第54話 そろそろ、戦場に着くかな
戦場に向かう為に、馬車に乗り込んだ僕達。
馬車には僕、ユエ、椎名さん、マイちゃんにエリザさんとカドモスさんも乗り込んだ。
僕の右隣は椎名さん。左はユエ。対面にマイちゃんが座っていた。
マイちゃんの両隣にはカドモスさんとエリザさんが座っていた。
三人は僕を挟んで睨み合う。
僕が宥めるとすぐに止めるのだが、少ししたらまた始めるので、正直疲れる。
マイちゃんが居たら、更に酷くなっていただろう。
マイちゃん達が睨みあっているが、エリザさん達は気づいていないのか、話しかけようとしなかった。
いや、これは気づいているけど、関わったら面倒だと思い、敢えて気づかないフリをしているな。
此処はどうするべきか悩んだ後、僕から話をふる事にした。
「そ、それにしても、僕の意見が通るとは思わなかったな。てっきり、意見の一つとして受け入れられると思って発言したから、驚いたよ」
僕がそういうと、ユエが乗っかってきた。
「ノブの意見が素晴らしい意見だったから、陛下も各軍団長方もその意見を採用したのだろうよ」
僕はこの話の流れに乗る。
「いや、そんなな事はないよ。敵の数を見たらそう思えたから、思った事を言っただけだよ」
僕は会議室での事を思い返した。
『僕の考えとしては、戦うのは獣人族軍と鬼人族軍だけにして、他の軍には牽制として軍を向かわせる程度で良いと思います』
『戦うのは、獣人族と鬼人族だけだとっ⁉』
『他の軍と戦わなくても良いとは、どういう事だ!』
『まさか、領土を明け渡せと言うのではないだろうな?』
『近衛兵団のみ三万だが、我が国の各軍団は五万だ。総勢三十三万だぞ。何故、戦いを避ける⁉』
『戦争に臆したか? これだから戦を知らぬ素人は……』
『静かに』
王様がまたざわめきを制した。
『話は最後まで聞いてから言えばよい。そこの異世界人よ。名は何と言う?』
『いのた、じゃなかった。イノータと申します。陛下』
『イノータか。では、そちの意見を聞こうか』
『はい。では、さっそく』
僕は席を立ち、地図がある所までいく。
何かを叩く物はないかなと思っていたら、宰相が先程まで持っていた物を僕に差し出す。
『どうぞ、好きに使ってください』
『ありがとうございます』
僕は跪いて、それを恭しく受け取る。
宰相って事は偉い人だろうから、ここは礼儀を持って接するべきだと思った。
僕は宰相から貰った物で、地図を叩く。
『僕が獣人族と鬼人族以外と戦いを避けると言った理由は、今挙げた二つの軍に比べて、動員数が少ないからです』
『確かに、獣人族と鬼人族共に三万だが、他は一万以下だ。だが、それが何の理由になる』
『軍というのは、兵士だけではなく、きゅうご……いや違った、ええっと衛生兵みたいな非戦闘員がいます。それらを合わせて一軍になります』
『その通りだ。軍とは、大まかに分ければ戦闘部隊、非戦闘部隊の二つで構成されている』
『そうだとしたら、天人族、竜人族、亜人族の軍の数は少なすぎます』
『『『むっ⁉』』』
僕がそう言うと、何人かの軍団長が目を見開く。
『ねぇ、イノッチ。その非戦闘部隊って、何する為に戦場に行くの?』
村松さんが尋ねてきたので、教える事にした。
『非戦闘部隊の仕事は簡単に言えば後方支援だね』
『こうほうしえん?』
『そう、例えば補給を問題なく行えるようにするとか、武器の整備をするとか、物資をちゃんと輸送できるようにするとか、陣地を作ってそこで物資を管理するとか、傷ついた兵士達を手当てする。今言った事をするのが後方支援の仕事だよ』
従軍鍛冶師とか酒保商人とかも、これに入る。
軍の規模が大きければ大きいほどに、この非戦闘部隊の人数も増える。
『ふむふむ、成程』
『あと確か兵士の勲功を管理する人も居るって聞いた事があるけど、それはこの国も居るのですか?』
『うむ、勲功管理する者はいる』
