第66話 ここは相談する事にしました
王女様――いや、セリーヌ様にケーキを献上して少し話したあと、セリーヌ様が人と会う予定があるということで、僕は空中庭園を後にした。
自分の部屋へ向かう道すがら、王様に言われたことを思い出す。
(どうしたらいいかな……全然良い考えが思い浮かばない……)
結局、自分の部屋に着いても良い案は浮かばなかった。
魔法を教えるのがいつ頃なのかも言われていなかったので、今日はもう休んで明日また考えることにした。
久しぶりに自分の部屋に戻れると思った。
(魔法の制御ってことで侯爵の屋敷にいたから、かれこれ何か月ぶりかな?)
鍵を鍵穴に差し込む。
屋敷にご厄介になっている間は、基本誰も入れないように施錠されていたと聞いている。
鍵を回したが、ガチャッという音もなく、すんなり回った。
「あれ?」
施錠されているはずなのに、鍵が掛かっていない。
「……もしかして、椎名さんが部屋に入った?」
以前、鍵を掛けたこの部屋に難なく侵入した人物を思い出し、どう対処すべきか考える。
(……悪い人じゃないんだ。悪い人じゃ……)
とはいえ、どうしたらいいか悩む。
一つ目、誰か呼ぶ。
誰かと一緒に入れば対処できるだろう。
しかし本当に椎名さんがいたら、余計に問題になりそうなので却下。
二つ目、誰かの部屋に行って休む。
幸いこの部屋には特に取られて困る物はない。
だが、僕を休ませるために部屋を貸してくれる人がいない。
マイちゃん達の部屋に行ったら休めないのが目に浮かぶので却下。
三つ目、何もなかったかのように侯爵の屋敷に行く。
あそこなら警備は万全だしエリザさんもいる。
だが王城から侯爵の屋敷への行き方が分からないので却下。
四つ目、腹をくくって部屋に入り、流れに身を任せる。
一番危ないかもしれないが、意外とこれが一番安全かもしれない。
というか、選択肢がこれしかなかった。
溜め息を吐きながらドアノブを回す。
部屋に入ると、椅子に誰かが座っていた。
「あっ、失礼しております」
エリザさんだった。
「どうして僕の部屋にエリザさんが?」
「少しお話ししたい事があってきました。ドアに鍵が掛かっていませんでしたので、入らせて頂きました」
鍵は掛けた筈なんだけどな。
おかしいなと思いつつ、尋ねた。
「僕に何か御用でしょうか?」
「ええ、重要な件がありまして」
魔法師団師団長が来るほどだ。よほど重要な用件なのだろう。
「それで、御用は?」
「・・・イノータ殿。我が家に来ていただけないでしょうか?」
どういう意味だ?
「順を追って説明しますと、此度の戦争の戦果により、この部屋よりも、わたくしの屋敷に居る方が安全だと判断されました」
「此度の戦争の戦果でですか?」
ちょっと言っている意味が分からない。
分からないので、お手上げのポーズをする。
「今回、新兵器が投入されました。それが原因です」
魔弾銃のことか。
「新兵器のお陰で勝利したと思うのですが?」
「そうです。でも怪我人は出たけど、一人も死なないなんてあり得ない事です」
確かに、普通の戦場ではあり得ないな。
「なら分かるでしょう。敵が次に何をするか?」
「……新兵器の奪取、もしくは設計図の奪取ですか?」
「付け加えて、設計者の拉致ね」
魔弾銃のアイディアを出したのは僕だ。狙われる可能性は否定できない。
「だから比較的安全で防衛も万全な我が屋敷に住まわせるの。これで納得できますか?」
「でも王城でも警備は万全では?」
エリザさんは首を横に振った。
「この王城にも間者がいるかもしれません。警備を万全にしても攫われる可能性もあります」
僕は目を見開いた。
(そうだ。敵の間者の存在を失念していた!)
「分かりましたか?」
「はい……分かりました。でも行く前に友達に話しても?」
「皆様、祝勝を祝って城下の祭りに行きましたから、誰もいませんよ」
「そ、そうですか」
各部屋を確認したが誰もいなかったので、置手紙だけ残して侯爵の屋敷へ向かった。
馬車に揺られながら屋敷へ向かう。
石畳の振動がきつく、軽く酔いそうだ。
(気持ち悪い……)
エリザさんは平然としている。
「どうかしました?」
「いえ、エリザさんが平然としているので驚いて」
「そうですか?」
エリザんさんはきょとんとしていた。
薬と水とクッキーを渡され、少し楽になった。
僕は王様に言われたことを相談した。
エリザさんは長考し、やがて口を開いた。
「そうですね。では、こうするのが良いと思います――」
その言葉に僕は驚きながらも納得した。
よし、明日から準備しよう。
エリザと猪田が馬車で揺られていた時。
「ふっふ~ん、これだけあればノッ君も喜ぶよね」
「マイ、私たちの分もあるのを忘れるなよ」
「そうね。私たちの晩御飯なんだから」
「だよね~。イノッチと一緒に食べられるからって、あたし達の分まで食べないでね」
祭りで買った美味しいものを見繕い、猪田の部屋へ向かっていた。
祭りに来ている様子はなかったので、部屋にいると思い、舞華達は晩御飯を買って一緒に食べようとしたのだ。
四人が部屋に着き、ノックもせずに入る。
「やっほ~、ノッ君、ご飯持ってきたよ~……って、あれ?」
「マイ、せめてノックしてから入れと、あれほど……どうした?」
「ノッ君がいないの」
「「「えっ⁈」」」
三人が部屋に入ると、猪田の姿はどこにもなかった。
テーブルに一枚の紙が置かれている。
四人はその紙を手に取り、中身を見た。
そこには日本語で書かれた猪田の手紙があった。
『暫く、エリザさんの屋敷にご厄介になります。猪田』
その手紙を見た四人は全身を震えだした。
脳裏には、笑いながら四人を見下すエリザの姿が浮かぶ。
「「「「あの女、絶対に許さない‼」」」」
四人が自分の得物を持ち出そうとしたところを警備兵に見つかり、一悶着が起きていた。




