第67話 アドバイスに従う
「・・・・・・さて、材料はこんなところかな」
屋敷の厨房で並べられた材料を見渡す。
仔牛のような姿をした魔物の肉一頭。塩。胡椒。ニンジンもどき。玉ねぎもどき。ニンニクらしきもの。
――材料はこれだけだ。
本当にこれでいいのかと不安になるが、エリザさんがそう言うのだから間違いではないのだろう。
昨日の会話を思い出す。
『いっそのこと、子豚の頭の中で一番インパクトが大きい料理を作って、目を惹けばいいと思うわ』
『それでいいのでしょうか?』
『まずは美味しい物を食べさせて心に余裕を与える。それから魔法を教えれば、自信なんてすぐ戻るわ』
『なるほど。うまくいくといいけど』
『いくように頑張りなさい。それくらい出来るでしょう?』
そう言われてしまえば、頷くしかなかった。
「さて、やりますか」
市場の肉屋に“皮を剥ぎ、頭と内臓を処理した仔牛みたいな魔物の肉”を頼んだ結果、届いたのがこれだ。
僕は切り開かれた腹に玉ねぎもどきとニンジンもどきを詰め込む。
裏返し、背中にナイフで切れ目を入れてニンニクらしきものを押し込む。
最後に塩と胡椒をまんべんなく振りかける。
準備が整ったところでオーブンへ。
火力は一番弱い弱火。三時間かけてじっくり焼く。
僕は焼き上がりを待った。
オーブンから芳しい匂いがしてきたので、オーブンから肉を出して大皿に盛る。
立ち上る香りは想像以上に良い。
「さて、切り分けるか」
今回の料理はあくまで試作。
味付けも食材選びもすべて適当だ。
だからこそ、試食して改善点を探す必要がある。
包丁を手に肉を切り分けていると――
ジーッ。
……ん? 視線?
ジーーーッ。
圧が増している気がする。
振り返ると、屋敷の使用人たちがずらりと並んでいた。
何人かは口から涎を垂らしている。
「……よかったら、食べますか」
「「「ぜひお願いしますっ!」」」
僕は人数分に切り分けて渡した。
自分では美味しいと思ったが、好みは人それぞれだ。
感想を聞こうとした瞬間――
「「「ガルルルルルルッ‼」」」
……。
うん、僕は何も見ていない。
使用人たちが獣のように肉を奪い合っているように見えるのは、きっと幻覚だ。多分。
普段から、肉が食えないのかな? そう思える程に奪い合っていた。
このままでは厨房が戦場になる。
僕は身の危険を感じてそっと退散した。
その後、厨房では本当に凄まじい戦いが起こり、暴れた使用人たちはエリザさんにしっかり叱られたらしい。




