第25・1話 初めての実戦
メイドさんに言われて、僕たちは訓練場に集まった。
まだ誰も来ていなかったが、僕たちは固まって待つことになった。
誰も来ていないので、皆は雑談を始める。
「近くの森に行くって言ってたけど、何が出るんだろうな?」
「獣じゃないか?」
「ここはファンタジー世界だから、スライムかもしれないぞ」
「それはゲームだろう。ここはゴブリンじゃないか?」
皆が口々にどんな魔物が出るか言い合っていた。
(昨日調べたら、この王都の近くにいる魔物は獣系が多かったな)
図鑑によると『グレイウルフ』『ホーンラビット』『レッドディアー』がいると載っていた。
他にも、どこかの土地から流れてきた魔物がいる可能性もあるらしい。
(まあ、僕たちの護衛に兵士が付いて来るから大丈夫だよね)
まさか護衛も無しに戦闘させることはしないだろう。
「ノブ、ちょっといいか?」
考えていると、ユエが話しかけてきた。
「なに、ユエ」
「今日は近くの森に行くと言っていたが、誰が私たちを連れて行くと思う?」
「多分、王女様じゃないかな。もしくは、僕たちを王宮まで護衛してくれた騎士団長だと思うな」
「そう考えるのが妥当だな」
「こういった訓練をして、慣れてきたら――」
「戦争に投入されるだろうな」
そう聞くと、僕は自分の掌を見る。
日本にいた時は綺麗な手だったが、今は豆ができているし、小さいが切り傷もいくつもある。
訓練をしている時にできた傷だ。
この手を血で染めないといけないとは。
(決めたこととはいえ、少し心にくるな)
でも、そうしないと生きていけない。
ならば、僕がすることは一つだ。
(できる限り被害を抑えながら、この戦争を終わらせて、日本に帰る。例え、敵にどんな忌み嫌われようとも!)
そう決意していたら、騎士団長が何十人もの兵士を連れてやってきた。
名前は確かレオンとか言っていたな。
「おはよう、諸君。もう分かっているだろうが、私が諸君の案内をする」
訓練場にいる皆に聞こえるように、大きな声で話しかける。
「それでは、まずは自分に合った武器を選んでほしい。訓練では刃引きした物だったが、今渡すのは正真正銘、人殺しができる物だ。扱いは慎重にするように」
レオン団長が言い終えると、兵士たちが武器の入った箱を持ってきた。
訓練と違い、槍と剣だけではなく、鈍器、弓、ハルバード、大剣、ファルシオンなど様々な武器が並んでいる。
皆、訓練とは違い自分の好きな物を取っていく。
僕は訓練と同じグレイブを取る。
「全員、武器が渡ったな。次に渡すのは背負い袋だ。この袋の中には水、食料、火を点ける道具などが入っている。これを一人一つ持つように」
兵士たちが背負い袋を配り始める。
「それと、この背負い袋には『収納ストレージ』の魔法が掛かっている。容量はそれほど大きくないが、色々な物を入れることができるので、上手く使うように」
その声を聞きながら、僕たちは背負い袋を受け取った。
「次は四人一組になってもらいたい。これは森での戦闘の際に組むチームだと思ってほしい。森に入ったら、そのメンバーで森を回ってもらう」
団体で固まって行動するよりも、少人数で行動した方が効率が良い。
誰と組もうかなと思っていたら、いつの間にか僕の周りにマイちゃん、ユエ、椎名さんが集まっていた。
さっきまでそばにはいなかったのに。
「よし、編成は終わったようだな。では、中庭で待機している馬車に乗ってもらう」
二十五人だから、どこかの組は五人になっているのだろう。
そう考えながら、僕たちは中庭へ向かった。
馬車に揺られながら、僕たちは森へと向かっていた。
僕たちが乗っている馬車は、西部劇に出てくるような幌付きの馬車で、乗っているのは僕たち四人と護衛の騎士が二人。
(護衛とお目付け役も兼ねているのだろうな)
