第64話 前略、お父さん、お母さん、僕、異世界で貴族になるかもしれません
王城に帰還した僕達は、すぐに謁見の間へ通された。
シャダム副団長(団長はまだ傷が癒えていないため、代理で謁見するらしい)とエリザさんと共に謁見の間に入った。
僕達全員で行くのは人数が多すぎると思ったので、僕と西園寺君の二人で行くことにした。
マイちゃん達は「面倒くさい」と言って着いてくる気が無かった。
謁見の間に入ると、大臣達や貴婦人、鎧を着た騎士達が拍手で出迎えてくれた。
僕達はその拍手の中、絨毯の上を歩いた。
正直、気恥ずかしい気持ちになったが、西園寺君は毅然としていた。
(う〜ん、流石は御曹司。こういう場でも堂々としているな)
僕は三人の後に続きながら歩き出す。
王座の少し前で、エリザさん達が跪いたので、僕達も跪いた。
「両軍団長、ご苦労であった」
王様からねぎらいの声がかけられ、エリザさん達はうやうやしく頭を下げた。
「「ありがたきお言葉を頂き、恐縮です」」
「特にエリザ。そちの指揮で一兵も損ずることなく勝利したと聞き、儂は年甲斐もなく興奮してしまったぞ」
「はっ、ありがとうございます」
「魔法師団の新兵器を用いた戦法で敵を撃退したそうだが、その兵器をいつ開発したのだ?」
「それは――」
エリザさんは肩越しに振り返り、僕を見た。
「そこにいる異世界人のイノータ殿がアイディアを出してくれました」
「ほぅ、そうか」
王様は顎髭を撫で、僕に目を向けた。
「イノータ殿。そちが新兵器のアイディアを出したと言うが、本当なのか?」
「は、はい。その通りです」
僕がそう言うと、周りの人達がどよめいた。
敵軍を撃退する新兵器の発案者だとは思われていなかったのだろう。
「ですが、僕はアイディアこそ出しましたが、兵器を開発したのはアスクレイ侯爵です。称賛のお言葉は侯爵にお願いします」
周囲がざわめく。
「ふむ、そうなのか。侯爵?」
「はい。イノータ殿の申す通りです」
「そうか。よくぞ作り上げた。そちの知識は我が王国の宝よ」
「はっ、ありがたきお言葉です」
侯爵は跪いた。
「それと、竜騎兵団に付き従った異世界人の者達のうち、何人か亡くなったと報告を受けている。本来なら遺族に恩賞を与えるのだが、異世界ゆえ叶わぬ。慰霊碑を建てることで許してほしい」
「いえ、それだけでも十分です」
西園寺君が跪きながら答えた。
(その慰霊碑に、遺髪を少し埋めてもらうよう頼んだ方がいいかな……)
「それとイノータよ。戦線はそちの進言した通りになったぞ」
進言した通り――つまり他の戦線は戦っていないようだ。
「それに、そち達が王都に帰還するのに合わせて三部族の軍は撤退し始めた。どうやら三部族は戦うつもりはなかったようだ。そちの慧眼、見事だ」
「あ、ありがとうございます」
跪きながら頭を下げる。
王様に「見事」と言われるなんて、すごい経験だ。
元の世界に帰ったら、ちょっと自慢できるな。
「遠征で疲れたであろう。今日は下がって休むが良い。後日、勝利を祝う宴を行おう」
「「はっ、承知いたしました」」
エリザさん達が頭を下げて立ち上がり、僕達も続いた。
謁見の間を出ると、僕は深く息を吐いた。
「はぁ〜、緊張で心臓がバクバクいってる……」
「今のうちに慣れておけ。今後、このような場に出ることがあるだろうからな」
「えっ⁉ 出ないと駄目かな?」
「駄目だろうな」
「そ、そんな〜」
西園寺君と話しながら廊下を歩いていたら、後ろから宮臣の一人が近づいてきた。
「イノータ殿。王が貴方をお呼びです。ご案内いたしますので、私の後に付いて来てください」
「僕を? 何の用だろう?」
「分からんが、呼ばれているのだ。行った方がいい」
「そうだね。じゃあ、行ってくるよ」
「うむ。四人には俺から伝えておく」
「じゃあ、お願いするね」
僕は宮臣の案内に従い、西園寺君と別れた。
宮臣の案内で、僕はとある部屋まで来た。
年代物の木でできた扉の前に立つ。
宮臣が扉をノックした。
「陛下、イノータ様をお連れいたしました」
「うむ。入れ」
「はっ」
扉が開き、宮臣が先に入ったので僕も続いた。
部屋に入ると、まず目に入ったのは豪華な調度品だ。
何人も座れそうな大きなソファー、広いテーブル。
壁には名匠の絵画や装飾品が飾られている。
王様が座っている椅子も机も本棚も絨毯も、シンプルながら豪奢だ。
よく見ると、王様の他に宰相と王女様もいた。
「ご苦労であった。下がってよいぞ」
「はっ」
宮臣は一礼して部屋を出ていった。
だが、誰も口を開こうとしない。
(き、気まずい……)
何か用事があって呼ばれたのだろう。でも、僕から聞いていいのかな?
