第25・2話 実戦中にて
森の前に着いた僕たちは、馬車から降りると大きく体を伸ばした。
「~~~~っ、ようやく体を動かせる」
「そうだな。やはり馬車の中だと自由に動かせないからな」
「う~ん、木のいい匂いがするねっ」
マイちゃんたちが体を伸ばすたびに、女性の象徴とも言えるものがブルンブルンと揺れた。
見てはいけないと思うのだが、つい目が追ってしまう。
僕がそうなのだから、護衛の騎士たちもそうだろうと思い横目で見てみると、二人とも、その揺れに釘付けだった。
(仕方がないよね。男だもん)
同じ性を持つ者として理解できる。
マイちゃんたちは森に入る前に、身体を痛めないようストレッチを始めた。
「いち、にっ、いち、にっ、いち、にっ」
ラジオ体操のような動きだが、さっきより激しい動きなので胸の揺れも激しくなる。
(おおおおおおおおっ!! む、胸がさっきよりも激しく揺れてるっ!)
僕も騎士たちも、その動きに目を奪われた。
「~~~~っ、ま、まずい・・・」
「は、鼻血が・・・・・・!」
騎士たちは刺激が強すぎたのか、鼻を押さえて目をそらした。
僕もこのまま見ていたら危ないな。
後ろを向こうとしたら、椎名さんが声をかけてきた。
「猪田君もストレッチしようよ。じゃないと身体を痛めるよ?」
「えっ!? でも・・・」
「ほら、早く」
手招きされ、僕は渋々ストレッチに参加した。
しかし、三人に比べて僕は体が固く、悲鳴を上げながらのストレッチになった。
終わる頃には身体の節々が痛かった。
「いたたた・・・・・・まさかストレッチしただけでこんなに痛いなんて・・・」
「日頃の運動不足だね」
「だな。王宮に戻ったら毎朝柔軟体操をしたらどうだ?」
「う、う~ん・・・」
椎名さんも同意見のようだ。
程よく体をほぐした僕たちは、森へと入っていく。
先頭はマイちゃんと騎士の一人。
真ん中に僕とユエ。
最後尾に椎名さんともう一人の騎士。
後ろからの奇襲に備えて、最後尾に騎士を置いた隊列だ。
今回は日帰りの予定なので、森の奥までは行かないらしい。
僕たちは周囲を警戒しながら歩き出した。
草と土を踏みしめる音が響く中、茂みの向こうが微かに揺れた。
僕たちは即座に武器を構える。
(な、何が来る?)
ドキドキしながら待っていると、茂みから出てきたのは、大きなウサギだった。
赤い目に白い毛皮。
ただし、頭には一本の角。
図鑑に載っていた『ホーンラビット』だ。
「あっ、可愛い」
マイちゃんがそう言って近づいていく。
「待っ――!」
僕と騎士が止めようとしたが、もう撫でられる距離まで行っていた。
「キュッ、キュウウウウウッ!」
ホーンラビットが吠え、マイちゃんへ突撃する。
(危ないっ!?)
角が体を貫くと思った瞬間――
マイちゃんは上半身を反らし、突撃を紙一重で回避した。
そしてすれ違いざまに短剣を突き出す。
「はああああっ!!」
ドスッ。
短剣がホーンラビットの体を貫いた。
痙攣し、すぐに動かなくなる。
マイちゃんは剣を抜き、血を振り払った。
「ふぅ、びっくりした」
「おお、なかなか鮮やかな手並みだな、マイ」
ユエが感心して拍手する。
「すごいね! 私はてっきりやられたと思ったよ。まぁ、そっちの方がよかったけど(ぼそ)」
椎名さんも驚いていた。
なんか、小声で何か言った気がするけど。
マイちゃんは照れ臭そうに頭を掻く。
確かに見事だったけど、不用意に近づきすぎだ。
(ここは僕が言わないと)
「マイちゃん」
「なに、ノッ君?」
「ちょっと正座」
「え~、なんで?」
「いいから、正座」
「でも」
「正座」
「はい・・・・・・」
マイちゃんは正座した。
「いいかい、ここは僕たちの世界じゃないんだから、不用意に動物に近づいちゃダメだよ。今回は偶然防げたけど、次もそうとは限らないんだから」
「は~い」
「返事は伸ばさない!」
「はい」
「それと前衛なんだから、勝手に離れたらダメ。隊列が乱れると危険なんだから」
説教を続けようとしたその時。
僕の後ろの茂みから、木が揺れる音がした。
僕は即座に振り向き、武器を構えた。
マイちゃんも立ち上がり、他の皆も武器を構える。
茂みから影が飛び出し、僕へ襲いかかってきた。
茂みから飛び出してきた影は、一直線に僕へ襲いかかってきた。
僕は咄嗟にグレイブを構え、突撃を受け止める。
「く、くううううっ!」
衝撃で腕が痺れる。
姿がはっきり見えた。
――『グレイウルフ』。
灰色の毛皮をした狼。
図鑑で見た通りの魔物だ。
グレイウルフの重みに押し倒されそうになりながらも、僕は必死に踏ん張り、力任せに押し返した。
押しのけられたグレイウルフは空中で一回転し、地面に着地する。
「器用なことをするな。番犬代わりに飼うって聞いたけど、意外と知能もあるのか?」
呟くと、グレイウルフは毛を逆立てて威嚇してきた。
周囲を確認する。
他の皆もそれぞれグレイウルフに襲われていて、援護は期待できない。
(なら、一人で倒すしかない!)
僕はグレイブを握り直し、グレイウルフへ踏み込む。
「ていっ!」
突きを放つ。
だが、グレイウルフは横へ跳んで避けた。
(よし、これでっ!)
突きが避けられるのは想定済みだ。
僕はグレイブを戻さず、そのまま横薙ぎに振り抜いた。
避けたと思った攻撃が、次の瞬間には自分へ襲いかかってくる。
グレイウルフは反応できず、横一文字に切り裂かれた。
「ギャンッ!」
悲鳴を上げて倒れ込む。
致命傷だったようで、グレイウルフは苦しむことなく、目を閉じて動かなくなった。
「・・・ごめん」
僕は小さく呟き、首を落として止めを刺した。
ビクッと身体が震え、完全に動かなくなる。
「はぁ・・・はぁはぁ・・・・・・」
生まれて初めて命を奪った。
手が微かに震えていた。
空を見上げて気持ちを落ち着けようとしたその時。
視界の端に、赤い煙が上がるのが見えた。
「あれは・・・・・・」
赤い狼煙。
緊急事態発生の合図だ。




