそれを食べて大変気に入り、家族にも分けたそうだ。
バアボル王も味が大層気に入った様で、後日、この料理を自分の名前から一字取って『バレモン・ペースト』と名付け、王室御用達の一つになったと聞いた。