早く部屋に戻って休みたいけど、どうしたらいいんだろう。
「コホン。イノータ殿、どうぞお掛けください」
宰相が気を利かせてくれたので、僕はソファーに腰掛けた。
沈み込むような柔らかさで、反動で少し跳ね上がる。
(この世界にはバネはないはずだから、素材に秘密があるのかな?)
考えていると、王様が僕の対面に座り、宰相は後ろに立ち、王女様は隣に座った。
「あ、あの……僕に何か御用でしょうか?」
どもりながらも、要件を聞けた。
「うむ。まずは、そちの知識で獣人族との戦に勝てたこと、そして三部族の動きが牽制だと見抜いた慧眼。改めて見事と言わせてもらおう」
「あ、ありがとうございます」
素直に受け取る。
「それと――」
ん? 王様の目が光ったような気がする。
「そなたがこの前破壊した壁についてだが」
えっ、弁償しろとか言われるのだろうか。
この世界の貨幣は習ったけど、お金なんて持ってないぞ。
どうしよう。
「お主の魔法で破壊したと報告を受けているが、どのような魔法を使ったのだ?」
「はっ?」
「侯爵の調査では、光と闇の魔力が同時に観測されたとある。いったいどんな魔法だ?」
あの『混沌波動砲』のことかな?
侯爵に説明したと思っていたけど、伝わっていなかったのか?
「……壁を破壊したのは、僕が作った魔法です。仮称で『融合魔法』と名付けました」
「『融合魔法』だと?」
「言葉で言うより、今お見せしますね」
僕は両手に炎の玉と水の玉を生み出した。
王女様は少し身構えている。
(まぁ、魔法を使ったんだから仕方ないか)
僕は炎と水の玉を合わせた。
以前は反発したが、今は反発せずに融合できる。
(これもエリザさんの特訓の成果だな)
感謝しながら、混ざり合ってできた無色の玉を見せた。
「「「こ、これは⁉」」」
皆、驚いている。
僕としては、漫画で見た魔法を試しただけなので、そこまで驚くものでもない。
「ま、魔法を混ぜ合わせるとは……なんと……」
宰相さんは口をあんぐりと開けている。
「……このような魔法が存在するとは」
王女様も驚いているようだ。
「ふむ。予想以上の逸材だ」
王様にそこまで言われると、少し嬉しい。
「あの、いい加減魔法を消していいですか?」
「おお、済まなかった。もうよいぞ」
僕は魔法を消した。
「……イノータ殿、一つ相談があるのだが」
「はい、何でしょうか?」
「今の魔法を近衛兵団にも教えてくれぬか。頼む」
……何ですと?
「僕が、近衛兵団の人達に魔法を教えるんですか?」
「そうだ」
いやいや、無理でしょう。
「僕はこの世界に来たばかりで、功績と言えるものもありません。そんな僕が近衛兵団に魔法を教えるなんて……」
辞退したい。
「しかし、そなたの魔法は素晴らしい技術だ。広めても良いであろう」
「それなら文句はありません。僕の魔法を他の人に教えるのは構いません」
技術は独占してもいずれ広まる。
なら早い段階で誰かに教え、発展させればいい。
でも、僕が教えなくてもいいのでは?
「僕は人に物を教えたことがありません。そんな僕が教えられるとは思えません」
「う〜む……アウラよ」
「何でしょうか、陛下」
王女でも陛下と言うんだな……とどうでもいいことを思いながら耳を傾ける。
「そちが見た魔法、すぐにできるか?」
「無理ですね。少し時間を頂かないと。恐らく魔法師団現団長も前団長も同じことを言うと思います」
「そうか……」
「どうして僕の魔法を会得したいのですか?」
近衛兵団はエリート中のエリートだろう。
別に会得しなくてもいいと思うけど。
「「「………………」」」
あれ? 三人とも黙った。
「……今から言うことを誰にも言わないと約束できるか?」
「えっ……は、はい。約束します」
「本当だな?」
王様が鋭い目で睨む。
「は、はいっ。お約束します!」
言ったら、殺されそうだな。
「よろしい。では話そう」
僕は生唾を飲み込んだ。
「そちは、三人の異世界人達が暴走した際、近衛兵団の半分が戦闘不能になったことを知っておるか?」
「ええ、知っています」
すみません。その三人は僕の友人です。
「兵団の者達は回復したが……ほとんどの者が今なお精神が死んでおる」
「はあ⁉ 精神が死んでいる?」
躁鬱……いや、もっと深刻か?
「皆、死んだ魚のような目でな。しかも小声で『ごめんなさいごめんなさい』と繰り返しておる」
……僕の友人がすみません。
「でも、僕が魔法を教えたら逆効果では?」
「新しい魔法を会得すれば自信がつき、職務に戻れると思うのだ」
なるほど。強引だが、一つの手ではある。
「もし全員の職務復帰が成功すれば、そなたに男爵の位を授ける」
「はあ⁉」
だ・ん・し・ゃ・く⁉
つまり僕が貴族になるってこと⁉
功績なんてほとんどないのに!
「あの、冗談じゃないですよね?」
「儂は本気だが」
宰相を見ると、首を横に振る。
つまり、もう決まったこと。
王女様を見ると、顔をそらされた。
(ええ〜……ここには誰も味方がいないのか……)
「という訳で任せたぞ」
王様の言葉で締めくくられた。




