第55話 ご相伴に預かります
リュミエル城に着くと、すぐさま会議室に案内されてそこで軍議が開かれた。
僕やユエ達は真剣に聞いていたが、マイちゃんは眠っていた。
そんな幼馴染を見て、溜息を吐いた。
そして、会議を終えて部屋を出るとエリザさんに連れられどこかに向かう僕。
「どこに行くのですか?」
「イノータ殿の部屋です」
僕の部屋か。一応士官待遇だそうだから、漫画みたいにどこかの大部屋で雑魚寝する事はないだろう。
案内されながら、僕は疑問があった。
「何でエリザさんが僕を案内するのですか?」
「異世界の方ですから、他の者では粗相をするかもしれないので」
何かそう言われると、余計に申し訳ないな。
この城はかなり大きい城のようで、何回か階段を上がり回廊を歩く。
歩く事数分。ようやく、どこかの部屋の前に着いた。
多分、ここが僕が使う部屋だろう。
「ここは僕が使う部屋ですか?」
「ええ、鍵は部屋の中のテーブルに置いてあります」
「分かりました」
僕はドアを開けて、中に入る。
中に入って思ったのは、この部屋使う人間違っていませんか? と思った。
だって、天蓋付きで五人は余裕で寝れるベッド。フカフカで毛足が長い絨毯。
何かの動物を模した装飾を施された家具。映画とかアニメでしか見た事がない大きなシャンデリア。
そして、かなり広い部屋だ。この広さは4Lはあるのではないだろうか?
何となくだが、そう思えた。
「…………本当にこの部屋を使って良いのかな?」
実はこの部屋はエリザさんの部屋でしたというドッキリとか?
それとも、この部屋は城代が使っている部屋でしたとかだろうか。
「入ってもよろしいですか?」
エリザさんがノックしてきたので、僕は入室しても良いと言うとドアが開けられた。
「どうですか。いい部屋だと思います」
「あ、あの、この部屋を本当に使って良いのでしょうか?」
僕はそこが気になって訊ねる。
「はい。問題ありません」
「……実は、この部屋は城代が使う部屋というオチは?」
「オチ? 意味が分かりませんが、此処はイノータ殿が使う部屋です」
「じゃあ、この部屋、本当に使って良いのですか?」
「はい。その通りです」
「……そうですか」
こんな立派な部屋を使う事など今までなかったので、正直腰が引ける。
元の世界にいるお父さん、お母さん、兄さん達。異世界に飛ばされた僕がこんな贅沢をしても良いのでしょうか?
「そうそう、この伝声管の蓋は閉じないでください。声が聞こえなくなりますので」
エリザさんに指差した所を見ると、蓋が付いたパイプみたいな物が二つあった。
これは伝声管だな。
何か緊急事態が起こった場合、いち早く伝える為に設置されたのだろう。
昔のどこかの国の戦艦にもこれが搭載されていたそうだ。
何せエネルギーが必要なく、構造は単純なのに確実に声を届けるので、信頼性があったのだ。
まぁ、今では搭載している艦はないそうだけど。
一つあるのは分かるけど、もう一つは何の為だろう?
よく見ると、一つは上下にパイプが走っているのに、もう一つは横に走っている。
これでは隣の部屋にしか話す事が出来ない。
「もしかして、隣の部屋って誰が使うのですか?」
「・・・・・・わたくしです」
えっ⁉ 本当ですか?
「何で、隣なんですか?」
「一応、この軍の軍団長ですから」
「はぁ、そうですか」
「という訳ですので、何か話したい事があればいつでもどうぞ」
「……はい、分かりました」
魔法の制御で色々とお世話になったし、屋敷に暮らしてみてエリザさんの性格が何となくだけど分かったので、まぁ大丈夫だろう。
「では、これで」
エリザさんはそう言って、部屋を出て行った。
今日はどこにも行く気がしないので、僕は部屋に居る事にした。
こんなに大きなベッドがあるので、せっかくだから横になってみる事にした。
流石にジャンプをして、ベッドに飛び込むような事はしない。
ベッドで横になると、フカフカなベッドの感触が僕の体を包み込む。
(このまま、横になろうかな……)
と思っていたら、窓がコンコンと叩かれている。
体を起こして見ると、そこには一匹の黒い烏が居た。
僕は窓を開けて、烏を部屋の中に入れる。
「久しぶりだね、バズヴ」
『うむ、そなたも元気そうで何よりだ』
この烏の姿のバズヴにも久しぶりに会う。
僕が侯爵の屋敷に行く際、話をしている所を見られでもしたら色々と問題があったので、僕はバズヴに魔法の特訓が終わるまで少し離れてくれと頼んだ。
バズヴも魔法の特訓をしている僕を見てもつまらないので、この国を飛び回って見て暇を粒つと言って飛び立った。
「どう? 面白いものが見つかった?」
『うむ。まぁ、そこそこあった。それよりもだ』
「うん? 何かな?」
『お主、我が戻ったら何か美味しい物を食べさせると言ったな。で、何を食べさせてくれるのだ?』
「……ああ、そんな事を言ったな」
別れる前にそんな事を言った覚えがある。
『まさか、一度口から出た言葉を反故にする訳ではなかろうな?』
「いや、そんな気持ちはないけど。今は遠征中だから大した物を作れないよ。それでも良い?」
『構わん。そなたの世界の料理なら、この世界には無いであろう。それを味わうのも一興よ』
