第62話 王都への凱旋準備
数日後。
僕たちは王都へ帰還するための準備を始めていた。途中で竜騎兵団と合流する予定があるため、少し遠回りの行程になる。そのぶん荷造りや確認作業は念入りに行われている。
とはいえ――僕たち自身は特にやることがなく、暇を持て余していた。
手伝おうとしたが、部隊長たちに止められてしまったのだ。
「これを仕事にしている者たちもいる。仕事を奪わないでくれ」
そう言われては返す言葉もない。結果、僕はただ時間を潰すしかなくなった。
(城を出るまであと数日かかるって言っていたし……暇だなぁ)
あまりに暇すぎて、普段はあまり話さないバズヴの姿が見えたので、気分転換に話しかけてみることにした。
この烏――いや神使は、気がつけばどこかへ飛んでいくし、傍にいるときに話しかけても反応しないことがある。そのくせ面倒な命令だけはしてくるので、正直扱いづらい。
「ねえ、バズヴ」
『なんじゃ?』
今日は機嫌が良いらしい。すぐ返事が返ってきた。
「他の戦線はどうなってる?」
『獣人族と鬼人族以外は睨み合いのままよ。小競り合いはあるが、本格的な戦闘は始まっておらぬ』
「そっか。じゃあ鬼人族の方は?」
天城くんたちが向かった戦線だ。負けていたら報告が来ているはずだが、何も届いていないということは――。
『戦は圧勝であった。ただし、汝らの仲間が数人やられたようだ』
「やられた……それって」
『言葉通りだ。敵の攻撃を受けて死んだ』
「……そっか」
覚悟していたとはいえ、胸の奥が冷たくなる。
戦争なのだから死は当然――そう頭では理解していても、クラスメートの死は、やはり心に穴を開ける。
「でも、よくそんなこと分かるね」
『我が眼は千里を見る事が出来る。それくらいは分かる』
なるほど。千里眼というやつか。
前から気になっていたことを聞いてみる。
「神様って恩寵とか加護って、授けたりするの?」
『出来るぞ。神がこれぞという者に授ける』
「へぇ、どんなのがあるの?」
『うむ。有名なのは『月下の恩寵』『太陽の加護』『不老の恩寵』『戦神の加護』だ』
「効果は?」
『月下の恩寵は月が出ている間は死なん。不老の恩寵はその名の通り老いる事が無い。太陽の加護は太陽が出ている間、力が増す。戦神の加護は戦闘時に力が増す』
名前のまんまだ。月下の恩寵だけは強すぎる気がするけど。
「恩寵と加護の違いは?」
『女神が与えるのが恩寵、男神が与えるのが加護だ』
なるほどな。まぁ、僕は貰えるか分からないけどね。
そんな話をしていると、ユエが散策しているのが見えた。暇なのは同じらしい。
「ユエ〜」
「ん? おお、ノブか」
「暇だから散策?」
「まあな。ノブもか」
「そんなとこ」
先ほどまで話していたバズヴはいつの間にか飛び立ってしまった。
自由だな。
「暇なら少し話すか?」
「いいね。何の話?」
「今後についてだ」
「今後?」
「今回の戦争で、戦うのが嫌になった者が出ると思う」
「……そうだな。出るだろうな」
人を殺すことも、殺されるのを見ることも、覚悟していても心が削られる。王都に戻れば、その話題は避けられないだろう。
「ユエはどうした方がいいと思う?」
「個人の勝手だ。好きにさせるのが一番だ」
予想通りの答えだ。戦う気がなくなった者を気遣う余裕は、僕たちにはない。後方で好きにさせるしかない。
「じゃあ、戦争に参加したくない人はそうしよう」
「だな。で、王都に帰還したらどうする?」
「各部族に講和を進言するのがいいと思う」
「同盟じゃなくて講和か?」
「同盟って綺麗に聞こえるけど、属国に近いよ。戦後補償でも揉めるし、最悪決裂する」
「ふむ……確かに」
「だからまずは講和。それから通商条約や不可侵条約を結んでいけばいい」
「では、どこと講和する?」
「天人族だね。一番動員数が少ないから」
「なるほど。だが本当はもっと出せるかもしれんぞ」
「僕の予想だけど、王都に帰る頃には他の部族が講和を申し出てると思うよ」
「なにっ?」
ユエは驚いたようだ。
「どういう意味だ?」
「壁に耳あり、障子に目あり」
「……そういうことか」
ユエはすぐ理解した。
「王都には他部族の間者がいるということだな」
「そう。そして僕たちの勝利はすぐ伝わる。だから向こうから講和を言ってくる」
「うまくいくか?」
「いかなかったら、僕が王様に進言するよ」
「そうだな。それともう一つある」
「うん?」
「元の世界に帰れなかった場合だ」
「ああ、それね」
王様は「探している」と言っていたが、帰れる保証はない。
こちらで生きる道も考えておく必要があるな。
「ノブは戦争が終わったらどうする?」
「僕? 畑と小さな家をもらって、自給自足の生活をするよ」
「ふっ、ノブらしいな」
「ユエは?」
「異世界の知識で金を貯めて商会を作る」
「ユエにぴったりだね」
小さい頃から家の商売の手伝いをしていたユエなら、きっと成功するだろう。
「僕は応援するよ」
「そうか、手伝ってくれるのだな」
ん? 何かニュアンスが違うような……気のせいか。
「うん、僕に出来ることがあったらね」
「よし、言質は取ったぞ。忘れるなよ、ノブ」
あれ? なんか嵌められた気がするんだけど……気のせいだよね?
その後も僕はユエと話し続けた。