戦闘の心構えを教えつつ護衛もするなんて、大変だと思う。
そんなことを考えていたら、僕の右に座っている椎名さんが、肩にもたれながら僕の腕に自分の胸を押し付けてきた。
「・・・・・・♥ ・・・・・・♥」
「し、椎名さん」
「なにかな? 猪田君♥」
「その、当たっているんだけど?」
柔らかいものが僕の腕に押し付けられている。
そのせいで、僕の心臓は破裂しそうなほど早く脈打っていた。
「ええ、別にいいじゃない。だって、もう私は君に――」
「はい、そこまでっ」
椎名さんの言葉を遮るように、左に座っていたマイちゃんが僕を自分の方へ引き寄せた。
その結果、僕の左腕にも柔らかいものが当たる。
しかしマイちゃんは気にする様子もなく、椎名さんに言い放つ。
「ノッ君が嫌がってるんだから、椎名さんもやめなよ」
僕を自分の物と言わんばかりに、ぎゅっと抱きしめる。
それを見て、椎名さんはムッとした顔でマイちゃんを睨んだ。
「猪田君が嫌がってるなら猪田君が言うことよ。なんで真田さんが言うの?」
「ノッ君は優しいから、自分の口から言えないの。だから代わりにあたしが言うのっ」
「真田さんは関係ないでしょう!」
「関係あるもん。あたしは幼なじみだからっ!」
「全然関係ないわよ!」
「あるわよ!」
二人は僕を挟んで睨み合う。
幻覚だろうか?
椎名さんの背中からは刀を持った般若が、マイちゃんの背中からは噛みつきそうな虎が見える。
(おかしいな。睡眠はちゃんと取ったのに、疲れてるのかな?)
現実逃避していたら、対面に座っていたユエが助け舟を出した。
「二人とも、じゃれ合うのもそれくらいにしろ」
「別にじゃれ合ってなんかないわよ、ユエ」
「そうよ。私はそんなことしてないわよ、張さん」
いや、どう見ても一触即発だったと思う。
「これから私たちは森で狩りをするんだぞ。二人が喧嘩していたら、ノブが大変だと思わないのか?」
「「うっ・・・」」
ユエの一言に、二人は顔を見合わせ、しぶしぶ謝った。
「ごめんなさい、言い過ぎたわ」
「うん・・・私も少し浮かれてた」
ユエに目で「ありがとう」と伝えると、彼女はウィンクしてきた。
「さて、森に着く前に装備の確認をしよう。持っている武器で配置を考えないといけないからな」
「そうだね。どんな武器か知っていたら、作戦も立てやすいし」
僕が頷くと、マイちゃんが勢いよく手を挙げた。
「はいはい! まずはあたしっ。あたしの武器はこれ!」
マイちゃんが見せたのは、ナックルガード付きのサーベルだった。
軽くて扱いやすそうだ。
「さらにこれも持てば無敵だね!」
幅の狭い両刃短剣を取り出す。
「両手で剣を持つ戦い方も教わってるから、これくらいできるよ」
フランスの銃士のようなスタイルだ。
続いてユエが武器を見せる。
「私の武器はこれだ」
「「ほ、方天画戟っ!?」」
僕とマイちゃんが叫ぶ。
椎名さんだけは首を傾げていた。
「前々から王都の武器屋に頼んで造らせた物だ。我が故郷の有名な武将が持っていた武器を持てるとは、異世界に来てよかったと思うぞ!」
「「おおおおおおっ!!」」
ユエは胸を張って自慢する。
その胸が揺れ、僕は思わず目で追ってしまった。
「でも、その武器使えるの?」
「「あっ」」
確かに重そうだ。
「安心しろ。使えるから持ってきたんだ」
ユエが言うなら大丈夫だろう。
次は椎名さん。
「私はこれだよ」
長弓と、湾曲した両刃のナイフを二本。
「弓だけだと接近された時に困るからね」
「両刃だから使い勝手は良さそうだね」
「うん、そう思ったの」
「ノッ君はそれ?」
「うん、訓練で使ってたから無難にこれにしたよ」
僕はグレイブを見せた。
その時、風に乗って木々の匂いがしてきた。
(そろそろ森が近いな)
初めて動物の命を狩ると思うと、緊張で心臓が鳴る。
僕は深呼吸をした。




