↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/143

第61話 戦争が終わって

 朝起きて部屋を出ると、エリザさんが廊下で何かしていた。

「何をしているのですか?」

「いえ、何でもありません」

 と、言葉を濁していた。

 何かあったようだと分かったが、教えてくれないので何もできなかった。

 疑問を抱えたまま、僕は朝食を取るため食事に向かう。

 すると、エリザさんが教えてくれた。

「あと数日したら王都に凱旋しますよ」

 それを聞いて、ようやくかと思った。

 荷物は少ないので、城を出る時にまとめれば十分だ。

 朝食後、エリザさんが来て「軍議があるから今日は好きにしてください」とだけ言って離れて行った。

 急に自由と言われても、どうしたらいいか悩む。

(そうだ。マイちゃん達の様子を見に行こう)

 そう思って部屋を出たのだが、階段を降りてすぐ気付いた。

(……どこにいるのか知らない)

 戦争中に聞くのも変だと思っていたが、今になって困る。

 頭を抱えていると、前方から誰かが歩いてきた。

 村松さんだった。

 絶妙なタイミングで現れてくれたことに、僕は心の中で神に感謝した。

「イノッチ、おはよう~」

「おはよう、村松さん」

 軽く挨拶を交わす。

「村松さんは何でここに?」

「暇だから城を散策してたんだよ。イノッチはこの階に部屋があるの?」

「いや、もう一つ上の階だよ」

「上の階?」

 村松さんが怪訝そうな顔をする。

「どうかしたの?」

「イノッチ、この城って六階建てなんだけどね。地下一階、地上五階なの。地下は物置と牢屋、一〜二階は兵士達の階。三階は中級士官、四階は軍団長とその世話係の部屋しかないんだって。五階は見張り台ね」