「はいはい、分かりました。じゃあ、厨房に行くとしますか」
バズヴは僕の肩に乗り、厨房に向かう。
厨房に着くまで少し迷ったが、歩いている人に道を尋ねてようやく着いた。
厨房は夜のご飯の準備の真っ最中だったので、僕は厨房を預かっている厨頭と言う人に食材と隅を貸していただけないかと頼んだ。
厨頭さんは怪訝そうにジロジロ見て、「好きにしろ」と言ったので、僕はありがたく使わせてもらう。
僕は隅で何を作ろうか考えていると、そこに固くなったパンが目に入った。
料理人がそのパンを捨てようとしていたので、僕はそのパンを下さいと頼んだ。
怪訝な顔をしながらも、他にも固くなったパンがあるそうなので、それもくれた。
僕はこのパンを使って、フレンチトーストを作る事にした。
まずはパンを柔らかくさせながら味をしみこませる卵液を作る。
卵とミルクを入れて掻き混ぜて、そこに砂糖と塩を入れて出来上がりだ。
もう晩御飯に近いので、甘くないフレンチトーストを作る。
切ったパンを卵液に浸して、少し置く。
その間に、思いついた物を作る事にした。
せっかくパンがあるのだから、パン粉を作る事にした。
僕は摺り鉦で固くなったパンを摩り下ろしてパン粉を作る。
このパン粉で何を作ろうかなと思い、冷蔵庫の役割をもった冷暗所に行くと、そこには豚肉のような物があった。
それを何の肉なのか訊いてみたら、レッドボアという魔物の肉だそうだ。
それを見て、僕はトンカツを作る事にした。
レッドボアの肉を三センチぐらいに切って、塩胡椒を振って、小麦粉、溶いた卵、摩り下ろしたパン粉の順でつけていく。
そして、フライパンでフレンチトーストを焼きながら、隣で大きな鉄鍋に油を大量に注ぐ。
火をつけて、油を温める。
パン粉を少し油の中に入れたら、すぐに浮かび上がった。頃合いだと分かると、僕はすぐに衣付けしたボア肉を投入する。
入れた当初は大きな音を立ててパチパチと音を立てて揚げられていく。
火が通ると揚げる音が小さくなっていった。
僕はフォークで肉を軽く叩く。火が通ったら弾力があるので、すぐに分かる。
肉に火が通ったので、僕は油の中から上げて油を切って皿に盛る。
フレンチトーストはもう焼けているので、僕は別の皿に盛る。
「はい、出来たよ」
『おお、美味しそうな香りだ。どっちでもいいから、我に食わせろ』
僕はまずはフレンチトーストを食べさせる。一口分に切ったトーストをバズヴの口に入れる。
『ほう、この外はカリッとして、中はトロリとしている。噛むとパンにしみ込んだ液体が口の中にあふれ出してきおるわ』
この反応を見るに、喜んではいるようだ。
次はボアかつだ。
『これはっ⁉ 今まで食べた事がない食感だ。パン粉がカリッとしていて、中の肉はしっとりと柔らかくジューシーな肉汁が口の中に溢れ出おる。こんなに厚いのに、しっかりと火が通っていて、かつ肉の臭みがほとんど感じない。素晴らしい。素晴らしい料理だ』
そんなに驚く事かな? 向こうの世界だったら、やろうと思えば誰でも出来る料理だよ。
僕がバズヴに料理した物を食べさせていると、後ろから何やら視線を感じた。
振り返ると、厨房にいる料理人達が無言で僕の作った料理を見ている。
中には、口から涎を垂らしている人も居る。
「あ、あの、よろしかったらどうぞ」
バズヴもお腹がいっぱいになったようなので、残りは厨房に居る人達にあげた。
皆、まずはフレンチトーストに群がった。
多分、味がイメージしやすいし、こっちの方が受け入れやすいのだろう。
(そういえば、王城に居た時も屋敷に居た時も揚げ物が出なかったな)
恐らく、この世界ではまだ揚げ物を作る調理技術がないのだろう。
トーストを食べた人達は、フォークをおっかなびっくりでボアかつを刺して口に入れる。
口に入れた人達は食べていく内に、驚いた顔をしていった。
初めて見た料理が美味しくて驚いているのだろう。
厨頭さんも、僕の料理を食べるなり、詳しい作り方を教えてくれと頼み込んで来た。
僕はそれを教えるついでに、こんなバリエーションがあると教えた。
厨頭さんは喜んでくれたので、よかったと思う。
僕は料理人さん達に感謝されながら、厨房を後にした。
どこに行く気もしないので、僕は部屋に戻る。
暇なので、僕はバズヴが見聞きしたものを聞いて時間を潰す。
「イノータ殿。よろしいですか」
外が暗くなってきた頃に、伝声管からエリザさんの声が聞こえた。
「はい。何でしょうか?」
「隣の部屋に来ていただけますか」
何か用があるのだろうと思い、行く事にした。
流石にバズヴを連れて行くのは問題あると思い、僕は部屋に置いていく。
バズヴも付いて行く気がないようで、テーブルで羽繕いしている。
僕が隣の部屋へ向かうと、少し歩いた所にあった。
ドアをノックしたら「入りなさい」と言われて、僕はドアを開けて中に入る。
部屋に入ると、テーブルいっぱいに料理があった。
「これは?」
「御腹が好いたと思いますので、どうぞ。一緒に食べましょう」
ふむ、これは一緒に食べようという意味だろうか?
じゃあ、ご相伴にあずかろう。
僕はエリザさんと一緒に晩御飯を食べた。




