第68話 料理の試作で王宮に向かうとは
昨日の使用人たちの騒動で厨房が使えなくなり、仕方なく王宮の厨房で試作することになった。
いやぁ、あれだけ破壊されるなんて、どんな暴れ方したんだろう。
料理を試作するために王宮へ行くなんて――正直、自分が何者なのか分からなくなる。
まあ、今はそれより料理の試作だ。
馬車に揺られ、王宮へ向かう。
乗っているのは僕と、使用人のヴェルデドゥールさん、ジュ―リロさん、ビヒモンさんの三人。
彼女たちは僕の護衛兼、料理の助手をしてくれるらしい。
ヴェルデドゥールさんとジュ―リロさんは昨日、試作した料理を食べてくれた人たちだ。
ビヒモンさんはもう一人のメイドさんと共に、エリザさんの護衛を担当しているらしい。
三人を見比べると、どこか顔立ちが似ている気がした。
「三人は姉妹なんですか?」
気になって尋ねると、
「そうだピョン。わたしたちは姉妹だピョン」
語尾に「ピョン」なんてつける人、初めて見た。
まあ、個性だし気にしないでおこう。
「へぇ、誰が姉なんですか?」
「緑色の髪のヴェルデドゥールが四女で、わたしは五女だピョン」
「五女? じゃあ六人姉妹なんですね」
「ぶっぶ~。全員合わせて七人姉妹ですピョン」
「随分、多いんですね」
「まあ、わたしたちは特別だからだピョン」
特別?
七人姉妹は珍しいけど、それだけで特別と言うのは少し気になる。
そう思っていたら、ヴェルデドゥールさんがジュ―リロさんの頭を軽く殴った。
「それについては大旦那様がお話しすることだ。お前が話すことではないぞ」
……どういう意味だろう。
訊ねようとしたところで、馬車が王宮に到着した。
王宮に着き馬車を降りるが、誰も出迎えに来ていない。
まあ当然だ。僕はVIPでもないし、そんな扱いを受ける理由もない。
むしろ出迎えられたら困る。ははは。
そう内心で笑っていると、三人も馬車から降りてきた。
「……誰も来ていないわね」
「そうですねピョン」
「……事前に言っていたのか?」
ビヒモンさんの声を初めて聞いた。
ぶっきらぼうな感じだな。
「昨日、確かに連絡をしたはずですが」
「でも来ていないピョン。これは伝達ミスじゃないかピョン」
「そうかもしれないわね」
何を話しているのか分からず首を傾げていると、前方から誰かが走ってきた。
立派な官服を着た初老の男性だ。
息を切らしながら僕たちの前に立つ。
「お、お待たせして、申し訳ございません……!」
(この人、誰だろう?)
どこかで見た気がするが、思い出せない。
男性は息を整え、丁寧に敬礼した。
「お初にお目にかかります。副侍従長のモリア・フォン・テーイと申します」
「初めまして。僕はイノータ・ノブヤスと言います。……ん? 副侍従長?」
「はい。陛下の命により拝命しております」
……。
…………。
………………。
「イノータ様、どうかしましたか?」
はっ。衝撃が強すぎて意識が飛んでいた。
まさか副侍従長が出迎えに来るなんて、有り得なさすぎて気を失いかけた。
「じ、じじじじ、副侍従長、ですか?」
「はい。副ですが」
頭痛がしてきた。
侍従長といえば王様の身の回りを管理する最高位の役職だ。
副が付くとはいえ、そんな人が僕を出迎えるなんて、有り得ないにもほどがある。
ドッキリかと思い周囲を見回す。
「どうなさいました?」
「……これって、ドッキリですか?」
「ドッキリ? 何ですか、それは?」
モリアさんはキョトンしていた。
当然だ。この世界にドッキリなんて概念はない。
「いえ、何でもありません」
「左様ですか」
ヴェルデドゥールさんが口を開く。
「それより、前もってこの時間に来ると連絡していたのに、どうして出迎えが遅れたのですか?」
「はっ、こちらの不手際でございます。ご容赦を」
「不手際だからと言って許されることではありません」
厳しい叱責が続くが、僕は正直気にしていない。
遅れたといっても少しだし、怒るほどでもない。
助け舟を出す。
「ヴェルデドゥールさん、もういいですよ」
「しかしイノータ様、遅れたのは事実です。厳しく言うべきです」
「僕は怒るほどのことじゃないと思います。もうその辺で」
「ですが――」
「そんなに眉間に皺を寄せていたら、せっかくの可愛い顔が台無しですよ」
「……はいっ?」
意味が分からず固まるヴェルデドゥールさん。
だがすぐに意味を理解したようで、顔が赤くなる。
「な、ななななっ、何を……!」
可愛いと言われ慣れていないらしい。
確かに、彼女は“綺麗”と言われるタイプだ。
“可愛い”と言われることは少ないのだろう。
「ヴァルデ姉様を照れさせるなんて、さすが大旦那様が見込んだお方だピョン」
「だな。お嬢様もあんな感じで、好きになったのだろうな」
二人が何か言っているが、声が小さくて聞こえない。
「……コホン。イノータ様がそこまで仰るなら、ここまでにしましょう」
「ありがとうございます」
モリアさんは恐縮しながら頭を下げた。
「では、ご案内いたします」
「お願いします」
案内され厨房へ向かう途中、使用人たちが僕を見るなり深く頭を下げる。
(あれ~、僕って何かしたっけ?)
思い当たることがないまま、厨房前へ到着。
モリアさんが扉を開けると、誰もいない。
あるのはピカピカの設備だけ。
「どうして誰もいないんですか?」
時間的に、昼食の準備時間のはずだけど。
「こちらは第二厨房です。パーティーや食事会以外では使いませんので、どうぞご自由に」
「はい?」
厨房の一部を借りるつもりだったのに、まさか丸々使っていいとは。
どれだけだよ。
「食材は事前に用意しておりますので、好きなだけお使いください」
もう何でもありだ。
異世界人とはいえ、この待遇には言葉が出ない。
(料理を作りに来ただけなんだけどな……)
それだけなのに、どうしてこんな扱いなのか。
「イノータ様、どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
「では、私はこれで」
モリアさんが一礼し、厨房を出ていく。
「あっ、ちょ――」
扉が閉まってしまった。
本当に使っていいのか聞きたかったのに。
「イノータ様、早く試作を始めましょう」
ヴェルデドゥールさんの声が、どこかウキウキしている気がする。
ここまで来たらやるしかない。
僕は保存庫の食材をすべて使い、試作を始めた。




