第63話 王都に凱旋だ。
ユエと話した数日後。
僕達は出立の準備を終え、いよいよ王都へ凱旋する時が来た。
僕達は幌馬車に乗り、先発隊から順次城を出る。
城代の人が城の外まで出てきて、僕達を見送ってくれた。
馬車に揺られながら、僕達は竜騎兵団との合流地点へ向かう。
城を出て五日ほどで合流できると言われていたので、クラスメート達は別れた仲間と再会できることを喜びながら話していた。
そんな中、僕は一人、胸の内に抱えていることを口に出せずにいた。
(こんな空気の中で、竜騎兵団に向かったクラスメートの何人かが死んだなんて言えないなぁ……)
僕の肩に止まっているバズヴが教えてくれた。
正直、本当かどうか疑わしいところだが、神使が言うのだから嘘ではないのだろう。
僕が言わなくても、合流したらいずれ皆知ることになる。
でも、僕の口からは言えなかった。
(ああ〜、どうしよう……)
そう悩んでいたら、隣に座っている村松さんが声を掛けてきた。
「イノッチ、どうしたの? 元気ないけど」
「う、うん、ちょっとね」
「何か疲れることでもあったの?」
「そういう訳ではないよ」
「じゃあ、悩み事?」
「まぁ、そうだね」
「悩みがあるなら聞くけど?」
逆隣に座っているマイちゃんが、僕の袖をつかんだ。
「そうだよ。悩みがあるなら、幼なじみのあたしに言うべきだよ」
……何か、“幼なじみのあたし”のところ、すごく強調してない?
そう思っていたら、村松さんとマイちゃんが僕を挟んで睨み合いを始めた。
「サナダッチさ〜、いい加減イノッチに構うのやめたら? 幼なじみってだけで構われたら、イノッチも辟易するよ」
「ふっふふん、そこが分からないようじゃセナもまだまだね。ノッ君はあたしがいないと駄目なのよ。まぁ、そこは付き合いが浅いセナには分からないだろうけど〜」
僕を挟んで口論はやめてください。
というかマイちゃん、いつの間に村松さんのこと“セナ”って呼ぶようになったの?
二人をどう宥めようかと思っていたら、正面に座っている椎名さんが僕を引っ張り出した。
「うっふふ、猪田君。そんな醜い争いなんか放っておいて、わたしとお話しましょう」
「えっ、でも」
「いいからいいから」
椎名さんが僕を自分の隣に座らせようとしたが――
「ノブ、そこよりもわたしの膝を枕にして寝たらどうだ? 少し疲れているようだし」
ユエが僕の腕を掴んで引っ張り出した。
ああ、また睨み合いが勃発した。
「張さん、わたしは猪田君と話したいの。邪魔しないでくれる?」
「そっちこそ、ノブは疲れているのだ。ならば休ませるべきだろう。邪魔をするな」
今度はユエと椎名さんが睨み合いだした。
僕は内心ため息を吐いた。
城を出てから、このやり取りはもう何度も見た。
いい加減、喧嘩をやめて仲良くできないのかな?
