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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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ヴェルデドゥールの独白

 今日、わたしは屋敷での仕事をすべて執事達に押し付けて、とある人物と共に王宮へ向かっている。

 その人物とは、異世界人のイノータ・ノブヤス様だ。

 見た目は中性的と言っても良いほどに、女性のような顔立ちをしていた。

 端的に言えば、女の子にしか見えない。

 だが、その性格は驚くほど出来ている。

 正直相当な人格者と言える。

 お嬢様は、無口すぎて友達が出来なくて、それでうじうじするという面倒こほん、もとい―――繊細な御方だ。

 御当主様と御曹司様はそれを「個性」と受け入れているが、少々個性的すぎると言えるだろう。

 そんなお嬢様がほんわかとした雰囲気を持つイノータ様と話している。

 御当主様も気に入っておられ、領地にいる妹からの私信によれば、御曹司様も興味を抱いているらしい。

 わたしも何度か話したことがあるが、この方は本当にお人好しだと思った。

 というか、そうとしか言いようがない。

 お嬢様もその人の良さを見て、どうにも放っておけないようで世話を焼いている。

 わたし達はようやくお嬢様に春が来たと喜んでいた。

 そんなお嬢様の婿候補(ほぼ確定)の方と共に王宮へ向かっているのも、

 お嬢様のためだ。

 ……まあ、わたし達のせいでもあるのだが。

 イノータ様が試作した料理が美味しすぎて、つい暴れてしまい(後でお嬢様に怒られた)、

 厨房がしばらく使えなくなってしまった。

 そのため急遽、王宮の厨房を借りて料理の試作を行うことになった。

『厨房を壊したのだから、貴方達も手伝いをしなさい』

 と言われ、わたしと妹のジューリロ、そしてビヒモンが同行している。

 わたし達と一緒に暴れたメアタンは、今頃お嬢様と共に厨房を修理しているはずだ。

 ビヒモンが着いてきたのは、お嬢様が助手として送ってきたからだ。

 わたしとジューリロは料理が得意ではないので、ビヒモンがいるのは助かる。

 ジューリロが途中で余計なことを言いそうだったが、王宮に着いたので話が途切れてくれた。

 馬車を降りると、そこには誰もいなかった。

 事前に連絡を入れ、誰でもいいから出迎えるように伝えておいたはずなのに。

「……誰も来ていないわね」

「そうですねピョン」

「……事前に言っていたのか?」

 ビヒモン、その話し方はやめなさいと言ったでしょう。

「昨日、確かに連絡をしたはずですが」

「でも来ていないピョン。これは所謂、伝達ミスじゃないかピョン」

「そうかもしれないわね」

 侯爵家から来た者を出迎えないとは無礼にもほどがある。

 一言物申してやろうか──そう考えていたら、向こうから慌てて駆けてくる人がいた。

 あれは、副侍従長だ。

「お、お待たせして……も、申し訳ございません……」

 ええ、まったくだわ。

 イノータ様と少し話していたら、イノータ様が驚いた顔をしている。

 どうかしたのかしら?

 まあいいわ。今はこの無礼者に一言言わねば。

「それよりも、副侍従長。前もってこの時間に来ると連絡を入れておいたのに、どうして出迎えが遅れたのでしょうか?」

「はっ、それにつきましては、こちらの不手際でございます。どうかご容赦を」

「不手際だからと言って、許されることではありません」

 さらに言おうと口を開きかけたら──

「ヴァルデドゥールさん、もういいですから」

 イノータ様が横から割り込んできた。

「しかし、イノータ様。遅れたことは事実です。そこは厳しく言うべきです」

「僕としては、そんなに怒ることではないと思います。なので、もうその辺で」

「ですが──」

「そんなに眉間に皺を寄せていたら、折角の可愛い顔が台無しですよ」

 ……。

 …………。

 ………………。

「……はいっ?」

 わたしが、可愛い?

 ナニヲイッテイルノ? コノカタ。

 言葉は頭に入ったのに、意味が理解できなかった。

 だが徐々に意味が分かり、不覚にも顔が赤くなる。

「な、なななななっ、なにを……」

 落ち着こうとしたが、全然落ち着かない。

 むしろパニックになってきた。

「ヴァルデ姉様を照れさせるとか、流石は大旦那様が見込んだお方だピョン」

「だな。お嬢様もあんな感じで、好きになったのだろうな」

 妹達の会話を聞いて、少し落ち着いた。

 深呼吸して冷静さを取り戻す。

 というかジューリロ。

 御当主様を“大旦那様”と言うのはやめなさいと、いつも言っているでしょう。直しなさい。

「……はっ、コホン。イノータ様がそこまで仰るのであれば、ここまでにいたしましょう」

「はっ、ありがとうございます」

 それからわたし達は厨房へ案内された。

 途中、使用人達がわたし達──というよりイノータ様に深く礼をしていた。

 イノータ様は理由が分からず首を傾げている。

 当の本人は自覚していないようだ。

 イノータ様が開発した遠心分離機で作る生クリームは、女性の心を鷲掴みにしていることを。

 あれは素晴らしい。

 紅茶に入れれば、ミルクよりもコクが出る。

 砂糖を混ぜればパンに塗っても最高だ。

 さらにイノータ様のケーキにつければ、もうそれだけで毎日三食それだけでいいと断言できる。

 それほど美味しいのだ。

 今日試作する料理は昨日と同じと聞く。

 昨日の料理も美味しかった。

 だが、食後には甘い物が欲しくなった。

 そうだ。試作の後に甘い物を作るよう催促してみよう。

 そうすれば、わたし達も試食できるだろう。

 何せ、この方は人が良い御方なのだから。

 ふふふ、今から楽しみね。

 できれば食べたことのない甘味を食べられると嬉しい。

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