『くんこうかんり? なにそれ?』
『簡単に言えば、兵士が立てた勲章を記録する事だよ』
『記録したら、何かあるの?』
『例えば、とある兵士が敵の騎士を倒したとします』
『うんうん』
『戦が終わった後、その兵士は自分の上官に、倒した騎士の首を持って来て「俺はこいつを倒した」と言いました』
『う、うん』
斬られた首を想像したのか、青い顔をする村松さん。
『そこで、他の兵士が「そいつを倒したのは俺だ!」と言ってきました。二人は口論になり、最後には剣を抜いて戦う事になり、二人は戦が終わったのに、大した理由もなく剣を抜いた事で軍法に掛けられて処刑されました』
『ちょ、それは』
『まぁ、ちょっと極端な例え話だけど、こういった事を防ぐ為に勲功管理する人が必要なんだ』
『成程〜』
村松さんは納得してくれた。
ついでに、僕の話を聞いて頷いている人もいるな。
『話が少しそれましたが、国を攻めるのに一万では少なすぎます。非戦闘部隊は全体の三〜四割ほど占めているから、残りの六〜七割だと計算したら、六千から七千は少なすぎませんか?』
『だが、先遣隊とも考えられないか?』
『確かに、そう考えても仕方がないと思います。でも、後続があるとはまだ断定されていません。そんな事を言っていたらきりがありませんので、ここは各個撃破するのが一番良いのです』
『それが何故、獣人族と鬼人族の二つと戦うのだ?』
『今の所、動員されている兵が多いからです』
『この場合、動員されている兵が少ない所を先に潰すべきでは?』
『先に兵が少ない所を叩くよりも、多い方を叩いた方が楽だからです』
『うむ、その通りだな』
『それに僕の見立てでは、この国に侵攻する気があるのは獣人族と鬼人族の二つで、他の種族は高みの見物を決め込むと思います』
『その見立てには自信があるようだが、根拠はあるようだな』
『国王陛下。無礼な事を言いますが、少しでも土地を得る方法は何か分かりますか?』
『う〜ん、分からんな』
『簡単です。国が滅ぼされた時に、その国を滅ぼした国に兵を出した謝礼として領土が欲しいとねだるのです』
『左様か、つまり、そちが言いたいのは、亜人族、竜人族、天人族は、死肉をむさぼるハイエナみたいなもので、獣人族と鬼人族の軍にのみ集中すればよいと言いたいのだな』
『その通りにございます、陛下』
この王様、凄い聡明だな。僕が言いたい事が分かるなんて。
『見事な戦略だ。敵数を聞いただけでそこまで分析するとは、見事だ』
『恐縮です、陛下』
『皆の者、今のイノータ殿の意見をどう思う?』
『いえ、見事な戦略です。敵の数を聞いただけで、そこまで考えつくイノータ殿の智謀には脱帽です』
『真に、今の意見は大変耳を傾けるべき意見です』
何か、「今の」という所を凄い強調しているように聞こえた気がする。
気のせいかな?
『では、獣人族と鬼人族に当たる軍を選ぶとしましょう』
宰相がそう言い、どの軍がどの軍に当たるか話し合った。
その後はすんなりと決まった。
だから、僕達も二手に分かれたのだ。
「あの時のノブは、堂々とした立派な姿だったな」
ユエが思い出したのか、感心しながら頷いていた。
「あの時の猪田君は格好良かったわ」
「そうだね。まぁ、あたしの幼馴染なんだから、あれぐらい出来て当然だけどね」
椎名さんは顔を赤らめていた。
マイちゃん。君の中で、僕はどんな存在なの? 後でそこの所を詳しく聞きたくなってきた
「まぁ、あの馬鹿の後だと、余計に素晴らしい事を言っているように聞こえたな」
ユエ。その馬鹿って、多分、天城君の事だよね。
天城君はもう少し、何というか戦術と戦略を勉強した方が良いと思うな。
まぁ、そういうの得意そうではなさそうだけどね。
「そろそろ、リュミエル城に着きます」
御者の人が声を掛けてきた。
じゃあ、降りる準備をするか。




