第41話 さぁ、来い。準備は万端だ。
翌日。
約束の日時まであと僅かだ。
僕達は準備をしながら、時がくるのを待った。
「も、もう少しで、じ、時間か・・・」
僕は全身を震わせながら話し掛ける。
正直言って何が来るか分からないので怖い。
だが、隣にいるマイちゃんはそうではないようだ。
「大丈夫大丈夫。烏ぐらいでそんな怖がる事ないじゃん。気楽にいこうよ、気楽に」
う~ん、マイちゃんの気楽さが、今では心強く感じる。
周りも、僕が怖がっているのを呆れている。
「まったく、ノブ、だらしないぞ。マイの心臓の毛でも貰ったらどうだ?」
「猪田君、深呼吸、深呼吸」
「ノブッチ、手のひらに好きな人の名前を書いて飲んだら緊張がとれるっていうよ~。やってみたら?」
「成程。じゃあ、さっそく」
「「「そこっ、嘘つかない‼」」」
「あ、やっぱりばれた」
村松さんが舌を出して笑う。
その小悪魔っぽい顔が可愛いと思った。
僕達は今、訓練場に居た。
ここに居るのは、僕とマイちゃん、椎名さん、ユエ、村松さんだ。
椎名さんとユエは普段から行動を共にしているので分かるが、何で村松さんがここに居るのだろう?
「ところで、何で村松さんがここに居るの?」
「う~ん、面白そうだから」
「あっ、そうなんだ」
村松さんらしい理由だった。
でも、話していたら少し落ち着いてきた。
「村松さんと話していると、落ち着くな~」
本心でそう思った。
「えっ⁉ そ、そうかな……~~~」
村松さんは顔を赤くしながら髪を弄る。
「「「………………」」」
あれ? 何だろう。周りの空気が寒くなった気がするぞ。
もしかして、来たのかな?
でも、空を見上げても烏らしいものは見えない。寒気を感じるのは何でだろう?
「イノッチ、どうかした?」
「いや、何でもないよ」
僕はそう答えて、これからの事を考えた。
(烏と言うけど、どれくらいの大きさか分からないけど、一応色々と準備はしているから大丈夫だと思うけど、不安だな)
僕がそう考えていたら、青い空に黒い点のようなものが見えた。
青空の中で、その黒い点は余計に目立つ。
その点が段々と大きくなっていく気がする。
「もしかして、あれかな?」
何となくだけどそう思った。
「ノッ君、どうかした?」
「あれ」
僕は黒い点を指差した。
マイちゃん達は僕が指差した方向を見る。
そうしている間にも、その黒い点は段々大きくなっていった。
「多分、あれだね」
「だよね」
そして、その黒い点が鳥の姿として見える所までやってきた。
黒い羽に、三本足だ。
昨日の烏だな。
(いよいよか。昨日出来た新兵器、試すとするか‼)
僕は布に包まれた物を手に取る。
黒い羽を持った烏は二、三度翼をはためかせると、僕らの前に降り立った。
翼をはためかせた事で起きた風が、乾いた土を埃となって舞い上がらせた。
僕達は砂塵に目をやられ、何度も目をこすり埃を目から追い出す。
ようやく目を開けられるようになった時には、三本足の烏が僕達を見ていた。
『我が名はバズヴ。我が主の命により、召喚者の力量を計りに参った』
烏は口を開けていないのに、声が聞こえてくる。
「この声、頭の中に直接響いているのかな?」
『然り。我が汝らの頭に直接話し掛けている』
これはテレパシーみたいなものかな?
烏がこんな事が出来るなんて、流石はファンタジーだ。
『我に挑む者は前に出よ。契約する為の試練を伝える』
僕はマイちゃんを見て頷いた。
「ノっ君、頑張れっ」
「猪田君、頑張って!」
「ノブ、気楽にやれ。変に気負うと、いい結果が出ないぞ」
「イノッチ、ガンバレ~」
声援を背に受けながら、僕は前に出る。
『汝一人だけで、試練を受けるのか?』
「はい、そうです」
『ふんっ、神の使いである我を相手に一人だけで戦うとは、余程の蛮勇かもしくは馬鹿なのであろうな』
僕は聴く体勢をとったが、マイちゃんは不満そうな顔でネヴァンを見る。
「なんか、烏なのに、すっごい偉そうなんだけど」
「神様の使いなんだから、十分偉いと思うよ」
「でも、烏じゃん。あたし達がいた世界だと、ゴミ荒らすような厄介者だよ」
「いやいや、僕達が居た世界の烏と、この神様の使いの烏を一緒にしたら失礼だよ!」
「羽が黒いから、そうとしか思えないよ~」
「失礼だよ、マイちゃん。それに烏は色々な神話に出てくる凄い鳥なんだよ」
日本では神武天皇が八咫烏という烏に導かれた話があるし、中国では太陽の象徴として三本足の烏がある。他にも北欧神話、ケルト神話、ギリシア神話にも出てくる。
意外にも烏は神聖視されているのだ。
『ゴホン、話を続けてよいか』
「あ、すいません。どうぞ」
話の腰を折ってしまったが、意外にも怒る様子はない。
(もしかして、良い烏なのかな?)