「なるほど……つまり僕はエリザさんの世話係扱いなのかな?」

「話を信じるなら、そうなるね」

 世話係と言われても、実際はエリザさんが僕の世話を焼いている気がする。

「まぁいいや。それより皆は元気?」

「元気を売るほど元気だよ。……一人除いて」

「一人?」

「椎名ッチがね。朝から部屋を出ないんだよ」

「椎名さんが?」

「うん。何があったのか分からないけど、チャンチャンとサナダッチは『ほっとけばそのうち元気になる』って言ってた」

「原因が分からないと対処できないしね。二人の意見も間違ってはいないけど」

「ちょっと不人情じゃない?」

「まぁ、そうだね」

「様子を見に行きたいんだけど……」

「道案内してほしいんでしょう?」

「お願いします」

「ええ~、タダは嫌だな~」

 やっぱり何か要求してきた。

「何をしたらいい?」

「今度、あたしにも何か作ってほしいな~」

「何を?」

「甘い物」

 直球だな。

「ちなみに何?」

「アイスクリーム」

 簡単で助かった。

「王都に帰ったらでいい?」

「いいよ。取引成立だね」

 村松さんの案内で椎名さんの部屋へ向かう。

 十数分歩いて到着した。

「じゃあ、あたしはこれで」

「ありがとう」

「約束守ってね~」

 村松さんが去り、僕はノックしようとした――その瞬間。

 ドアが開いた。

「おはよう、猪田君」

「……おはよう、椎名さん」

 元気そうだ。安心した。

「心配してくれてありがとうね」

 微笑む椎名さん。

 そんな顔をされたら、男子に誤解されるからやめてほしい。

「じゃあ僕は――」

 身体を向けようとした瞬間。

 ムニョン。

 椎名さんの胸が僕の腕に当たった。

「えっ?」

「まだいいじゃない。お昼まで暇だから、わたしの部屋でお話しましょう♪」

 腕を絡めてくる椎名さん。

 笑顔なのに、何故か背筋が寒い。

 逃げようと腕を振りほどこうとしたが――

「ささ、入って入って♪」

 思ったより力が強くて抜けられない。

 このまま連行される――そう思った時。

「あ、いたいた。ノッ君、おはよう~」

「そんな所で何をしてるんだ、ノブ」

 マイちゃんとユエの声。

 神は僕を救うどころか、地獄に突き落としたようだ。

 二人は僕と椎名さんの“腕組み状態”を見て、鬼のような顔になった。

 三人が僕を挟んで口論を始める。

 宥めようとしても聞く耳を持たない。

 今にも戦いが始まりそうだった。

 どうしようと悩んでいると、横から腕を引っ張られた。

 村松さんだった。

「ここも騒がしくなるし、そろそろお昼だから食堂に行こう」

「でも」

「あんなのほっとけば静かになるよ」

 確かにそうかもしれない。

 村松さんと食堂へ向かい、一緒に食事を取った。

 僕の料理を見て「美味しそう、一口頂戴」と言われたので皿ごと渡す。

「美味しいね。あたしのも美味しいからあげるね」

 そう言って自分の料理を一口切り取り、フォークで刺して僕の顔の前へ。

「あ~ん」

 フォークが僕の口の前で止まる。

「あ~んは?」

 悲しそうな顔をされ、僕は口を開けて食べた。

「美味しい?」

「うん、とても」

 恥ずかしくて味は分からないが、そう言うしかない。

 村松さんは嬉しそうに笑って食事を続けた。

(あっ、このフォーク……間接キスでは?)

 言おうとしたが恥ずかしくて言えなかった。

 その後も村松さんは僕に食べさせたりして食事を続けた。

 マイちゃん達が食堂に来たのは、僕達が食べ終わった後だった。

 村松さんは勝ち誇った顔をしていた。

 三人は地団駄を踏み、責任のなすりつけ合いを始める。

 騒がしくなったので、僕達は食堂を出た。



<第三者視点>

 村松さんが猪田を連れて行った後。

 残された三人の間に、重い沈黙が落ちた。

 最初に口を開いたのはユエだった。

「この悪趣味女め……とうとう実力行使に出たか」

「そうだそうだ!」

 舞華もすぐに乗っかる。

 雪奈は腕を組み、冷たい視線を二人に向けた。

「邪魔しないでよ。わたしは久しぶりに猪田君と話したいだけなんだから」

「とか言って、既成事実でも作るつもりだったんじゃないの?」

 舞華がすかさず突っ込む。

「ふむ、あり得るな」

 ユエも頷く。

 雪奈は肩をすくめ、あっさりと言い返した。

「あら、だったらどうなの?」

 その挑発に、ユエの眉がピクリと跳ねた。

「お前にノブは渡さん!」

「じゃあ、わたしはいいんだ」

 舞華が手を挙げる。

「馬鹿を言え。お前にも渡さんよ、マイ」

 ユエが即座に切り捨てた。

「残念。ノッ君はもう、あたしと将来の約束をしてるんだよ。ねぇ、ノッ君――」

 舞華が振り返った先に、猪田の姿はなかった。

 代わりに、床に一枚の紙が落ちていた。

「……何これ?」

 舞華は拾い上げ、文字を見た瞬間、顔が悪魔のように歪んだ。

 その変化が気になり、ユエと雪奈も横から覗き込む。

 紙には、こう書かれていた。

『イノッチを連れて食堂に行って、先にご飯食べてるね~。

 三人は楽しく不毛な言い争いしていてね~。

 その間、あたしはイノッチと一緒に楽しくご飯を食べてるから(笑)』

「「「………………」」」

 二人は震えていた

 怒り、悔しさか、嫉妬の全てを合わせて。

 ユエは静かに頷いた。

「ふむ。やはり、あいつもノブを狙っていたか」

 ユエは薄々気付いていたらしく、妙に納得していた。

「えええええっ!? あたし、全然気づかなかった!」

 舞華が叫ぶ。

「わたしも……」

 雪奈も肩を落とす。

 ユエは深く息を吐き、二人を見た。

「まぁ、何はともあれ言えることは一つだ」

「だね」

 舞華が頷く。

「そうね」

 雪奈も同意した。

 三人は同時にため息をつき、同じ言葉を口にする。

「「「また、ライバルが増えた……」」」

 この瞬間だけ、三人の心は完全に一致していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。