第11話 ダンスを始めて踊る
宴は僕たちを歓迎するために開かれたので、主賓であるクラスメート達は瞬く間に貴婦人達に捕まってしまった。
ちなみに僕は捕まらなかった。
まぁ、知らない女の人に取り囲まれたら、どう対処したらいいか分からないので、良いと思うことにした。
別に、他のクラスメート達が女性に取り囲まれていても、羨ましいなんて思ってないんだ!
僕は何かの果物で味付けされた水を飲みながら、この宴にいる人達の様子を窺う。
(早く部屋に戻って眠りたいな。でも、一応僕も主賓なんだから、僕が先にこの広間を出ると失礼になるよな。はぁ〜)
壁の花になった僕は、貴婦人達が集まるクラスメート達を見ながら、水を飲む。
このまま宴が終わるまでこうしていようかなと思っていたら、男性が一人近寄ってきた。
「おや、貴方は召喚された異世界人なのに、なぜこんな所にいるのですかな?」
中肉中背で、茶髪を肩口で切り揃えた平凡な顔の人が話しかけてきた。
「あの、失礼ですが、貴方は?」
「これは失礼。わたしはエゼキエル・フォン・アスクレイと申す。以後お見知りおきを」
「フォン? ということは、貴族様でしょうか?」
「左様。わたしの家は侯爵家である」
「こうしゃく? 公の方ですか? それとも候……いや、違う、もう一つの方ですか?」
「もう一つの方ですな」
「そうですか。それと先程から失礼な態度を取りまして、ご容赦ください。何分、この世界に来て日が浅いので、ご寛恕のほどを」
「いやいや、気にしないで結構。貴方たちは我らと違う世界から来たのだから、文化も風習も違って当然のことだ」
「ご理解いただきありがとうございます」
僕は頭を下げる。
「それよりも、貴殿はどうしてこんな所に? 貴方のお仲間は先程から御婦人方に取り囲まれているというのに」
「どうも、僕はああいうのに慣れていなくて・・・・・・」」
苦笑しながら告げる。
改めて、女性に取り囲まれているクラスメート達を見る。
よく見ると、北畠君が女性の輪に入ろうとしているが、入れず、しまいには邪魔者扱いされて突き飛ばされていた。
それでも諦めずに入ろうとしていたが、できず、最後には静かに広間から出て行った。
その様子を誰も見ていないので、余計に哀れだった。
「・・・・・・僕もそろそろ部屋に行こうかな」
「まぁまぁ、そう言わず、もう少し話でもしようではないですか。そうだ、そちらの世界のことを少し話していただけないでしょうか」
「えっ、僕たちのいた世界のことですか?」
「はい。どのような世界で、どんな文化なのか話していただけないでしょうか」
う〜ん、話してもいいのかな?
こっちの技術のことを話したら、色々なことが台無しになりそうな気がするな。
でも、いずれクラスの誰かが話すだろうし、悩むな。
少し悩んだ結果、僕が説明できる範囲で話すことにした。
「分かりました。僕が説明できることなら、何でも話します」
「おお、ありがたい」
「じゃあ、まずは僕の国の政治体制とか歴史をお話します」
「お願いします」
僕はこのエゼキエルという人に話し始めた。
話す途中で、エゼキエルさんが「なぜそうなったのか」と聞いてくるが、僕は丁寧に説明した。
それで話していると、この人と話すのが面白くて、ついつい話し込んでしまった。
「なるほど、民主主義とはそのような考えなのですね」
「ええ。民主主義のほかにも資本主義、社会主義、共産主義、あとは自由主義などがあります」
「主義と一言で言っても、色々とあるのですな」
「そうですね。人一人、考え方はそれぞれ違うというのがよく分かります」
「話を聞いていたら、そう思えますな。他に何かありますかな?」
「他には――」
「あら、普段はこのような宴の席では壁の花になっているアスクレイ侯爵が。誰かと真剣に話しているところなど久しぶりに見ますね」
女性の声が聞こえたので、僕達は振り返る。
そこには、女性の取り巻きを連れた金髪の女性がいた。髪は腰まで伸び、着ているドレスには胸や肩に金属のパーツが組み込まれている。
さらに篭手に脚甲まで着けている。騎士だろうか?
加えて、なぜか仮面を被っていた。おかげで顔がよく見えない。
「こ、これは姫様。お早いご帰還で。このエゼキエル、心よりお待ちしておりました」
「それはありがたい。それで、そちの隣にいるのが?」
「ええ、異世界から来た同胞です」
「そうか」
姫様と呼ばれた女性は仮面越しに僕を見る。
仮面の奥に見える目には、何か怒りのようなものが宿っているように見えた。
「こちらは我が国の第一王女であらせられる、アウラ・エクセラ・ロンディバルア様です」
「初めまして、僕は――」
名前を言おうとした瞬間、広間に流れる音楽が変わった。
それと同時に、広間の中央で誰かが踊り出す。
「舞踏会もするのか。僕は踊ったことないな」
「いかがです。姫様と踊るというのは?」
「えっ⁉ でも」
「姫様もたまには踊られませんと、ステップを忘れるかもしれませんからな」
エゼキエルさんはカラカラと笑いながら言う。
この人、王女様に何と言う事を言うんだ。
「侯爵、流石に失礼ですよ!」
取り巻きの一人がそう言うが、
「わたしは構わん」
姫様がそう言うと、取り巻き達は驚いた顔をした。
「姫様⁉」
「よい。たまには誰かと踊るのも、良い余興になろう」
姫様は手を前に出す。
「さて、異世界から来た同胞よ。踊っていただけるかな?」
何か試されている気がするけど……まぁいいや。
僕は姫様の手を取る。
「無作法者ですが、喜んで」
僕が手を取ると、姫は身体をビクンと震わせた。
「? どうかしました?」
「いや、別に。そなた、名前は?」
「僕ですか。僕は猪田信康と申します」
「イノータ・ノブヤスか……覚えておこう」
姫は僕の手を引き、広間の中央へ向かう。
こうして、僕達は広間の中央で踊ることになった。