何となくだがそう思った。
『では、試練は昨日伝えた様に、我とそなたと戦ってもらう』
「ハンデとかありますか?」
『無論、ハンデはつける。我は魔法は使わない。そして、そなた達は何をしても構わない。我の口から「まいった」と言わせたら勝ちだ。また、一時間そなた達のどちらかが立っていたら勝ちとする。他に何かいるか?』
「いえ、ありません」
『では、準備をするが良い。準備が整い次第開始とする』
「あ、大丈夫です。もう準備は整っていますから」
『なにっ⁉』
バズヴは僕達を見る。
僕は真新しい鎧を着て、手には布に包まれた物と、何かが入った木箱を沢山持っている。
そして、僕達の腰に差している物は剣だけだ。
『……汝、本気か?』
パッと見ではそう思うだろう。
何せ、武器といえるものが剣しかないのだから。
「はい。本気です」
『……後悔するでないぞ』
「大丈夫です」
僕はいつでも開始出来るように身構える。
『よかろう。我を侮辱した報いを受けるが良いッ』
そうとられても仕方がないよな。大した武装をしている訳ではないから。
バズヴは顔をユエ達の方へ向ける。
『そこに居る者達、何でもいいから合図を送るが良い』
そう言われて、ユエ達はどうやって合図を送るか話し合った。
意外に形式に拘る人? なのかな。
話し合った結果、習得した魔法で合図を送る事になった。
「それでは、両者準備は整ったな?」
「いつでもいいよ」
『うむ』
「それでは―――――」
ユエが目をつぶり念じていたら、手のひらから光の球が生まれた。
その球を上へと投げた。
光の球は真っ直ぐ上がり、ある程度の高さに達すると、一瞬激しく光りだした。
少し遅れて、パン、パンパンと音が聞こえてきた。
バズヴはまだ動かない。
僕達が突っ込んできたら、空に飛んで攻撃するつもりなのだろう。
なので、余裕で待ち構えている。
僕はその隙に、布で包まれている物から布を取り払った。
「さて、使うのも初めてだけど、テストは行ったと言っていたから暴発はしないはず」
僕は布に包まれていた物を見た。
それは金属で出来た筒のような物だ。引き金と撃鉄も付いている。狙いをつける照星もある。
まるで拳銃のような物だ。
事実、これは銃だ。ただし火薬を打ち出すのではなく、魔法を打ち出すという物だ。
銘を『魔弾銃(仮)』と名付けた。
侯爵に作るよう頼んでみたが、まさかこんなに早く出来るとは思わなかった。
(けっこうあやふやな事を言ったつもりだったけど、形になるもんなんだな)
僕は昨日練習した通りに可動させる。
リボルバーのような中折れ式で、弾は一発しか入らないが十分だ。
ポケットに入れていた弾丸を銃身に入れる。
銃身を上げる。カチッという音を立てて元の形に戻った。
僕は銃口をバズヴの足に狙いをつけた。
初めて銃を持って撃つというのは、武器を持って動物を殺すのとは違う意味で怖い。
(狙いをつけて、当てないと。じゃないと魔法の契約が出来なくなる)
そう思うと余計に外せなくなり、僕の手が震える。
「ふぅ……」
呼吸を整えて、引き金を引く。
甲高い音を立てて、銃口から青い弾が発射された。
銃を撃ったら反動があるそうだが、この銃には反動がない。
発射された弾は真っ直ぐに飛んでいき、バズヴの足元に当たる。
パキィィィン‼
当たった瞬間、弾が当たった所が凍りだした。
『こ、これはっ⁉』
バズヴは両足が凍り付かされ、飛ぶ事も動く事も出来ない。
何とか動こうと身体を動かし、氷から抜け出そうと頑張る。
「よし、成功だ‼」
僕は思っていた通りの成果と、狙い通りに当たった事の喜びを込めて、二つの意味で成功と言う。
『ぬううう、小癪な事をしおってぇ……』
悪態をつくバズヴに、僕は次の行動に出る。
傍にある木箱の蓋の部分を手で壊した。
箱の中には、先程僕が撃った弾丸と同じ弾がいくつもあった。
僕は入っていた弾丸を抜いて、新しい弾を込めた。
銃口をバズヴの体に向ける。そして引き金を引いた。
先程と違い、青い弾ではなく今度は赤い弾だ。
その弾がネヴァンの体に当たると、炎となってバズヴの身体を包む。
「よし、次は」
僕は弾丸を抜いて、新しい弾丸を込めて発射した。そして、また弾を込めて発射する。
その繰り返しを続ける。
バズヴは足が凍っているので、動くことも避ける事も出来ない。
『ぐ、ぐおおおおおおおおっ⁉』
バズヴは魔弾の攻撃に耐える。
耐えていれば、その内攻撃は止むだろうと思っているようだが、箱はまだ十箱あった。
箱の中の弾丸は百発。今使っている箱にも五十発分の弾がある。
このまま攻めていたら、一時間過ぎるだろう。
相手は逃げる事が出来ないから、このまま攻めていたら大丈夫だ。
「「……………」」
あれ? 試合を見ているユエと村松さんが僕をドン引きしている気がする。
「流石、猪田君。凄いわ。普通の人じゃ思いつかないわ、こんな方法」
椎名さんは何か凄い感心している。
「ねぇ、マイちゃん」
「なに? ノッ君」
弾を込めながら、僕は訊く。
「この作戦、変かな?」
「全然。凄い効率的じゃん」
「だよね」
僕達は相手が『まいった』と言うまで続けた。




