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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第2章

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第9話 家庭教師がやってきた

 そうして瞬く間に月日が流れ、僕はとうとう五歳になった。

 先日、久しぶりに顔を見せた父から。

「リウイもそろそろ専属の家庭教師を付ける歳になったな」

 と言われた。そして、その先生たちが今日やって来るらしい。

 先生たち、と複数なのは武術と学問、それぞれ担当がいるからだ。

「どんな先生が来るんだろう。楽しみだなぁ」

 できれば男性の先生がいい。女性だとどうしても打ち解けるまで時間が掛かりそうだからだ。

 もっとも、僕の家庭教師選びには姉さんたちがかなり口を出したらしい。

 ミリアリア姉さん曰く。

「あれは嫁選びをしている小姑そのもの」

 だそうだ。

 ありがたいと思うべきなのか、それとも過保護だと思うべきなのか。

 判断に困るところである。

 そんなことを考えながら、僕はそわそわと先生たちの到着を待っていた。

「リウイ、少しは落ち着きなよ」

 声を掛けてきたのは、最近僕の世話係になったメイドだ。

 茶色の髪をツインテールにまとめた、小柄で健康的な美少女。

 名前はアルティナ。

 長いので普段はティナと呼んでいる。

 彼女は僕の乳母の娘で、一ヶ月だけ僕より年上だ。

 つまり乳兄弟ならぬ乳姉弟ということになる。

 そのためか、何かとお姉さんぶることが多い。

 精神年齢で言えば僕の方がずっと上なのだが、わざわざ否定するのも大人げないので好きにさせていた。

 勝ち気で負けず嫌いな性格だ。

 両親は僕の情操教育も兼ねているのだろう。今年からティナは僕付きのメイドとなった。

 とはいえ年齢が年齢なので、本格的なメイド仕事は他の使用人たちが担当している。

 ティナの役目は、もっぱら僕の遊び相手だ。

 将来的には側近候補として教育を受けるのだろうが、本人は勉強よりも体を動かす方が好きらしく、よく勉強をさぼって遊んでいる。

「まったく。罠に掛かった子狸みたいにうろうろして、みっともないわよ」

 呆れたようにティナが言った。

 二人きりの時は敬語を使わなくていいと伝えてあるので、こうして気軽に話せるのは正直ありがたい。

「そうかな。でも、どんな人が来るのか気にならない?」

「全然」

 ティナは即答した。

「あんたの先生だもん。興味あるわけないじゃない」

「うーん、言われてみれば確かに」

 たぶんティナ自身の先生が来る時でも、同じことを言いそうだ。

 そう思うと少し可笑しくて、僕は内心で苦笑した。

 その時だった。

 コンコン。

 部屋のドアがノックされた。

「どなたですか?」

 ティナが扉越しに声を掛ける。

『本日、リウイ様の家庭教師として参りました者です。入室してもよろしいでしょうか?』

 ようやく来た。

 だが、どこか聞き覚えのある声だ。

 ティナがどうするのかと僕を見たので、僕は頷いた。

「どうぞ」

 扉が開く。

 そして姿を現したのは。

「イザドラ姉さん?」

 なんとイザドラ姉さんだった。

「はい。お姉さんですよ。おはよう、リウイ」

 そう言うなり、イザドラ姉さんは僕を抱き締めた。

「わぷっ」

 返事をする間もなく顔が豊かな胸元に埋まり、息が苦しくなる。

「ん〜、相変わらず良い手触りですねぇ」

 姉さんはご満悦の様子で僕の頭を撫でていた。

 このままでは窒息してしまう。

 僕はなんとか顔を上げた。

「どうして姉さんが、僕の家庭教師として来たの?」

「ああ、それはですね」

 イザドラ姉さんはにっこりと微笑んだ。

「リウイの家庭教師は、わたしが担当することになったからです」

 そして得意げに胸を張る。

 その言葉を聞いて、僕は少しだけがっかりした。

 どんな先生が来るのか密かに楽しみにしていたからだ。

「あら? 反応が薄いですね……もしかして、リウイはお姉ちゃんが先生なのは嫌ですか?」

 姉さんの顔が一瞬で曇る。

 まるで世界の終わりを迎えたかのような表情だった。

「そ、そんなことないよ! う、うれしいなぁ! イザドラ姉さんが先生でうれしいなぁ!」

 慌てて首を横に振る。

 多少わざとらしかった気もするが、それでも姉さんは花が咲いたような笑顔になった。

「そうですか! リウイは嬉しいですか! よかったぁ」

 ほっと息を吐くイザドラ姉さん。

 だが次の瞬間、

「というのは冗談です。ちゃんと家庭教師を連れて来ましたよ」

「えっ?」

 僕は思わず目を丸くした。

 本気で信じていた。

「まぁ、本当はわたしがやるつもりだったんですけどね。姉さんと父上に止められたので泣く泣く諦めましたが」

 姉さんは小声でそう付け加えた。

 父さん、ロゼティータ姉さん。

 本当にありがとう。

「さて、そろそろ入って来なさい」

 イザドラ姉さんが扉の方へ声を掛ける。

 すると外で待機していた男女二人が部屋へ入って来た。

「「お初にお目に掛かります。リウイ王子殿下」」

 二人は恭しく礼をした。

 僕も軽く会釈を返す。

「まずはこちらの方が、武術担当のヨアヒム・シュナイダーです」

 紹介された男性が顔を上げた。

 耳の上には小さな黒い角。

 彫りの深い顔立ちに、白いものが混じり始めた口髭。

 いかにも歴戦の勇士といった風格を感じさせる。

「王子殿下には護身術、騎乗術、弓術などをお教えいたします。何卒よろしくお願いいたします」

「この者は我が国を代表する歴戦の宿将です。きっと学ぶことも多いでしょう」

「宿将とは大げさです。ただ運よく生き残った老兵ですよ」

 謙遜するその姿に、僕は好感を覚えた。

「先生、よろしくお願いします」

 僕は頭を下げた。

「はっ、こちらこそよろしくお願いいたします」

「そしてこちらが学問担当のメルビーナです」

 次に紹介された女性には角がなかった。

 その代わり、白目が黒く、澄んだ青い瞳が印象的だった。

 腰まで届く薄緑色の髪。

 左目にはモノクル。

 知性と妖艶さを併せ持った美しい女性だ。

「王子様の学問、教養、そして魔法を担当いたします。これからよろしくお願いいたします」

「メルビーナは元々わたしの部下でした。知識も教養も豊富ですから、たくさん学びなさい」

「はい、分かりました」

 僕は改めてメルビーナ先生へ向き直った。

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします、王子様」

 今日は顔合わせだけだったため、挨拶を終えると二人はすぐに退室していった。

 本格的な授業は明日から始まるらしい。

「よしっ、頑張るぞ!」

 新しい先生たちとの毎日が、今から楽しみだった。

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