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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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椎名の暗躍

 リュミエル城の戦いを終えたわたし達は、城内の食堂で祝勝会を開いた。

 こちらの人的被害は無く、向こうは多大な被害。文句なしの大勝利だ。

「これも、猪田君のアイディアのお蔭ね。流石だわ」

 祝勝会で賑やかな中、魔法師団の人達が酒を飲んで騒ぐ横で、わたし達はシュワシュワした透明な飲み物を飲んでいた。

 泡が出る湖の水に果汁を混ぜたものらしい。

 ジンジャーエールみたいなものだと思って飲んでみると、甘くて炭酸の刺激が心地よい。

(黒くないコーラ、って感じね)

 炭酸の飲み物を飲んで涙を流して喜んでいる人までいる。

 立食形式の祝勝会で、皆が皿を持って談笑する中、わたしはグラス片手に“彼”を探した。

 もちろん、探しているのはわたしの思い人だ。

 すぐに見つかった――けれど。

 声を掛けようとした瞬間、隣にいる人物を見て、わたしは目を細めた。

 魔法師団の団長、赤髪の悪魔エリゼヴィア。

 その悪魔が、楽しそうに猪田君と食事していた。。

 目に映る光景を見て手に力が入り、グラスにヒビが入った。

 自分でも驚くほど強く握っていた。

(……落ち着きなさい、わたし。深呼吸、深呼吸)

 呼吸を整えてから、改めて二人を見る。

 仲良く食べている様子は、まるで恋人同士のようだ。

 それを見て、胸がチクリと痛む。

 でも、わたしはそんな事では動揺しない。

 だって、わたしも“初めて”を貰ったのだから。

(あの時の唇の感触……今でも思い出すと胸が熱くなる)

 この世界に来てから、彼の寝顔を見たのは八十六回。

 体臭を嗅いだのは百八十八回。

 キスは一回だけ――でも、それは彼の方からしてくれた。

 その事実が、何より幸せだった。

 本音を言えば、この世界のことなんてどうでもいい。

 わたしと彼が居れば、それだけで十分。

(……いっそ二人で王国を飛び出して、誰も知らない場所で暮らすのもいいわね。子供は彼が望むだけ産んであげて……)

 妄想が甘く膨らんでいく。

 ふと、自分がどこまで考えていたかに気付いて、頬が熱くなる。

(危ない危ない……また暴走してた)

 気持ちを落ち着かせ、悪魔から彼を引き離そうと歩き出した――その瞬間。

 猪田君が、あの悪魔に“あーん”していた。

 視界が赤く染まるような感覚。

 気付いた時には、わたしの手の中でグラスが砕けていた。

 甲高い音が響き、祝勝会の空気が一瞬で静まり返る。

 猪田君も、あーんの体勢のまま固まってわたしを見ていた。

(……やっちゃった)

 わたしは口元に手を当て、笑顔を作る。

「ふっふふふふ、ごめんなさい。手が滑りました。どうぞ、楽しいお話を続けて下さい」

 一礼すると、周囲は再び談笑を始めた。

 胸の奥に、少しだけ自己嫌悪が滲む。

(こんなに嫉妬深いなんて……わたし、どうしちゃったの?)

 そんな思いが一瞬よぎる。

 でも、すぐに猪田君が心配そうに寄ってきた。

「椎名さん、大丈夫?」

「うん、ちょっと手を滑らしただけだから、気にしないで」

 思いもよらず、悪魔から引き離せて嬉しかった。

 このまま――と思ったら。

「わたくしは部屋に戻りますね」

「あっ、分かりました」

「では」

 悪魔が離れていくのを見送る。

(……あの女、本気で敵ね)

 勘だけど、他の三人よりも手強い。

 そして――不倶戴天の敵だ。

(今に見ていなさい)

 そう思いながら、わたしは食堂を後にした。


 祝勝会が終わった夜。

 わたしは城を探索していた。

 理由は簡単。

 猪田君を探している。

 一階は全部探した。

 二階も三階も見つからない。

(……寂しい。最近、彼の寝顔も見られないから余計に)

 胸がきゅっと締め付けられる。

 こんな気持ちになるなんて、少し自分でも驚く。

 わたしは魔法を発動する。

「『サーチャー』」

 探し物の位置が頭に浮かぶ魔法。

 猪田君を探すには最高の魔法だ。

 少し前までは、体臭を頼りに探していた。

 ストレージ・ボックスに保存した彼の下着を嗅いで落ち着いていた。

(……本当は、普通に隣で笑っていたいだけなのに)

 そんな弱い気持ちが一瞬だけ胸をよぎる。

 四階に上がった時、ようやく反応を見つけた。

「猪田君、みーつけた」

 唇を舐め、笑みが浮かぶ。

 嬉しい。寂しさが一気に吹き飛ぶ。

(このまま確保して、わたしの部屋に……)

 妄想が甘く膨らむ。

 でも、その時――前方から気配。

 得物を抜いて構える。

 月明かりに照らされたのは、赤髪の悪魔(エリゼヴィア)。

「あら、あなたは」

 顔を見られる前にわたしは、窓を破って外へ飛び出す。

 着地直前に魔法を発動。

「『風(エア)の鎧(アーマー)』」

 風が身体を包み、ふわりと地面に降りる。

 わたしは部屋へ戻った。

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