「・・・・・・仲がよろしいですね」
僕たちのやり取りを見たエリザさんが、ぽつりと零した。
これを見て、何故そう思うのだろう。
と思っていたら、さっきまで口論していた四人が静かになった。
周りを見ると、四人がすごい目つきでエリザさんを見ている。
「へぇ……」
「ふぅん〜」
「ふっ」
「…………」
皆さん、顔は笑っているのに目が笑ってませんよ‼
ていうか椎名さん、目のハイライトが消えてます。
喧嘩するなとは言わないけど、ここでするのはやめましょう。
「あ、あの」
「いい機会だ。ここで魔法師団の実力を知るのも一興だな」
「そうだね。あたしも賛成だよ、ユエ」
「あたしも〜。いっそ最後まで立ってた人を勝ちにしない?」
「ほう、面白そうだな」
「ちなみに賞品は?」
「イノッチを一日自由に使える券」
「「「その話、乗った‼」」」
僕を一日自由に使えても、荷物持ちくらいしかできまないのだけど。
と、椎名さんが静かだなと思って見たら、俯いて震えていた。
様子が変だ。
「ユキナッチ、どうかした?」
村松さんが声を掛けると――
「……る……」
「うん? 何か言った?」
「いいわ。このチャンスで、邪魔な虫を根こそぎ駆除してあげるって言ったの」
「「「「ほうっ‼」」」」
わわわ、皆の戦闘意欲が上がりだした。
でも今は行軍の途中だから止められない。
ここは冷静になるよう言わないと――
「皆……冷静に」
僕が声を掛ける前に、マイちゃんが御者に声を掛けて止めてもらった。
そして皆、自分の得物を構えながら馬車を降りていった。
数分後。
平原からすごい大きな音が聞こえてきた。
その戦いを見た僕は「最終戦争も真っ青なくらいの戦いだ」と思った。
他の人も同じことを思っただろう。
結果、四人は八時間にも及ぶ戦いをしたが、誰も立っている者はいなかった。
四人とも倒れたので引き分けだ。
その余波で渡る橋が寸断され、合流予定日が三日延びた。
流石にこれは駄目だと思い、僕は四人を説教した。
――三日遅れで合流したが、竜騎兵団の人達は怒る様子はなかった。
ただ、団長ではなく副団長のシャダムという人が対応したのが不思議だったが、向こうにも事情があるのだろうと思い、僕達は深く聞かなかった。
副団長の話を聞いた後、分かれていたクラスメート達と合流した。
その場で、西園寺君から知らされた。
敵との戦闘で、天城の扇動に乗った青山君達が深追いし、死んでしまったという。
遺体は燃やされ、残っているのは遺髪だけだそうだ。
僕と椎名さん以外は皆、その話を聞いて驚き、涙を流した。
その場に天城君はいなかった。
最後の戦いで流れ矢が当たり、毒が塗られていたらしい。
解毒は済んだが後遺症で寝込んでいるそうだ。
(バズヴが言っていたのは本当だったんだ……)
事前に聞かされていたせいか、僕のショックは少なかった。
だが、クラスメート達はまだ衝撃から立ち上がれずにいた。
(こんな時、天城君がいたら……)
彼の根拠のない自信は時に人を苛立たせるが、こういう沈んだ時には皆を立ち上がらせる力になる。
僕は無理だから、ユエか椎名さん、マイちゃん、西園寺君に頼むしかない。
僕が頼もうとしたら――
「皆、青山達が死んだのは悲しいけど、ここは無理にでも立ち上がらないと駄目だよ」
マイちゃんが声を掛けた。
その声を聞いて、皆が顔を上げる。
「でもよ……」
「ここで落ち込んでも、青山君達は戻ってこないんだから」
「「「…………」」」
皆、何も言えなかった。
「だから、皆、立ち上がって青山君達の分も生きて、そして日本に帰ろう!」
「……そうだな。生きて帰って、あいつらの分も生きてやる!」
「そうだ、その通りだ!」
「やるぞ、俺達も‼」
皆、沈んだ空気を払い、元気になった。
流石はマイちゃん。皆を元気づけるのが上手い。
「凄いな、マイちゃん」
僕が何気なく言った言葉が聞こえたのか、マイちゃんは胸を張り鼻息を荒くした。
「ふっふ〜ん、これくらい、わ・た・し・なら簡単だよ‼」
「そ、そうだね」
僕はそうとしか言えなかった。
まぁ、実際そうだからいいんだけどね。
今日は合流して、この野営地で一夜明かし、明日王都に出発するとエリザさんに言われ、僕達は解散した。
翌日。
竜騎兵団と共に王都へ凱旋した。
僕達は幌馬車に揺られながら一路王都へ向かう。
城門に着くと、馬車の幌が外された。
何で外すのだろうと思っていたが、城門をくぐると分かった。
城門をくぐると、道の端には王都の住人達が歓声と共に出迎えてくれた。
幌を外された馬車から、僕達の姿がさらされる。
住人達は僕達を見て喜び、万歳してくれた。
(これを見せるために幌を外したんだな)
それが分かると、僕は笑みを浮かべながら道の端の人達に手を振った。
僕達の存在を内外に知らしめるために。




